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ショートショート 「クレオパトラの夢」
たとえば・・・・・・、
その夜にぼくがカクテルを考案するとなると、
ジンをベースにして、バニラエッセンスとライムを混ぜて、
氷の小さなブロック3個を入れてシェイクする。
つまりジンの苦みに、バニラエッセンスの甘さとライムのすっぱさが漂う、オリジナル・カクテルだ。
ネーミングは、「メランコリー」
ぼくが別れた彼女を想い出すとき、
いつも彼女は嬉しそうな笑顔を浮かべている。
出会ったころは、本当に楽しい時間ばかりだった。
それから少しずつケンカをするようになり、
最後には、お互いを罵り合って別れた。
そんな訳だから、決して美しいだけの物語ではなかった。
ぼくは彼女が拗ねたり、怒ったり、泣いたりする姿を、充分すぎるほど知っている。
それなのにぼくの中にいる彼女は笑ってばかりだ。
おそらく、ぼくが見ていたのは、彼女の笑顔だけで、哀しむ姿は一切見て見ぬふりをしていたのだと思う。
CDの曲が、「クレオパトラの夢」になった。ピアノが軽快にメロディーを奏でている。
彼女の夢を、ぼくは共有しようとしていたのだろうか。
いまになってやっとわかった。
哀しみにこそ、彼女の夢が隠れていたんだと。
そうだ、オリジナルカクテルの最後に仕上げには、涙を一滴垂らすようにしよう。