中国政府のハイテク企業締め付けと投資妙味
参考 WSJ 中国の新たなデータ統制、企業「ノー」と言えるか
WSJ 中国に逆らえば「自殺行為」 IT投資家の痛い教訓
WSJ 中国が目指す経済、インターネットより製造業
WSJ 中国IT株に強まる逆風、学習塾も規制強化の標的に
WSJ 中国の企業締め付け、まだ始まったばかり
10月の米国CPIがピークアウトを見せた後、世界的に株価が上昇し、ドル円も150円から134円までの円高となった。
この時期に中国はコロナ規制の緩和により経済成長が加速すると期待され、世界株式の中でも強い値上がりを見せたものの、その後の全国に拡大した抗議デモやオミクロン株の感染拡大により、上昇はストップしている。以下の通り、香港ハンセン指数はまだ10年来の安値圏にある。
中国はアメリカのシリコンバレーと唯一方を並べるイノベーションの集積地であり、個人情報の規制が緩い分、データエコノミーが発展しやすいといわれてきた。それに加えて先日亡くなった江沢民氏の率いる上海閥がウォール街の資金を引き入れ、この資金が製造業やIT企業の成長に投じられたことも寄与した。
しかし、現在海外投資家を悩ませているのは、ナショナリズムを経済発展よりも重視する習近平氏の3期目の政権の方針である。習近平政権は、少なくともカントリーリスクを海外投資家に意識させていることは間違いない。
これまでの具体的な締め付けの例として、参考に挙げた記事から引用する。
他にもアントフィナンシャルの上場取り消しや、Didiの米国上場後の撤回の例も挙げられる。
これらの規制の背景には、少子化対策、独占禁止法、習近平政権の製造業重視姿勢という異なる原因が存在する。
テンセントの提供するゲームの規制には、国営報道機関が精神的アヘンと表現したように中国の人材の競争力がベトナムやインドなどの途上国に劣後しないようにする狙いがある一方、音楽配信の独占は明らかにテンセントの優越的地位の濫用を規制するものである。
同じことが美団の最低賃金の保証にもあてはまり、一時的に同社の株価は下落したものの、格差と貧困の固定化を当局が防ぐ狙いがあるのだろう。
一方で製造業重視の姿勢は、先進国がこれまでたどってきたコンテンツ産業、サービス業の歴史を中国は辿らない意思を示したものである。これには他の二つと異なり、習近平政権のイデオロギーが多分に含まれている。IT産業は若者の雇用の受け皿になってきたことを考えると、これは合理的とは言えない。さらに半導体やロボットには多額の補助金が投じられているものの、中国製の半導体や生産機械はまだ日欧米の水準には至っていないとされている。
以上をまとめると、中国のIT産業の規制や補助金の在り方には、独占禁止と消費者利益の保護を狙いとしたものがある一方、国営企業の権益保護や習近平政権のイデオロギーが含まれるものもある。一概にひとくくりにするべきではない。
とはいえ、西側と異なる点は中国には三権分立が存在しないことである。過度な規制に対して西側では訴訟により企業は利益を守ることができるが、中国の場合は反逆はむしろ命の危険すらともなうだろう。これは権力と規制の暴走にもつながりかねない。
日本のように管制規制ががんじがらめの国は、イノベーションの余地がなく長期衰退の道をたどっている。中国のこれまでのニューエコノミー創出力は本物であるが、習近平政権のかじ取り次第では、中国は日本と同じ道をたどるだろう。
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