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性別を考える

『性と進化の秘密』(団まりな、角川ソフィア文庫)を読んで、いろいろ考えさせられた。
昨日からずっとそのことを考えていたといってもいいくらいだ。
朝起きた時に、何か夢を見ていたようなのだが、性別が「上位概念」として、その「下位概念」は何かを夢の中の私は追及していたようだ。

夢の残滓をつなぎ合わせると、以下のようになるだろうか?

35億年ほど昔の原始地球の渚(なぎさ)で生物らしきものが、無機物から生まれた…それは偶然の賜物だったのかもしれない。

原核生物とこんにち呼ばれる、一本の核酸遺伝子の入れ物(核)だけで栄養を代謝し、子孫を殖やしていく「生物」が生まれたのである。
原核生物が生物たるゆえんは、一本の核酸(DNAまたはRNA)が子孫に伝えるべき設計図、つまり遺伝情報を遺伝子として保存していることだ。
遺伝情報を「読み」そして「複製する」ことができるのは「生物」が「無生物」と大きく異なるところなのであった。
ただそのことのためだけに「生きる」のが生物であり、食べて排泄することを二次的に営むのである。
それらを含めて「生物」の定義が学問的になされるのは、異論のない所だろう。

この一連の生物としての営みをする場所として核があり、その構造物としてタンパク質が使われ、また栄養分として糖が利用される。

生れたばかりの原核生物は、窒素源があればほぼ永遠に生き続けたらしい。明確な死が訪れなかっただろうと推測されている。
しかし、環境の変化は突然に起こる。
窒素源の枯渇である。窒素が無くては原核生物の体を作るタンパク質の原料のアミノ酸を作ることができないからだ。
この危機に、原核生物は互いを合体させて養分を節約しようとした。
そのとき、一本だったDNAは二本になった。n→2n(ハプロイド細胞→ディプロイド細胞)へのジャンプである。

私たちのほとんどの地球の生物の遺伝子が2nであるか、その倍体、あるいは何倍体という形になっている。つまり偶数の対になっている。
もし奇数の遺伝子対のものがあれば、生殖能力がないはずだ(F1作物)。

実は2nのままさらに合体が進むと遺伝情報は倍々ゲームで増加し、入れ物が破裂してしまう。
また一本だけのハプロイド細胞が増殖するのに、遺伝子を半分にすることは細胞死を招く。
だから、他者と合体せずには生き延びることができないのであった。

そこでディプロイド細胞(2n)に減数分裂という生殖細胞が生まれる。
原核生物より高等な細胞膜や細胞質を具えた単細胞生物以上の生物は、増えるときに減数分裂した遺伝情報を互いに合わせる。
n+n=2nとして、一個の新しい個体を産み出すのである。
これだけの生殖なら雌雄の区別など必要がなく、雌雄同体が普通である。

クラミドモナスという藻類には雌雄の区別はないが、近親交配を避ける識別をちゃんと持っているらしい。
近親交配タブーは原始的な生物生存のためのドグマといえようか。

なぜ雌雄の区別が生まれたのかが、この後の議論の的になる。
生物は必ず他者と交配せねば子孫を残せないことは上に述べた通りである。
その交配のためには自分の遺伝子が最低でも2nでなければならないのは、減数分裂(n)で遺伝情報を提供しないと、遺伝情報が倍々ゲームになって核が破裂してしまうからだ。
遺伝情報は2nを二つに割ってもコピーが正確に残るから、ちゃんと次世代に伝達される。

ここにA個体とB個体がであって交接するとしよう。
どちらにも雌雄の区別はない。
いずれの個体も自分のnの遺伝子を出し合う。
ゾウリムシのような原生動物ならそれでも子孫は繁栄するだろう。
ところが、多細胞生物になると受精から卵割というエネルギーを要する作業が待っている。
ゆえに、卵子という栄養分を蓄えた遺伝情報の入れ物を用意する必要が出てきた。
もう一方の遺伝子の入れ物にも栄養分を持たせれば、十二分のエネルギーを供給できるが、生物はその方法を取らなかった。
もう一方の遺伝子の入れ物にはぜい肉をそぎ落とし、運動能力を与えたのである。
そうしないと、卵子のような動けない巨大な遺伝子の入れ物に、動けないほどの大きな精子が出会う確率は極めて低いからだ。
ゆえに、一方の遺伝子の入れ物(精子)には運動能力を与えるために、最低限の遺伝子の入れ物と鞭毛と分子モーターを与えたのである。

これを名付けるとしたら卵子を提供する個体をメス、精子を提供する個体オスとしただけのことである。
もちろん、この異なる生殖細胞を育むためには個体の体の構造も変えて行かねばならない。
水棲から両棲、陸生へと住処(すみか)を変えていった生物の進化の過程で、産み育てる方法も環境に合わせていっただろう。そうしないと繁栄できないからだ。
水の存在は繁殖の過程でとても大きい。地球の大きな重力の影響を受けない海水中で、有害な紫外線もカットされる環境で原始生物は進化の助走を始めた。
海水は天然の羊水となった。私たちの羊水が海水と似ているのはそのためだ。
しかし、陸に上がらねばならない環境の激変が訪れる。それでも浅い水際でなんとか生き延びる生物も生れた。両生類だ。
彼らは卵を変化させた。粘液やゼリーで卵を包むのだ。
とはいえ完全に陸に上がれば水はない。硬い殻と卵白(緩衝材+水タンク)を具えた卵を産む必要があった。殻は硬すぎると幼生が出てこられないし、割れやすいと卵が死んでしまう。

卵生から卵割、盤割(鳥類やカモノハシ)を経て、胎生で胎盤を持つ哺乳類へと進化したのは、生物の多岐にわたる繁殖の要請からである。

ここまでくると、雌雄の区別ははっきりし、性ホルモンは雌雄の体のつくりまで変えてしまうのだった。

運動能力を犠牲にして受精後の栄養補給に重点を置いた「卵子」と、運動能力に特化した「精子」という二つの遺伝子の入れ物ができたことで、高等な多細胞生物が繁茂するあるいは、繁栄する結果になったわけだ。
だから雌雄の区別ができたと結論できる。

私の見た夢はまとめるとこのようなことになるだろう。

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