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「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」

 星5つである。素晴らしい。演者も脚本も演出も音楽も申し分ない。キャスティングも話題性に富んでいて、とても良かったと思う。主演のティモシー・シャラメは言わずもがな、「ミスター・ビーン」でお馴染みのローワン・アトキンソンや、「ノッティングヒルの恋人」のヒュー・グラントも思わぬところで起用されていて、意外性も相まってとても良かった。
 主演のウォンカ演じるティモシー・シャラメは、2017年公開の映画「君の名前で僕を呼んで」で弱冠21歳にして第90回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた若き奇才である。北イタリアの美しい土地で展開される儚い恋愛を、彼のミステリアスな瞳や華奢な身体つきを含めた絵画的な演出が、ものすごく繊細な作品へと昇華させていた。多くの人の心を掴んだ彼のリアリズム演技は映画関係者の間でも高く評価され、既にクリストファー・ノーランやウェス・アンダーソンといったアカデミー賞の常連監督ともタッグを組んでいる他、「2021年上半期海外俳優人気ランキング(Filmmarks調べ)では、アン・ハサウェイやレオナルド・ディカプリオを抑え堂々の1位を獲得。SNSのフォロワー数も1000万人以上と、人気と実力を兼ね備えた俳優というべき存在である。
 そんな彼が今回主演として挑んだのがポール・キング監督のミュージカル映画である本作品。笑いあり、涙あり、歌あり、踊りあり、おきまりの展開とコッテコテの演出、まさに生粋のエンタメショーである。観終わった後にモヤモヤすることもなく、考えさせられることもなく、スッキリとしたエンディングに、改めてこれがエンターテイメントなのだと気づかされた。
 そうなのだ。これで良いのだ。本来映画とはそういうものではなかったか。
 2023年に公開された映画たち。複雑な社会問題を取り上げたものが多かった。また意図せずしてそれ自体が社会現象になってしまうような作品も見られた。ジェンダー、人種差別、SNS 、AI、パンデミック。まさに現代社会そのものが映し出されるようなスクリーンを目にすることも多かったというのが、2023年の映画界における私の感想なのだが、気分転換に観に行ったはずの映画で、普段の日常生活やテレビのニュースで目にすることを改めてスクリーンでデカデカと映し出され、より一層深刻な気分になるという現象はおそらく誰しも経験があるのではなかろうか。
 ある種のそういった「立ち止まって考えさせられる」類の作品が評価され、映画関係者の誰しもが、世間の根底に流れる新しい問題を掴んでそれをスクリーンに映し出そうと躍起になっている様な時代。この作品を観たら、一種の肩透かしを食らう様な感覚に陥る人もいるかもしれない。
 でも、本来これが映画なのだ。わかっていてもベタな展開にハラハラし、コッテコテのエンディングに感嘆するのである。そこに時代性や民族性は関係なく、むしろ年齢や性別を含めそれらを無視しても人の心にズカズカと入ってくる一種の押し付けがましさが逆に気持ちいいと感じた。そして、これが一つの正解の様な感じもした。
 2024年、新年一発目の観劇にふさわしい、まさに晴れ晴れとした気持ちになれる素晴らしい作品です。

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