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雑感 〜『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』をきいて〜
長い1日が終わって空が白み始めた頃、年内にアルバムを出すと大好きな人が言った。それからの数ヶ月は情報が出るたびにわくわくした。
2024年12月、人が賑わう梅田NU茶屋町。6階でエスカレーターを降りて角を曲がるとKPOP、その隣にはお笑い、正面には洋楽、そこを右に曲がってまっすぐ進むと右手にアイドル。その反対側にある新譜コーナーを探す。全然見つからない。なんでないねん。呆れて足を止めると、雑音の中に聞き慣れた声がある。あるぞ。声を辿った先にあった!
『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』
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01.ままごと
納得の1曲目。思い浮かんだのは同棲をはじめた頃の浮かれたわたし。2人分の買い物も嬉しくて、ママの真似して一生懸命に料理とかやってたな。同棲4年目、そんな真似事が続くわけもなく今では当たり前に彼が食事を用意してくれる。
この曲の中に入って2人で自由気ままに遊んでたいけど、現実はそうもいかないよなあ。
02.人と人と人と人
仕事終わりに駆けつけた大阪駅で、出来立てほやほやのこの曲を聴かせてもらった。帰宅ラッシュの騒音の中で流れたこの曲は、おもろいことを求めて活気付くこの街に似合ってると思った。この曲を背負って通勤する。MVではいつもの景色にクリープハイプがいて心強い。[赤く滲む気持ち]という言葉がお気に入り。
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03.青梅
明るくポップで開放的、大胆でも軽薄。そんな夏のイメージとぴったり重なった曲。私は夏が大好き。身も心も軽く感じるから。この曲と共にTシャツ短パンでどこまでもいきたい。なんて暑さを忘れた季節だから言えるのかもしれない。
04.生レバ
「イキレバ」という生死について歌った曲かと思いきや、ふつうに[ナマレバ食べたい]と歌っていて意表を突かれた。サビは音と声が重なってものすごい迫力。物騒な街を堂々と歩ける。
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05.I
最初に聞いた時は結構びっくりした。こんなストレートに好きっていう歌詞、これまでにないのでは。それ以外はクリープハイプなのに、そこのインパクトが強すぎる。まさに[君じゃないのに君だった]という感じ。案外クセになる。
06.インタビュー
闘志を燃やすみたいな曲は少ないけど、戦いの果てに頑張ったねってギューと包み込んでくれる曲がたくさんある。この曲がまさにそれ。クリープハイプは赤い炎ではなく青い炎。戦いが終わった後も消えずに、静かに熱く燃えているところがいい。
07.べつに有名人でもないのに
なんだか悲しい曲だね。
この話よくしてたなと思って自分の日記を遡ると、去年のふとしたツアーの感想に「最近はほんまになんか悪いことしてんの?って思うくらい、爆弾投下されることを恐れた発言するよね。あれ何なん笑」って書いてあった。色々なパターンを考えたけど大概のことでは驚かないし、何かあっても護りたいと思ってる。
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08.星にでも願ってろ
とにかく音がかっこいい。1番と2番の間の間奏が最高。絶対にライブで聴きたい。歌詞もギリギリを攻めている。自分の中にあるヤバい感情、こんな事を思っていいのか、みたいなことが表現されている作品を見つけると嬉しい。このヤバさがカオナシさんの中にあることが心底安心する。
09.dmrks
8、9曲目の流れがかなり好き。思わず体が揺れる。同じ言葉の反復からのダマレカスは尾崎節が過ぎる。これは気をつけないと思わず口ずさむやつ。昔、職場で『SHE IS FINE』の[抱きしめてからキスをして〜]の部分を無意識に口ずさんでいて咳払いされたことがあった。あれは気まずかった。[こんなことなら来なきゃ良かったよ]と思う集まりなんて山ほどあるからな。バーベキューとか大体ハズレ。
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10.喉仏
また変わった着眼点だなと思った。喉仏ってあまり意識したことない。なんで仏なんだろと思って調べてみたら、ほんとに仏教と関係してるのね。火葬後の喉仏の写真が出てきたけどすごい形。念仏からは程遠く、ポップな曲。歌詞にことわざが散りばめられてて面白い。
11.本屋の
私も本が好きで本屋にも頻繁に立ち寄るけれど、私の思ってる本屋のイメージとは全く違う。[354と355の間に挟んだ指]で浮かんだのは、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』(角川文庫)の75と76にある「なんだこれ!」という気持ち。その後の77と78は何度も読み返す、尾崎世界観が詰まった大好きなページなんだけど。なぜこの順番にしたのかいつも気になる。
12.センチメンタルママ
この気持ちよく分かる。私も喉が治らなくて怠かったな。発熱したら必然的に休めるけど、咳・喉・鼻くらいでは休めない。周りに気を遣って出勤するんだけど、あんまり咳しないようにと意識するほど咳が出る。36.3度の熱を大事にしたい。
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13.もうおしまいだよさようなら
タイトルの字面だけ追うと重い印象を受ける。でも曲を聴くと冗談で言っているのが分かる。ライブのチケットが外れた時とか、楽しみにしていた予定が雨で中止になった時とか、些細なことで口論になった時とか、ちょっと辛いけど、そんなことで落ち込んでいられない時に励ましてくれそうな曲。
14.あと5秒
[一緒に歩けばまるで好きなバンドのMVだ]は『本当』のMVが思い浮かぶ。ストーリーが見える歌詞。[まもなく君は次の誰かと再生されます]なんて絶対イヤだわ。切ないね。また穴があいてる。
15.天の声
この曲はすごい。お茶の間から徒歩3秒の部屋にいるのは、クリープハイプともとれるし、私自身だとも思う。それなりに歳もとってなんだかんだ楽しくやってるけど、なんとなく死にたい夜はあるし、寂しいけど放っておいてほしいし、どのみちダメならと思っても、寄り道しながらでも、やめずにやってるよ、私も。
[君は一人だけど俺も一人だよって]
ステージにはメンバーがいるし、その後ろにはさらにたくさんの人がいるだろうに、そう言ってしまうのがすごい。この言葉を言うと、大概の人は「お前は一人じゃない、俺がいる」って言うし、「俺がいるのに何でそんなこと言うんだ」って逆切れされる可能性すらある。でもこの言葉の本質を理解して、突き放されながらも、それぞれの意思で側にいてくれるメンバーだから、この4人でクリープハイプなんだと思った。
『バンド』(ミシマ社)の拓さんのインタビューで、尾崎さんから正式なメンバーとして誘われたときに、[拓さんは、こっち側の人間だよ]と言われたことが嬉しかったというエピソードがあって、私はこの話がとても好き。というのも、私が尾崎世界観が気になり、どんな人物なのか雑誌やラジオを漁っていた時に感じたことが、「この人はこっち側の味方だ」ということだったから。
この「こっち側」という言葉についてよく考えていて、これは「陰か陽か」とか「表か裏か」とか「多数派か少数派か」のようなはっきりしたものではない。言葉にするのがなんとも難しくて、「クリープハイプの好きなところは?」の答えがこの「こっち側」に直結しているはずなのに、どうも言葉にできない。
でも『天の声』を聴いて、この歌詞がすっと入ってくる人が「こっち側」の人なのかもしれないと思った。尾崎さんや拓さんが使った「こっち側」が単純に演る側かどうかみたいな話だったら、この文章はとっても恥ずかしいな。でも私はそう思った。
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以上。
暗闇の中ぎりぎり聞こえる音量で曲を流して、最終チェックをしている。『天の声』について書き過ぎていることとか、幸慈さんの名前を出してないこととか、気になるところはたくさんあるけど、クリープハイプ愛をちゃんと言葉にできた気がする。
今年もありがとうございました。レディクレ大トリ、精一杯応援します。来年のツアーも楽しみにしています。