見出し画像

アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第37回配信 男と女の好きなところ

 その日は、エリスが好きなことをご両親に告白したり、エリスの部屋でもう少しでキスしそうになったり、HGのモノマネが全力でスベったりしたので、配信をする時間がなくなった。

 なので翌日は、ビシッといつもの時間に準備を整えた。

 しかしーー

「ユメオ」

 昨日の告白が生み出したムードは、今日も続いていた。

「好きよ」

「僕もだよ」

「ウフフ」

 エリスの目が、色っぽくなっている。

(まさか僕なんかを、エリスがこんな目で見るなんて。失礼だけど、欲情しているように見える。まるで、キスどころでなく、それ以上のことを期待しているかのように……)

「そんな目で見ないでよ」

「私、どんな目をしてる?」

「どんなって……言葉で表現するのは難しいな」

「じゃあ、もっとよく見て」

 エリスと僕の視線が、絡みついた。

「ちょ、ちょい待ち、エリス」

「なに?」

「危険だよ。アブナイ。昨日言ったことと、おんなじ危険が迫っている」

「ユメオ、なにを想像してるの?」

「だから、昨日言ったことだよ」

「変なこと考えないで。私こうして、ユメオを見ていたいだけだから。ウフフ」

 エリスの全身から、ラブラブが出ていた。

(もし僕が、決して手を出さないと決めていなかったら、いったいどうなっていたか。きっと飛びかかって、チューしたり、服を脱がそうとしただろう)

「ほら、ユメオ。変なこと考えてるでしょう。息が荒くなってる」

「いや、考えてない。今考えてたのは、今度のテストのことだよ。ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたはーー」

 僕は必死に方丈記を暗誦して、滾りそうになる気持ちを鎮めた。

「男の人って、古文の勉強をしながらでも、変なこと考えるんでしょ?」

「いや、考えないよ。男をまちがって認識してるよ」

「でもパパは、万葉集で興奮するって」

「それはエリスのお父さんが特殊なだけだよ!」

 思春期真っ只中の僕でさえ、万葉集では興奮しない。ある意味尊敬に値する、オトコの中のオトコである。

「でも私、パパの血を引いてるかも。変なことで興奮するから」

 僕は、ドキンとした。

「エリスも……興奮するの?」

「興奮っていうか、男の人の声で、ああってなるの」

「ああ?」

「ああ、それ好きって。わかる?」

「僕は男の声なんて、全然好きじゃないよ」

 僕はハッキリ言って、男のあらゆることが好きじゃなかった。スネ毛が濃くて汚いし、汗臭いし、平気でオナラをしたりするし。

「私、ユメオの声が好きなんだ。いい声だよね、ユメオ」

「僕の声? 全然良くないよ。エリスの声のほうがずっといいよ」

 僕は男は嫌いだったが、女の子のいろんなことが好きだった。声はかわいいし、肌はキレイだし、柔らかくて気持ちいいし、優しいし。

「エリス、男の声で興奮するなんて変だよ。男の声なんて全然良くないじゃん」

「ユメオは、好きな声ってないの?」

「もちろん、エリスの声は好きだよ。特に電話の声」

「電話? どうして?」

「もしもしって出るでしょ? あれがかわいい」

「誰でももしもしって言わない?」

「そうだけど、エリスのもしもしは、すごくいいんだ」

「どんなふうに?」

「説明できないけど、すごくかわいい」

 エリスが心から、嬉しそうな顔をした。

「ユメオのもしもしも、カッコいいよ」

「それは嘘だよ。僕カッコいいなんて、生まれてから1度も言われたことないもん」

「私、ユメオのこと、カッコいいと思うよ」

「どこが?」

「もしもし」

「そうかなー」

 もしもしを褒められて、僕は妙にくすぐったくなった。

「じゃあさ、もしもし以外には、どこがカッコいい?」

「それはない」

「えっ?」

 僕は愕然とした。

「もしもしだけ?」

 エリスが爆笑し、僕を叩いた。

「冗談よ。本気にした?」

 エリスは昔っから冗談が好きなのだ。そして僕は、毎度それに引っかかってしまう。

 まさか……

「ねえ、エリス。僕を好きだっていうのも、冗談ってことないよね?」

「当たり前じゃん。ちゃんと本気よ」

「じゃあどこが好き?」

「全部」

 エリスの目が、また色っぽくなった。

「待った、アブナイ!」

 僕はハアハアと息をついた。

「ねえ、エリス。ときどき女にならないで。僕が男になっちゃう」

「難しいことを言うのね」

「ゴメン。でもこうして話してることが、僕には幸せなんだ。だけど、もし高校生のくせに、親に隠して変な関係になったら、今の感じが崩れちゃうと思うんだ。僕はそうなりたくない」

「わかってる。私も、後悔するようなことはしたくない。ねえ、いつか結婚しようね」

 そう言ったエリスを、僕は抱き締めたくてたまらなくなった。

「わー、わー、アブナーイ!!」

 僕は立ち上がって、部屋をグルグルまわり、

「ねえ、ちょっと頭を冷やそう。そうだ、ゲーム実況しないと。もう2日もサボってる」

「そういう気分になれる?」

「うーん、難しいな。そうだ、HGをやるよ。そしたらこのムードも冷めるでしょ?」

「あれはもういいよ。飽きた」

「なら誰をやる?」

「コウメ大夫は?」

「コウメね、わかった。笑ったら女を引退だよ。いいね?」

 僕は、アホが澄ましているような顔をつくり、手をクネクネさせて、

「チャンチャカチャンチャン、チャチャンチャチャンチャン、チャンチャカチャンチャン、チャチャンチャチャンチャン」

 声を最大限に高くし、

「エリスの部屋にいるかと思ったら〜、いませんでした〜。オワッ、チックショー!!!」

 エリスの顔は、能面のようだった。

 まさかこれほどスベるとは……

 本物のコウメ大夫がなぜウケるのか、僕はこれこそ、この世における最大のミステリーだと思った。


あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)

第36回配信 チッパイエリス

第38回配信 大きければ大きいほどいいのか?


いいなと思ったら応援しよう!