劇場アニメ「がんばっていきまっしょい」近寄るなオーラの表情が少しずつ変化していくのを楽しむ映画
見どころは豪華な声優陣による、非アニメ的な演技と繊細な表情の変化
実は豪華な声優陣 (雨宮天、伊藤美来、高橋李依、鬼頭明里、長谷川育美、江口拓也、竹達彩奈、三森すずこ、内田彩) にもかかわらず、予備知識なしで観るとアニメ的な感じがしない自然体な演技によって声優が誰であるかを意識することなく、自然と物語の中の等身大な女子高生の日常ドラマに意識が向かい、彼女らと男子一名の自然なやりとりや微妙な表情の変化・目の動きなどを感じとることができるのは魅力です。
監督や原作者がパンフで言ってましたが、「泣ける」という感情を盛り上げる種類の映画でなく、観た人にずっと心に残る「大事にしたい」と思ってもらえる映画にしたいという思いや、めちゃくちゃかわいいけど萌え系アニメでなく、スポ根でもなく、普通の人たちが真っ正面に部活に取り組む姿や高校性としての日常生活を描こうとしていて、今までのアニメにはないジャンルなのではと。(確かに似たようなテイストという意味では『ブルーサーマル』『サイダーのように言葉が湧き上がる』がありますが、いずれも大きな事件はあるので少し違いますね)
まさにその通りの映画で、一般的な深夜アニメファンでも異世界ファン向けでも、キャラに惚れて観る作品でもなく、圧倒的な描き込みが凄いから観るでもなく、エモいと話題になるわけでもなく、デートコースで観る映画としてはOKという感じ。むしろ普段アニメ映画を観ない人にというのはあると思うのですが、そういう人たちがどうやって作品を知り、観にいくに至るのか、プロモーション的な難易度は高そうです。しかし、心の広い深夜アニメファンならば、冒頭に書いたように、クラスに一人くらいはいそうな主人公を始めととした自然な気持ちの変化を3DCGアニメを用いた繊細の表現で追体験するには優れた映画だと思いました。
主人公のリアクションがある意味リアル
ちょっと掴みどころのないこの映画、でもとてもひっかりがあるんです。それが何故なのか考えてみました。
子供の頃はなんでもできて友達もいて楽しかったのに、高校生にもなるといろいろ難しくなって悩み、という主人公の閉塞感、いろいろ面倒くさい、私にかまわないで、というオーラを出している彼女は少しとっつきにくい感じ。そんな子が転校生に翻弄されたり、親友に気遣われたり、競技ボートに関わるようになったりで、落ち込み、怒りや喜びを感じながら、「表情やみんなの人間関係が少しずつ少しずつ変わっていく姿を観察する映画」、と書いたらなんかしっくり来ました。
一般的な物語は、わかりやすく、当然そうなるよね、という納得の行くリアクションを描くことが多いかもしれませんが、この作品は気難しく、え? なんでそうなる? みたいなリアクションがあります。しかし、よく考えるとリアルな世界ではそういうリアクションは良くあるし、物語の世界だとわかりにくくなるからあまりやらないかも。
女心は複雑なんです、と言ってしまえばそれまでですが、複雑なことをわかりやすく伝える物語は多いかもしれませんが、これはカメラがリアルな現場を撮影しているだけのように説明的ではないという感じでそこが魅力かもしれません。そういう意味で、物語的な展開ではない、ドキュメンタリー的なテイストが強いのかもしれません。
原作とスタッフと舞台について
「坊っちゃん文学賞」の大賞受賞作である文学寄りの作品が原作。1998年に田中麗奈主演で映画化され、2005年に鈴木杏、錦戸亮でドラマ化されてるそうですが、いずれも未見です。5人乗りの競技ボート部活の話ですが、先輩の卒業で廃部になったボード部最後の一人は男子高校生。ここに転校生含む女子5人が集まり、ボート部活動と青春の心情を描いた作品です。
「ラブライブ!」シリーズや「宝石の国」のキャラデザとして有名な西田亜沙子が担当することで、女子高生を活かした原作を選定したという桜木優平監督 (「あした世界が終わるとしても」など) は CGメインのアニメの方。
脚本には監督に加えて「五等分の花嫁」「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。完」などの大地慶一郎が参加しています。
愛媛県松山市のリアルな風景、特に海の夕焼けの美しさや、競技ボート場面での流れる風景の美しさは素晴らしい出来です。
通常の声優の演技ではない抑えた表現が求められたというだけに、いわゆるアニメ的なノリが苦手な方にもしっくりくる青春ドラマです。