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海外VC・スタートアップ・メディアの間で炎上中の「Tech vs Media」議論。
先週末、私の Twitter は東京都知事選に関してフィードがあふれていた中、海外では別の議論が炎上していました。
「Tech vs Media」。
過去にもこの論争はシリコンバレーのスタートアップやVCの業界で繰り広げられてきましたが、今回は知らないうちに「Tech vs Media」の議論が今まで以上に大きくなっているようです。
あまりにも勢いよく炎上しているようなので、何が起きているのか、ざっと調べてみました。
何が起きたのか、時系列で追ってみた
7月1日:旅行用スーツケースD2Cスタートアップ Away の CEO, Stephanie Korey が自信のインスタグラムのストーリーを更新。ある質問に答えていたその内容がきっかけでした。
質問:「なぜ女性は標的になるのでしょうか。そして誰が女性を標的にしているのでしょうか?」
この回答にて、ジャーナリズムの収益モデルが変わったことにより、よりクリック数が増えるコンテンツをネタとして取り扱うようになり、そして特に「女性を標的したコンテンツ」はこのネタになりがちであることに言及。ジャーナリズムを批判。(ただし最後に「ジャーナリスト全員のことを言っているわけではない」と記載している)
この発言の背景には、こちらAwayに関する記事が関連していると見られます。Awayの組織カルチャー等が批判され、Koreyはこの時点で一度CEOから退任しています(今年から復帰しましたが)。この関連の可能性についてはThe Vergeのこの記事に言及されていました。
同日:New York Times 記者のTaylor Lorenz が Korey のストーリーのスクショを添付し、彼女を批判。メディアに関して "ranting on IG stories" (「インスタのストーリー上でワーワー騒いでいる」)と言い、ジャーナリズム業界に関して全く知識がないくせに、と批判。
Steph Korey, the disgraced former CEO of Away luggage company, is ranting on IG stories about the media. Her posts are incoherent and it’s dissapointing to see a woman who ran a luggage brand perpetuate falsehoods like this abt an industry she clearly has 0 understanding of pic.twitter.com/pjF3UCXbI4
— Taylor Lorenz (@TaylorLorenz) July 1, 2020
のちに、このツイートが Balaji Srinivasan の目に留まります。Srinivasan はCoinbase の元CTO、Andreessen Horowitzの元GPであり、現在はエンジェル投資家などスタートアップ業界ではアクティブな存在です。彼は Lorenz のツイートを引用し、このように批判。
Taylor Lorenz, the disgraceful current journalist at the New York Times Company, is ranting on Twitter about tech again. Her posts are incoherent, but it's unsurprising to see tech "journalists" perpetuate falsehoods about an industry they have 0 understanding of 😄 pic.twitter.com/1i8C9cWkAL
— Balaji S. Srinivasan (@balajis) July 1, 2020
今度は Lorenz の言葉そのまんまを彼女に返します。(Tech業界について)全く知識がないくせに、「ジャーナリスト」ぶって嘘を言いふらす、と。
※ちなみに日本語で意訳しておりきつめの表現になっていますが、実際、英語でもかなりの sarcasm(皮肉)をこめて書いており、結構お互いに攻撃的です。
ここから Lorenz と Srinivasan の間で激しいツイッター論争が始まり、注目を浴びます。
同日夜:クローズドなコミュニティで最近話題の Clubhouse アプリで、上記の議論に関する対話が起きます。
Srinivasan、他複数 a16z のベンチャーキャピタリスト、そしてTVパーソナリティの Roland Martin が参加し、1時間ほど対談。会話の中では、ジャーナリズムの圧力が「人々をかき消す力さえある」こと、そして彼らのようなシリコンバレーのプレイヤーたちに何ができるか、など話をされていたとのことです。
そしてこちらの Clubhouse の音源が、外部メディアに漏れます。
Someone leaked an hour of audio from Clubhouse last night where Balajis, Felicia Horowitz, and others were talking ahout the media. It's disgusting what these people will say when they think no one is listening. https://t.co/wE9Q0BVM2M
— Taylor Lorenz (@TaylorLorenz) July 2, 2020
個人攻撃が広まり、 "dox" という言葉が流行る
さて、ここから議論がどんどん炎上します。
私自身全く追えていませんし、追い続けようとは思いませんが、どうやらここから当事者たち以外にも、VC業界の人たちや起業家、ジャーナリストたちが巻き込まれ、ツイッターなどで様々な攻撃的なメッセージを受けるようになったようです。下記 Jason Calacanis のツイートからもわかるように、結構すごい勢いで個人攻撃が広まっているようです。(Jason Calacanis は "This Week In Startups" という Podcast もやっており、私も時々聞いて楽しんでいたので、彼がこういうツイートをしていて悲しくなりました。)
Sad to unfollow everyone, but don't want you to be doxed like I was this weekend. Will be moving you all to private lists & read your tweets there.
— jason@calacanis.com (@Jason) July 6, 2020
Also, I don't want to complain about being doxed, as I know women/POC/etc. deal with this 100x the rate I do.
Love to you all.
(しばらくしたら鍵垢にされる可能性あるみたいなので、スクショも貼っておきます)
ちなみに、彼のツイートでも書かれていますが、"dox"というインターネットスラングが流行り始めています。dox とは、個人攻撃のためにネットで特定の人の個人情報を漁って晒すことを指します。動詞です。
この議論のなにが複雑なのか
今回のこの議論は、単純に「テック系スタートアップ&VC」と「メディア」の対立だけではありません。この一連の議論の流れには、
- 女性差別問題(Korey, Lorenz が女性であり、「女性が、女性差別でもないのに『女性差別である』と声を上げている」と批判している等)
- 人種差別問題(SrinivasanがLorenzに対し「黒人が言っているから怖いのか?」などと言及)
- エリート視点(Clubhouse もエリートが集まっている、VC業界もエリートと言われている、エリートたちがこう反応している、など)
- (個人)情報漏洩("doxing" - 個人攻撃が増えている、Clubhouse の音源が漏洩されている)
- ジャーナリズムのあり方(「弱者の美味しいネタ」を活用している?収益性?本来の報道とは?)
など、本当に多くの要素が混ざっており、それぞれが批判を呼び寄せており、議論は複雑化しています。
今、世間が Black Lives Matter 運動などで差別やダイバーシティのテーマに敏感になっている中、その傷をえぐるような出来事となってしまったようです。
また、今回は代表的なSNSである Twitter、Instagram に加え、最近話題の Clubhouse までが論争現場となり、オンラインでの議論の膨らみ方はどんどん進化しています。
もっと詳しく知りたい方に
英語のみとなりますが、記事をまとめましたので詳細はこれらをご覧ください。
全体の流れがわかるのはこちら
ジャーナリズム寄りの視点はこちら
Clubhouse での詳細はこちら
一番端的に(そして淡々と)まとめているかもしれない記事
最後に:再退任となるAway CEO、そして議論の行方は
今回の論争の発端となったAway CEO の Korey は、今回の論争が起きたこともあり、今年いっぱいでCEOを改めて退任する意向を示しています。
Tech vs Media の議論は今回だけではありません。これまでも、メディアがスタートアップの内情を晒した出来事はあり(過去のTheranos 事件など)、メディアも必要なプレイヤーである一方、その取材の限度や表現の仕方にはより一層厳しい目を向けられ、慎重にならざるを得ないでしょう。同時にスタートアップ・VC側も、ダイバーシティの欠如などで批判されることも多く、闇も深い業界と言えるかもしれません。双方の議論はこれからも続くでしょう。
今回世界中に広まった Black Lives Matter 運動でも見られるように、私たち個人も無意識に議論に加担している可能性は大いにあります。普段の言動を振り返り、どのようなスタンスで、どのような責任感で発言するのか、改めて考える良い機会です。