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こだわる

モノにこだわることに、若い頃の私は興味を抱かないというか、どうでもいいとさえ思っていた。

しかし、四十を過ぎて化学系研究員から機械工に生業(なりわい)を変えて十数年、現場の人との交わりの中で、工具へのこだわり、はたまた喫煙具や酒へのこだわりを伺うにつけ「いいものだな」と思うようになった。

なんというか、成熟した大人のたしなみ、みたいな…

かまやつひろしの『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』の歌詞にあるようにね。

いわゆる「男の美学」が「モノへのこだわり」に昇華されるというのだろうか?そう私は勝手に理解しているけれど、女がジュエリーやバッグにこだわるのとは、少し違うような気もする。

かくいう私は、子供のころから男の子たちの世界に身を置いていたので、どちらかというと「男のこだわり」に共感できるほうである。

リトルリーグでのグラブへのこだわりとか、プラモデルに夢中になっていたときのカッターナイフやピンセットやニッパーへのこだわりとか、アマチュア無線における電鍵やテスターへのこだわりなどがそうだ。

大学生になって、たばこを覚えたり、酒の席に臨んだりするうち、ジッポのライターが欲しくなったりした。たとえば、フリントとオイルをライターとセットで買って、おもしろがっていたものだ。そのジッポは今も手元にある。今では仕事でアルコールランプに火をつけるときなどに使うくらいだけれど。

私は計算尺世代の最終組で、関数電卓は背伸びすれば買えなくもなかったが、まだまだ高嶺の花だった。大学の前・後期試験では関数電卓の持ち込みがOKだったので、私は計算尺を持ち込んだけれど、当時でも珍しがられた。乗除に使うのではなく(概算しかできない)、対数と平方根を出すのに使っていた。三角関数も使えるけれど、化学の学部では出番がないのだった。

計算尺とそろばん

この計算尺もこだわりの品として今も大事にしている。私のは「ヘンミ」というメーカーの製品で、同居していた叔父から譲り受けたもので、当時、計算尺のトップメーカーだったらしい。私は、本式の20㎝以上の長さのものと、ポケットに入る15㎝ほどのものを持っている。ポケットタイプでもC,CI尺、A,B,D尺があるので、十分使用に耐えるのである。日本は良い竹を産するので、この竹を利用した精度の高い計算尺を作ることができたそうで、世界でも日本製の計算尺は重宝がられたらしい。

計算尺とともに私が今も使っているのは算盤(そろばん)である。家計簿をつけるときには「雲州堂」のツゲ玉算盤を使っている。手入れの粉も持っていて、大事に使っている。私は小学生の頃、そろばん塾に漫画を読むために通っていた不届き者だったが、3級までいって辞めた。※塾は三部制で、待合室が用意されており、大量の少年少女漫画雑誌が置いてあった。

機械工の話に戻るが、現場での工具には、会社支給品と自前のものがある。もちろん私など「しろうと」は支給品を使わせてもらうが、ベテランは自分の工具箱(トラスコ中山の立派なヤツ)を二つも、三つも持っていて、専用の台車に乗せてくるのだった。工具箱の中は整然と工具が並んでいて、まるで手術室か、フルコースのカトラリーのようだった。

工場の先輩に教えてもらった「一流ブランド」は、ノギスならミツトヨ、六角レンチセットはPB(スイスの会社)、ニッパーはフジヤだった。半田ごても八光(はっこう)とホーザンだったが、これはアマチュア無線家の間でも同じ評価だった。圧着端子の工具は顧客の指定工具もあったりして、だいたいニチフやウシヤマ、ミノルが選ばれるが、モレックスの圧着部品にはモレックスの工具(バカ高い)を指定されるので、会社で買ってもらわねばならなかった。もっともPBの六角レンチセットでさえ8,000~10,000円もするのだから、凝りだすと大変である。工具の世界はこだわりが強い。料理人が包丁にうるさいのに通じるようだった。

こうして振り返ると、私もたしかに「こだわって」いたのかもしれない。今も大事に持っているものもあるから。

たとえば硯(すずり)は岩手県の雄勝(おがつ)の粘板岩のものを敢えて買い求めたりするから、こだわっていると思う。万年筆も開高健がモンブランを使っていたと知るや、わざわざ丸善まで行って買った。開高健の影響は私にとって大きく、ウィスキーも、たばこも彼の影響だと言える。もっとも小さい頃から、父がサントリーのダルマ(オールド)で晩酌していた記憶も手伝っているかもしれない。開高が生きていたら間違いなくノーベル文学賞を受賞していただろうと、私は信じている。

開高健ベトナム

ラジオをこよなく愛する私だが、中学時代にBCLをやっていたこともあってラジオはソニーを選んでしまう。「耳がいい」と評されるソニーのラジオは、選択度が優れているのだ。近接局を精度よく分離するので、結果的に感度が良くなるのである。また音響メーカーでもあるからスピーカーの質が高い。現在、大中小、4台のソニーのラジオを使い分けているのもこだわりと言えるだろうか?

ラジオお時間



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