ベンチャー企業の資金調達について考える -金融機関(デット)調達と資本(エクイティ)調達について-
こんにちは!
ベンチャー経営管理フォーラムのさいとうです。
今回は、ベンチャー企業の「血液」ともいえる資金。
その調達方法について考えてみたいと思います。
ベンチャー企業は素晴らしいアイディアが先行し、それを形にし、市場に投入するために、ヒト・モノ・カネが必要とされます。
中でもカネについてはアイディアを市場に投入し、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)して売上がしっかり立つまでの間、何としても繋いでゆかなくてはならないヒト・モノと同じく重要な要素の一つです。
また、PMF後も、その事業を拡大してゆくために新たな資金が必要となります。
いずれにせよ、ベンチャー企業にとって資金調達は切っても切り離せない、重要な経営課題ということができます。
金融機関(デット)調達、資本(エクイティ)調達の双方について大枠を解説したいと思います。
ベンチャー企業の資金需要
ベンチャー企業にとっては①創業期、②PMF前、③PMF後の、3つのステージで資金調達が必要です。
まずは3つのステージで、どのような資金が必要となるか?考えてみたいと思います。
創業期の資金需要
個人事業主としてスタートする場合でも、合同会社や株式会社を設立して事業をスタートする場合でも、「創業期」においては、事業をはじめるための準備資金が必要です。
例えば、オフィスを借りる賃借料や、初期メンバーに支払う人件費。
物販事業であれば最初の仕入れ資金。
開発系の事業であれば、サーバー代や研究開発資金。
などなど。
この段階ではまったくお金を生まないものに対して資金を投じる必要があります。
後ほどご説明しますが、この創業期の資金については、起業家の自己資金を投じるパターンや、エンジェル投資家と呼ばれる人々から出資してもらうパターン。
または、日本政策金融公庫や都道府県や市区町村の創業制度融資を活用して調達することが一般的です。
PMF前の資金需要
創業期を乗り越え、少なからず売り上げが立ち始めたとしても、まだまだ費用が先行する時期がPMF(プロダクト・マーケット・フィット)前の段階です。
この時期は主に、メンバーの人件費や、オフィス賃料といった経費。
そして、「運転資金」と呼ばれる資金需要が大きくベンチャー企業にのしかかります。
「運転資金」については、このベンチャー経営管理フォーラムで別途、「資金使途について」というタイトルで詳しくご説明しますが、仕入れて、在庫して、売って、資金回収するまでの間のタイムラグに生じる資金需要だと思っていただければOKです。
このPMF前の資金需要については信用保証協会(マル保)付き融資の活用や、ベンチャーキャピタル(VC)や事業会社(CVC)からの資本調達といった手段で資金調達することが一般的です。
PMF後の資金需要
なんとか起業家のアイディアが市場に受け入れられ、順調に売り上げが成長する時期です。
一見、順風満帆に見えますが、この時期においても多くの資金需要が発生します。
金額で言ったら、このPMF後の資金需要が最も大きな金額となることも多々あります。
では、この時期、どのような資金需要が発生するのでしょうか?
それは、先ほどの「運転資金」ですが、売上の増加と並行して、「増加運転資金」と呼ばれる多額の資金が必要となることが一般的です。
また、将来の事業拡張を前提とした人材採用、オフィスの増床、研究開発の強化などなど、まさに事業の勝負どころであるこの時期は多額の資金需要が発生します。
このPMF後の資金需要については、金融機関のプロパー融資の活用や、先ほどと同様、VC(ベンチャーキャピタル)や事業会社(CVC)からの資本調達を行うことで対応することが一般的です。
金融機関調達(デット調達)について
以下、ベンチャー企業が採り得る資金調達の選択肢について考えます。
まず資金調達と聞いて頭に浮かぶのは、銀行借り入れを中心とした金融機関借入ではないでしょうか?
このような金融機関借入のことを、別に「デット調達」と呼ぶこともあります。
デットは貸借対照表(バランスシート:B/S)の右上に短期借入金や長期借入金といった科目で計上されるもので、またの別名、「他人資本」とも呼ばれます。
他人からお金を借りてくるので、このデットの特徴は、「返済する必要がある」という点です。
一般的には元金均等返済という、借り入れた金額(=元金)を36等分(3年)、や60等分(5年)などに分割し、毎月均等に返済してゆきます。
または、期限一括返済といって、約束した期日に、元金を全額返済するといった借り方もあります。
ここでは金融機関調達(デット調達)について、以下の3つのパターンについてご説明します。
創業融資
まずは創業融資です。
創業融資とは、まさに先ほどの創業期に必要な資金を少額で融資してくれるもので、日本政策金融公庫の創業融資や、都道府県、市区町村と連携した制度融資などがあります。
銀行や信用金庫などの金融機関の窓口に相談するか、日本政策金融公庫に赴くか。
または、行政が運営している起業窓口などにお問合せしてみるとよいと思います。
信用保証協会保証付き借り入れ
次に信用保証協会保証付き借り入れ。
通常、「マル保付き」融資などと言ったりします。
信用保証協会は公的機関で、民間金融機関の融資の保証を行うことで、主に創業期の会社や中小企業が資金調達しやすい環境を提供しています。
金融機関にとっても、創業間もない会社や、規模の小さい会社への融資は、返済が滞ったり、返済ができなくなってしまうリスクがありますが、信用保証協会に保証してもらうことで、金融機関のりすくを減らすことができ、融資しやすくなります。
マル保付き融資は、民間金融機関との取引開始のキッカケとなることも多く、マル保付き融資で取引の「実績」を作ることで、次に説明するプロパー融資につなげてゆくことが一般的です。
マル保付き融資の利用については、民間金融機関の窓口に融資申し込みを行い、金融機関職員の方と一緒に資金調達について考えてゆく中で、提案されることが多いと思います。
まずは、金融機関にご相談してみましょう。
プロパー融資
最後にプロパー借り入れについてご説明します。
プロパー借り入れは、金融機関独自の融資だと思ってください。
金融機関が厳格に審査を行い、金融機関が返済不能などの信用リスクを背負い、会社に対して融資を行うものです。
金融機関のメインの業務が「融資業務」であるのであれば、金融機関の本業と言えば本業なのですが、リスクを多く背負うという点では、もっともハードルの高い融資形態ということができます。
資本(エクイティ)調達について
次に資本調達についてみてみましょう。
金融機関借入をデット調達とも呼ぶのに対し、資本調達はエクイティ調達とも呼ばれることがあります。
エクイティ調達は貸借対照表(バランスシート:B/S)の右下に、資本金や資本準備金として計上されるもので、先ほどのデット調達が「他人資本」と呼ばれたのに対し、エクイティは「自己資本」と呼ばれることがあります。
他人資本は返済の義務があったのに対し、自己資本は「自分の資本(=お金)」なので、返済の義務はありません。
エクイティ調達の出し手が第三者(他人)であることもあるのに対し、「自己資本」という言葉を使うのに違和感を感じる人もいるかもしれませんが、エクイティ調達の場合、会社の株式の一定割合を第三者に割り当てるという行為を取り、ある意味、会社の社長さんと同様、会社のオーナーの一人になるという特徴があります。
金融機関から資金を調達しても株式を渡すことはありませんが、エクイティ調達の場合は株式を渡すという特殊な行為があるので、その行為の対価として得るお金は、会社にとっては自分のお金としてみることができ、「自己資本」と呼ばれるようになるわけです。
エクイティ調達の資金は返済の義務はありませんが、資金を投入する「投資家」は何を求めて資金を提供するのでしょうか?
一般的に、配当などの「インカムゲイン」と呼ばれる収入。
または、株式上場(IPO)することや、M&Aで売却することで得られる「値上がり益」である「キャピタルゲイン」と呼ばれる収入を得ることを期待しています。
従って、エクイティ調達は、確かに返さなくてよい資金ではあるのですが、調達した会社は株主という関係者をお迎えすることになり、金融機関対応とは違った配慮を経営の中でする必要が出てきます。
では、資本(エクイティ)調達の主な方法を3点ご紹介します。
エンジェル投資
アメリカなどでは起業をし、事業を売却して大きなお金を得た人が、次世代の起業家に対して資金を提供するエンジェル投資といった方法が一般的なようです。
日本でもアメリカほどではないですが、一部の事業成功者が次世代起業家に資金を提供するエンジェル投資が少なからず存在します。
エンジェル投資による投資資金は少額ですが、特に創業期のアイディアしかない状況などにはそれら少額な資金が特に重要ですし、成功者の持つ経営ノウハウや人脈の紹介など、エンジェル投資でしか得られないメリットは資金面のみならず、多々あります。
ベンチャーキャピタル(VC)投資
ベンチャーキャピタルとは、未上場のベンチャー企業に投資することを仕事としている会社で、大きな資金を集め、それを複数のベンチャー企業に投資し、その投資から得られるリターンをベンチャーキャピタルへの出資者に高い利回りで返すという仕組みです。
ベンチャー企業が起業し、株式上場(IPO)やM&Aによる売却で多額の値上がり益をもたらすことができる確率は、正直かなり低いので、ベンチャーキャピタルの投資はまさに、ハイリスク・ハイリターンということになります。
ベンチャーキャピタルは、「キャピタリスト」と呼ばれる、ベンチャー企業育成を行うことを専門に行う人を抱えており、出資後、株式上場(IPO)などに至るまで、一緒になって経営に伴走してくれます。
一方で、彼らも彼らの投資家から大きなプレッシャーを掛けられているので、時にベンチャー企業に対して厳しいことを言ってくることもあります。
まさに経営のプロと一緒になって、スピード感をもって事業成長させたいベンチャー企業にとっては、ベンチャーキャピタルからの出資を受け入れることが最適かと思います。
事業会社(CVC)投資
近年、上場会社を中心とする事業会社が、「コーポレートベンチャーキャピタル」(CVC)を立ち上げるケースが目立ってきました。
大企業が自社の資源だけで成長するのではなく、ベンチャー企業などの新たな風を取り入れながら、一緒に成長するといった目的で立ち上げられることが多いようです。
CVCからの出資も先ほどのVCからの出資と同様、ハイリスクハイリターン投資を受け入れることになりますが、CVCの特徴としてあげられるのが、CVCの母体となっている事業会社の資源(リソース)をフル活用できるメリットがあります。
事業会社としても、出資したベンチャー企業が株式上場(IPO)してくれることに経済的なメリットがあるので、自社のリソースを最大限出資先ベンチャー企業に投下しようと考えます。
このように、大企業と、ベンチャー企業がともに連携し、win-winの関係を築くこととなるのがCVC投資ということになります。
まとめ
今回は、ベンチャー企業を起業後、いろいろなタイミングでお金が必要であるという点から、デット調達、エクイティ調達といった資金調達の方法があることを見てみました。
デット調達とエクイティ調達については、別の記事で詳細をご説明してゆきますが、自社の成長ストーリーや事業計画などが各社異なっている以上、資金調達の方法に正解はありません。
各々の特徴を見極めて、自社に本当に適した資金調達方法を検討してみてください。