「きさらぎ駅」周回プレイなら勝てる【映画感想】

※ネタバレあり。
説明不要の伝説的ネットロア「きさらぎ駅」。の、映画。これ、期待半分諦め半分で観たんだけど、結論、よかった。すごい好きです。

掲示板から生まれて映画にまでなった作品といえば「電車男」先輩がいるが、奇しくも電車つながり。毎日大勢の人が利用するだけあって、やはり電車とはドラマが生まれる舞台なのだな。世界観は似ても似つかないけど。

「きさらぎ駅」とは

説明不要といえども、まあ一応説明くらいはしておこう。短いし。「きさらぎ駅」とは2004年にネット掲示板にて実況された怪異体験談。

語り手はいつも使っている通勤電車に乗っていたはずが、見たことも聞いたこともない「きさらぎ」という駅に迷い込んでしまう。

駅の周辺をさまよう語り手は祭り囃子のような音や片足のないおじいさんにビビらされたりしているうち、親切な人に出会い車で送ってもらうことになる。ところがその運転手の様子がおかしくなりはじめる。隙を見て逃げる、という書き込みを最後に語り手は沈黙し、その後の行方は知れない。

それだけの話だ。それだけの話だが、不気味で不可解で、ディティールは魅力的な謎に満ちていて。いつまでも頭に残り続ける。見たこともない寂れた無人駅の幻影が、読んだ後もじわじわ増殖していく。だからずっと、きさらぎ駅怪談を忘れることがなかった。行きたいとは全然思わないけど。

本題

きさらぎ駅2022年 日本

主人公はネットロア「きさらぎ駅」について調べている、民俗学専攻の女子大生「春奈」。彼女は「きさらぎ駅」をネットに書き込んだ本人である「葉山純子=はすみ」を探しだし、詳しく話を聞くため彼女の元を訪れた。

はすみの話を聞いてきさらぎ駅に行く方法に思い当たった春奈は、思惑通りきさらぎ駅に辿り着く。ここ、異世界エレベーターという別の都市伝説を持ち込んでて面白い。

きさらぎ駅では何故か状況ははすみの時と同じで、周回知識持ちの疑似ループ状態の春奈は襲ってくる怪異を物理でしばいて攻略していく。
物理で殴れる相手だと怖さが半減するのはなんでだろう。ただの人間だって襲いかかってくれば普通に危険なのに、殴れる怪異はたいしたことない気がしてナメてしまう。しかも春奈は、帰る方法を知っているのだ。余裕しゃくしゃくだ。

「きさらぎ駅」という怪異について

映画「きさらぎ駅」における怪異きさらぎ駅は、人間の体に血管のような器官を潜り込ませて襲う。駅舎や線路でも血管らしきものが這いずり、変える方法が実はデマ情報だったため取り残され、絶望した春奈が見上げるのは黒い満月のような巨大な目。

生き物だ。
きさらぎ駅がどこにあるのかはわからないが、どこかにある「それ」は実は一種の生き物なのだ。駅は口。口から体内に入った人間たちはその生き物に食われる。

一人が帰れば、また別の一人がやってくる。そうやってこの怪談は代謝している。人間が呼吸して酸素と二酸化炭素を交換するみたいに。だとすればこれはホラーでもあり、SFでもある。ちなみに私はすぐ何でもかんでもSFだって言う。

エンドクレジットのあとに続きがある。はすみと春奈の話を盗み聞きしていたはすみの姪・凜が、きさらぎ駅に行く方法を試してしまうのだ。そして凜もまたきさらぎ駅へと足を踏み入れ、春奈を見つける。

春奈の記憶はスタート時点までリセットされてしまうので、春奈はずっと、偽の帰還方法しか知らない。周回プレイなら勝てる――と思ったんだけど。でも、攻略方法を間違ってたらやっぱり、勝てない。

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