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JC再考――Mansur Brown
これまで、真空管サウンドのオルタナティブを考察してまいりました。
とりあえず、序論と結論だけ貼っておきます。
そのオルタナティブの一例として、ジャズコーラス(JC)を挙げました。
その中で、JCの特徴はピュアなクリーンであり、ギター・エフェクターの個性をそのままアウトプットできる、と結論づけました。
ただ、異常に普及しているアンプにしてはちょっと例が少なかったのも否めません。
今回、JCの特徴を引き出し素晴らしい演奏をしている新進気鋭のギタリストを紹介したいと思います。
Mansur Brown――冷たい「空間表現」
まず、ソロでのループ・パフォーマンスから。
後ろに思いっきりJC-120が写っているのが冒頭からわかると思います。
まず1分前後から、ギターが入ります。
飛び道具系の空間エフェクトマシマシの広がりのあるサウンドに。
次に2分13秒あたりから、空間系がかかりながらも冷たいクリーンサウンドになります。
4分25秒あたりから、また飛び道具系空間エフェクトが増えていきます。
どのタイミングを切り取っても、Mansur Brownのサウンドのキモは"空間系"といえるでしょう。
当面、この飛び道具的なものも含めた空間系のエフェクターによる表現を、「空間表現」と名付けたいと思います。
Mansur Brownのサウンドはかなりhi-fiで冷たい印象のある「空間表現」ではありませんか。
真空管アンプで「空間表現」は可能か
ここで何が言いたいかというと、
①真空管アンプでこれほどの冷たいサウンドが出せるか、
②真空管アンプでこれほど飛び道具系空間エフェクトがきれいにかかるか、
という点です。
私のワードで言えば、真空管アンプでMansur Brownのような"冷たい"「空間表現」は可能か、ということですね。
もちろん、空間系を歪ませないように、センド・リターンを用いてプリアンプの後ろに空間系を置く4ケーブルルーティングをすればあるいは、きれいに空間系エフェクトをならせるかもしれません。
ただし、自分で実験したわけではないのでなんともいえませんが、個人的には難しいと思います。
真空管の"おいしい"サウンド
真空管アンプのおいしいクリーンサウンドで「空間表現」を行うと考えてみましょう。
そのおいしいクリーンサウンドは、「真空管で歪むか歪まないかギリギリ」です。
もっと正確に言えば、明確に歪んでいるとはいえないが、真空管による倍音(偶数次倍音)が付加されているためキレイなクリーンです。
よく「真空管アンプはある程度の音量を出さないといい音にはならない」といいますが、これはおそらくパワー管の倍音をプラスしないといい音にはならないということでしょう。
真空管のおいしいクリーンサウンドで、4ケーブルルーティングで飛び道具系空間エフェクトを使うということは、パワー管の倍音がその空間エフェクトに乗るということになります。
これで果たして、Mansur Brownのようなhi-fiで"冷たい"「空間表現」が可能でしょうか?
やはり、JCこそベストでは
やはり、何も足さないJC-120だからこそ可能なのだと思います。
例えば、真空管サウンドによくつく形容詞として、"あたたかい"という言葉が挙げられます。
これは先ほどもあったような、真空管で倍音が付加されているからだと思われます。
そういった倍音が豊かであたたかい音の真空管アンプで、こういった冷たい「空間表現」をするのは難しいといわざるをえません。
歪みはどうなんだよ問題
なるほど、クリーンならJC使って、歪みは真空管アンプを使えばよいのだな!という考えは早合点です。
もう一本、聞いていただきましょう。
前半部くらいはおおむね1つ目と同じ「空間表現」ですね。
後半部(4:28あたり)、盛り上がって来てからのギターソロでは「空間表現」の奥に歪んだサウンドがたまらないですね。
歪み、と言っても薄いクランチ程度ではありますが、その上にオクターバー(POG2かな?)や空間系が乗っているサウンドはなかなかイカすとは思いませんか?
個人的には、全く"アンプライク"とは違う響きなのもグッときます。
こういったソリッドな歪み +「空間表現」も、真空管サウンドのオルタナティブになりうる"歪み"サウンドではないでしょうか。
「ピッキングニュアンス」神話
さて、ここでもうひとつ注目していただきたいのが、ピッキングニュアンスです。
真空管のメリットとして、良く挙げられるのが「ピッキングニュアンス」です。
過激派の人は、真空管アンプじゃないと「ピッキングニュアンス」は出ない、とまでおっしゃられていたり。
この「ピッキングニュアンス」って要するに、強く弾けば歪み、弱く弾けばクリーン、ということですよね?
でもそれ以外の意味も含めてピッキングニュアンスを考えてもよいのではないでしょうか?
つまり、Mansur Brownをもう一度、聞いていただきたいのです。
彼が飛び道具系空間エフェクトマシマシの音で弾いている時(1~2分くらい)は極力アタックを抑えて弾いているのが分かります。
そして、その後の空間系がかかりながらも冷たいクリーンサウンドではむしろアタックを強調しています。
その中でも、3:48あたりは必見です。
アタックのはっきりした音から、アタックを抑えた滑らかな音までクリーンなままでシフトしていく。
こういった意味でのクリーントーンでの、クリーントーンでしかできないピッキングニュアンスもあるはずです。
このMansur Brownのような表現をするには、強く弾けば歪む、という真空管の特性は邪魔になりそうです。
アタックだけが強く歪んでしまいますからね。
結論:Mansur Brownカッケェな。
結局、Mansur Brownが素晴らしいギタリストであることは間違いありません。
そしてそんな彼がJC-120を愛用しているという事実。
そのJC-120から出る冷たい「空間表現」。
このサウンドをカッコイイと思うなら、いちど真空管から離れてみてもよいのではないでしょうか。