僕が透明になったあの日
EPISODE1
「ジワジワジワジワ」
耳の奥に住みつくように鳴り響く音。肌を照らす強い日差し。
この日はその年でいちばん暑い日だった。
8月中旬
世間の学生は夏休み真っ盛りと言ったところだろうか。
あまりの暑さに外を歩く人々は少なく、額から流れ出る汗はまるで滝のようだった。
「帰りたい。」
吐き捨てるように呟いたその言葉は僕の本心だった。
その年でいちばん暑いと言われている日に何故外に出ないといけないんだと考えながらも足を進めた。
僕は学校に向かってる。
「夏休みなんだから学校はないだろう?」
そんなこと僕が1番思ってる事だ。
高校生活最後の文化祭の準備に招集されたのだ。
僕は高校生になってから人との関わりの面倒くささに教室の空気になるように生活してきた。
人と人は親しくなる人数が多くなるほどメリットよりデメリットの方に天秤が傾く。
だからこそ、今までも文化祭準備なんてクラスの陽キャ達に任せてろくに参加してこなかった。
今年も参加しなくていいって思ってたのに。
クラスのリーダー的存在の女子が
「高校生活最後の文化祭だから夏休みもみんなで準備しよ。」
この一言で僕の夏休みは全て奪われたと言っても過言じゃない。
全く余計な事を言ってくれるもんだ。
「学校」という同調圧力の塊に僕は負けた。
足は鉛がついたように重い。
だらだらとどうでもいい事ばかり考えていたら学校に着いてしまった。
重く、深海のように深いため息をつきながら教室のドアに手をかけた。
ドアを開けるともう既にそこには何人かの陽キャが揃っていた。
猿のように奇声あげる男子と耳にへばりつくようにキーンとした声で笑う女子。
僕はこの空間が大嫌いだ。
僕が教室に入ってきても誰も存在に気づいていない。
挨拶を交わしてくれるようなクラスメイトは僕にはいない。
窓側の1番角の席。
この席は窓の外がよく見れて、僕の特等席だ。
その席で僕はみんなが楽しそうに準備する様子をただそこで眺めているだけだ。
誰とも関わらない。ひとりぼっちで席に座ってぼーっとする。
僕は昔からこんな風に大人しい子どもだったのだろうか。
自分じゃよく分からない。真面目に考えたことすらもない。
「あー。この世界の人は楽しそうだ。」
to be continued
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