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ボケ倒して、暮れる年
12月はなんだかずーっと眠かった。
年休を少しずつ消化していて、普段よりも休みの日は多かった。身体が休まっているはずなのに、頭はぼーっとしている。
使用しているスマホが3年を超え、充電が1日もたない。それでも機種変更をする気力もなかったが、とうとうスマホケースが壊れてしまった。
新しいスマホケースを買うならと、重い腰を上げて機種変更をする。若いスタッフが、説明しているが、右から左へと言葉は聞き流れて理解ができない。
3年前とは違い、契約時の重要事項説明は、読み上げられることはなく、自分で契約文章を読む。頭にモヤがかかっていてこれも理解ができない。
「こりゃ、歳いったら機種変もままならんな」
どっと疲れた。嬉しいはずの新しいスマホも、データ移行に手間取って、大いに難儀した。
そういえば電子機器との相性も悪い。他の人なら順調なのにたぬきちが触ると異常な動作をすることがちらほら。
「なんか電磁波出してる?」
冬眠しようとしているのかもしれない。「それもいいか」と思うし、「いや、よくはない」とも思う。
休みの日は充分あるのに、年の瀬の準備も整わない。29日になっても年賀状を用意できていなかった。
正確には用意しなかった。時間はあるのに全くやる気にならない。一方でお年玉の新券とポチ袋は、11月のうちに用意していた。
28日に仕事を納め、翌29日。ようやっと寒風の中郵便局へ向かった。
それなのに、郵便局の自動ドアは固く閉ざされ、電気は消え、冷え冷えとしている。
「年末年始の休みは31日からってウェブサイトに書いてたはず」と、理解できぬままコンビニに移動した。
コンビニに置いてある年賀状は無地のものはない。がっかりして店を出て気づいた。
「今日、日曜日だ」
調べるまでもなく、いつだって郵便局は日曜日は閉まっている。
今日が何曜日かもわからない。やっぱり頭にモヤがかかっている。
赤信号で立ち止まって、スクランブル交差点の向こう側の人々を見ていた。
お正月の準備に忙しそうだが、なんだか嬉しそうでもある。いつもの駅前とはなぜか違って見えた。
その時、さっと目の前に手が差し出された。
「ぜひ持って帰ってください」
その手にはポケットティッシュが握られている。普段、客引きのポケットティッシュは受け取らない。なんとなく、念がこもっている気がして。
でも、反射的に受け取った。そのポケットティッシュには、赤い字で献血のお願いと書いてあった。
ティッシュを配る手の持ち主である人生経験豊富そうな男性に尋ねた。
「自分を証明する書類がないんですが大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ!今、待ち時間ありません」
年賀状を買うために出てきたので、免許証を持っていなかった。
今日はもう、年賀状作りができない。時間はある。
夫に年賀状は買えなかったが献血して帰るとLINEする。
個人の特定に4ケタの暗証番号を尋ねられた。
1回目、「違います」
2回目、「違います」
3回目、「違います」
4回目、「違います」
「もう思いつきませんか」「思いつきません」暗証番号を再設定してもらう。
新たに作られた献血カードには、前回の献血が令和4年11月と印字されていた。
「2年も来てなかったんだ」
そんな長い間時が流れているのにも気づかなかった。つい、こないだなんて思っていた記憶のなんと頼りないこと。
2年の歳月をついこないだと思うほどに日々をこなしていた。
採血自体はものの10分ほどで終わった。さっき止まっていた交差点を渡る。
西に向かって家路に急ぐ。雲が切れて金色に輝く太陽が顔を出した。
「まぁボケてても年は暮れる」
2024年はお世話になりました。2025年もよろしくお願いします。良いお年をお迎えください。
たぬきち
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