カメムシ クライシス
「貴様ん、なんしようとや!」
取り込んだ洗濯物を、すぐには片付けず、翌朝にまで放置した後、いそいそと片付けていたときのこと。
娘のクリーム色のトップスに見覚えのない緑のスカラベのブローチ。
んなわけあるか!
貴様ん、ツヤアオカメムシだな!!
大急ぎで、息子を呼び、捕獲して外に逃がしてもらった。
激しい動悸がする。息子が生まれ、少年になった夏から毎年のようにカブトムシかクワガタを育てるようになって少しは免疫ができたが、やはり虫が苦手。
昨年夏、大量発生した「ツヤアオカメムシ」社会問題にもなっていた。
子どもの習い事の合間、他のご婦人方が、カメムシに困っている話をしているのを聞くでもなく聞いていた。
「カメムシが嫌がるっていう臭いのでる物を買って、物干しにつけてたんやんかー。そしたら、それ自体にカメムシがひっついててー、もうお手上げ!」
ちくしょう。なんの為にもなんねえ情報か!
我が家では、昨年はベランダに十数匹のツヤアオカメムシがひっくり返ったり、じっとしたりしている程度で、「干している服についている」ということはなかった。
ただ、一度ベランダに常設しているテラスサンダル(足先から甲は覆われて中が見えないデザイン)に足を入れて、しばらく洗濯物を干していると、足の指先がモゾモゾした。
咄嗟に状況を判断し、強烈な明日天気になーれを放ち、テラスサンダルをぶっ飛ばした。
「明日は雨」を表すようにひっくり返ったサンダルから、そいつはのっそり現れた。「奥さん、随分手荒な真似をしますね。私はツヤアオじゃありませんよ」
そいつはクサギカメムシだった。
「笑止!カメムシに変わりはないわ!」
くそぅ。なんで履く前に確かめなかったんだ。ばかやろう!ばかやろう!執拗に自分を責める。
様子を一部始終見ていた娘も、いつにない素早い動きの母親に驚き、悲鳴をあげていた。
そんなことがあって、去年からカメムシとは因縁の関係なのだ。
宣戦布告をするように、1年越しに、しかも室内であいつと再会するなんて。
「奥さん?甘いですね。私はもう室内にいるんですよ」そう、不敵に佇んでいた。
拙者、不要な殺生はしたくない。どうか我が家に近づいてくれるな。カメムシ殿。
プオーオォー 去年よりも早く戦の始まる音が聞こえる。たぬきちとカメムシの攻防が始まる。初夏の訪れ。