【創作童話】心がふれあう時
心は心臓のあたりにあると思いますか?でも、心臓とはちがうものです。
頭が心なんだと言う人もいますが、頭ともちがうものです。
心はからだの中のどこかにあるようで、体から飛び出してうーんと遠くまで飛んでいくような時もあるのです。
目に見えない心は、どこにもないようでいて、そっこらじゅうにあふれています。
あなたが心を小さく小さくしてしまうと、あなたの心は体のどこかにかくれてしまって、だれにもみえません。そうあなたにもみえなくなってしまうんです。
でも、空を見上げて、「ああ雲が真っ白」ってステキだなって思ったり、
本を読んで遠い国のことを知って「行ってみたいなー」ってあこがれたり、
笑ってるあの子の声を聞いて、「くすっ」て一緒に楽しくなったり。
あなたの心は、空の上にも,遠くの国にも、そしてとなりのあの子のところにも飛んで行きます。
大好きなペットを大事に思ったり、友だちとケンカして怒ったり、転んでケガをしてすっごく痛い時、運動会のリレーで友だちを応援している時、心は大きく大きくなって、あなたの体よりひと回りもふた周りも大きくなります。
目には見えてないけど、あなたの心が全身からあふれだしているのです。
ある日、だーれもいない教室の黒板に、小さな小さな文字を見つけました。
「かなしいよ」
だれもいない教室に、だれかがそっとかぼそい心を残して帰って行きました。
その文字のとなりに、あなたもそっと「だいじょうぶ?」とかきそえました。あなたの心が、かぼそい心の横にちょこんと座りました。
家に帰っても、あなたの心が教室に残ったままですから、宿題をしていても、テレビを見ていても、フトンに入ってからも、ずっと「かなしいよ」が気になります。
少し、寂しい夢を見て目覚めたあくる朝、教室に入っておどろきました。黒板には、たっくさんの色んな文字が書かれています。
どうしたの
元気だして
いっしょに話そう
先生に言えた?
そうだんしてよ
ひとりじゃないよ
だいじょうぶ
みんなの心が、教室中にあふれています。か細かった心は、たっくさんの心に囲まれて大きな大きな心になりました。
「かなしいよ 」か細い心で文字を書いたお友だちが泣きだしました。
「ありがとう。みんなのおかげで勇気が出たよ。」
体の中に小さく小さく隠していたはずの心が、知らぬうちにそろそろと体からにじみ出て行きます。
その心のコンセキに気づいた別の心が、またそっと横に寄り添います。それは目には見えないようで、そこらじゅうにあふれています。
心と心が触れ合う時、それは絵の具の色と色とが滲みあうことに似ています。
世界じゅうに色とりどりの心があふれ、滲みあった心の色がどんどん変化していく。そんな様子が目に見えると面白いでしょうね。
でも、見えなくて残念。
あなたも全身から心を大きく大きくしてみてごらんなさい。どんなことが起こるでしょうね。