国家総合職 化学・生物・薬学区分 (大卒程度) 合格体験記
2024年度国家総合職化学・生物・薬学区分 (大卒程度) を独学で受験して最終合格した時の勉強方法を書きます。
自己紹介
地方旧帝大に通う、現在大学4年生です。
工学部に所属し、化学を専攻しています。
受験科目
一次試験専門科目
数学・物理/基礎物理化学・基礎無機化学/物理化学・無機化学/有機化学/工業化学・化学工学
二次試験専門科目
物理化学I/無機化学
勉強スケジュール
大学3年/11月 公務員に興味を持つ
所属大学で開催された公務員セミナーに何気なく参加したことがきっかけで、将来の職業の選択肢として公務員を考えるようになりました。大学3年/12月中旬 受験を決意、勉強開始
おそらく理系あるあるですが、とにかく必修単位が多いため、大学には週4日通っていました。毎週重い実験レポートを課されて大変でした。大学の授業の試験勉強もしなければならず、1月中旬の2週間ほどは公務員試験対策をすっぱりやめて大学の試験勉強に集中していました。
飲食店で週に2日、計8時間、塾で週に1日、計1時間半のアルバイトしていました。飲食は2月末、塾講師は3月末でやめました。
このころの記憶があまりないのですが、大学の授業終わりに図書館に行ったり、バイト先から地元の公民館に直行したりして勉強していたと思います。大学の勉強とアルバイトをしているとき以外は、常に公務員試験の勉強をしていました。大学3年/3月17日 一次試験
一次試験後の自己採点でボーダーラインを越えていたらすぐさま二次試験の勉強をすべきなのですが、私の場合、自己採点結果がボーダーぎりぎりで合格している確信を全く持てなかったことと、一次試験勉強で燃え尽きてしまったことで、結果発表まで全く勉強しませんでした。大学4年/4月1日 一次試験結果発表
いよいよ大学4年生、研究室に配属されました。
結果発表画面で自分の受験番号を見た瞬間、再びやる気に火が付き、研究室終わりや土日はひたすら筆記試験の勉強をしていました。面接試験の対策は全くしていませんでした。大学4年/4月14日 二次試験(筆記)
筆記試験終了後に、ようやく面接試験の準備を始めました。大学4年/4月22日 二次試験(面接)
大学4年/5月28日 最終合格発表
試験結果
一次試験
基礎能力試験 20/30
専門試験 22/40
二次試験
専門試験I(物理化学I) 106/200
専門試験II(無機化学) 108/200
政策論文試験 9/10
人物試験 B(A~E)
(英語資格加算)
25点
最終合格順位
上位1/4くらい
勉強方法
試験科目ごとに、使用した参考書と勉強方法を挙げていきます。
基礎能力試験
数的推理・資料解釈
『過去問解きまくり!』
数的推理では、確率の考え方など、数学に関する初歩的な知識が求められます。理系の方には有利です。大学入試などと違って答えさえ合えばよいので、勘やひらめきのようなものが大切になります。とにかくたくさん問題を解いて、これらを養いましょう。私は、過去に出題事例がない分野を除いて一通り問題集を解き、間違えた問題は付箋をつけて2週目を解きました。
資料解釈は、時間をかけて丁寧に解きさえすれば答えが合うので、思考問題が苦手な方はしっかり勉強して、本番でも一番最初に取り掛かり、時間をかけて解いて確実に正解するのも作戦として考えられると思います。判断推理・図形
高校時代の数学の教科書
『過去問解きまくり!』
こちらもとにかくたくさん問題を解いて、勘やひらめきを養いましょう。
図形問題、特に求積問題などでは、基本的な定理を覚えておくと良いと思います。私は高校の教科書で復習しました。文章理解
『過去問解きまくり!』
日本語と英語の長文読解問題が出題されますが、それぞれ現代文、英語のセンター試験レベルと同等、あるいは少し易しいレベルだと感じました。私はどちらも得意科目だったのでほとんど対策はせず、試験直前に問題集から5問ほどピックアップして解いて傾向をつかみました。知識問題/時事問題
2024年度から、知識問題と時事問題を絡めた融合問題になりました。
一切対策はせず、当日は色塗りでマークシートを埋めました。
高度に専門的な内容や重箱の隅をつつくようなマニアックな問題が多く、参考書に書いてある程度の付焼刃的な知識では1問も正解できない可能性が高いです。情報
2024年度から新たに加わった試験分野です。アルゴリズム問題が1題出題されました。論理的思考能力をはかる問題で、情報に関する特別な知識は全く必要ありませんでした。思考力が試されるという点で、判断推理の勉強がそのまま情報の対策を兼ねると感じます。
一切対策はしませんでした。
専門試験(多肢選択式)
基本的に、大学の授業で学んだことが多く出題されます。範囲が膨大で素直に全範囲勉強していては時間が足りないので、勉強する分野の取捨選択が必要です。まずは過去問を5年分ほど解き、出題されやすい分野を把握しましょう。出題頻度が高い分野もあれば、全く出題されない分野もあることがわかります。出題されやすい分野から勉強していくとよいでしょう。
対策は、大学で使用している使い慣れた教科書や授業で配布された資料、板書を用いて行うのが最も効率的だと思います。特に大学の資料や板書は重要な内容がまとめられていることが多いので、学習の中心に据えていました。
ここでしっかり勉強しておくと、二次の記述式試験の対策が楽になります。
数学・物理
『4STEP数1A, 2B,3』
『リードα物理』
この分野は少し特殊で、高校の内容の数学、物理から出題されます。高校時代に使っていた参考書を使って勉強しました。
数学は、1A2Bの参考書の全分野の問題を、証明問題を除いて一通り解きましょう。大学受験では出題頻度の低い分野からも、まんべんなく出題されます。(データの分析の勉強をさぼり、当日出題されて手も足も出ませんでした。)数3は、マイナー分野から出題されることは少ないので、勉強する分野を取捨選択してもよいと思います。
物理も同じく、全分野の問題を、基本問題→余裕があれば応用問題の順で一通り解きましょう。(力のモーメントの勉強をさぼり、当日出題されて手も足も出ませんでした。)基礎物理化学・基礎無機化学
『リードα化学』
『アトキンス物理化学』
大学の資料
なぜか高校範囲の化学もまじって出題されるので(特にpH計算)、高校時代の参考書で対策しました。
出題されやすい範囲は教科書を隅から隅まで、図やグラフまで暗記するつもりで読みました。
また、大学の資料の練習問題をほぼすべて解きました。物理化学・無機化学
『アトキンス物理化学』
大学の資料
基礎物理化学・基礎無機化学とあわせて対策しました。有機化学
『マクマリー有機化学』
大の苦手だったので、半ば諦めていました。理論分野は徹底的に勉強し、各論は代表的な酸化還元剤とそれぞれの働きの違いだけ暗記しました。工業化学・化学工学
大学で詳しく学ばなかったので、こちらもほとんど捨てていました。公式を2つぐらい暗記したと思います。
専門試験(記述式)
多肢選択式と同じく、大学の授業で学んだことが多く出題されます。まずは過去問を5年分ほど解いて、出題されやすい分野から勉強していくとよいでしょう。
こちらも対策は、大学で使用している使い慣れた教科書や授業で配布された資料、板書を用いて行うのが最も効率的だと思います。
物理化学I
『アトキンス物理化学』
大学の資料
得意分野の熱力学が毎年出題されていたので選択しました。
国家総合職試験は公式の導出が好きなので、主要な公式の導出を、手が覚えるまで何度も何度も書きました。また、出題されやすい範囲は教科書を隅から隅まで、図やグラフまで暗記するつもりで読みました。無機化学
大学の資料
大学の資料を隅から隅まで読んで、ある程度内容を暗記しました。
出題範囲がかなり広く、勉強する分野を取捨選択することが難しいので、大学で学んだところがたくさん出題されたらいいな、くらいの気持ちで割り切って勉強していました。
政策論文試験
日本語、英語の長文資料が与えられ、それを参考にしながら出題された社会問題に対する政策を提案する試験です。
政策論文試験に取り組むにあたって、必ず知っておくべきことがあります。この試験で問われているのは発想力ではなく、読解力・文章作成能力です。
この試験では、出題者が提案してほしい政策、言うなれば"正解の政策"はすでに決まっており、"正解の政策"にたどり着くためのヒントが資料にちりばめられています。そこから出題者の求める政策を察して文章化することで高得点が取れます。良い政策をひらめく力、クリエイティビティなどが問われているわけではないことに注意が必要です。以下、私が本番で政策論文試験を書き上げた手順です。全く対策せずにぶっつけ本番で臨みましたが、これで何とかなりました。(可能であれば、過去問と模範解答数年分に目を通しておくと本番で戸惑うことがないと思います。)
資料をはじめから読んでいき、大切だと思うところ(社会に対する問題提起など)に線を引く
資料で提起された社会問題をすべて解決できるような政策を考える(自分自身の思想や主義主張などはいったん置いておく。実現可能性などを深く考えすぎる必要はない。(絵空事じみていてもよい。))
資料で線を引いた部分から引用しつつ社会問題を列挙し、政策を提案する。提案した政策によって社会問題が解決される理由を書く。資料に表やグラフが含まれる場合、主張を補強できるような値を見つけて引用し、説得力を増す
面接
事前に面接カードを書いて提出し、それをもとに面接が行われます。
面接カードは面接4日前くらいに書き始め、親に添削してもらいました。面接の練習は特にしませんでした。
面接カードのガクチカは、塾講師のアルバイトと大学の授業でのグループワークについて書いたと思います。面接本番では、面接カードに添って質問が行われます。終始穏やかな雰囲気で、20分ほどで終わりました。
面接では、ガクチカの経験そのものの素晴らしさよりも、その経験をしようと考えた理由(経験するに至った経緯)、経験の中で困難にぶつかったときにどのように乗り越えたのか、この二点を通して人柄を見ようとしていました。大したガクチカがない人も焦る必要はないと思います(大学生が全員留学に行ったりバイトリーダーをやったりサークルで役職についたりしているわけがないと思います)。日常の出来事から、これらをアピールできる材料を探していくとよいと思います。
また、国家公務員の面接についてネットで検索すると、奇抜な質問が飛んできた、圧迫面接だった、などといった恐ろしい体験談がヒットするかもしれません。しかし、少なくとも私の場合は、面接カードの内容から大きくそれたり、ものすごく深堀りしてくるような質問は一切ありませんでしたし、面接官の方々も圧迫するどころか、むしろ和やかな雰囲気を作るために努力されているような印象でした。国家公務員や志望省庁に対する熱意、政策に対する理解度などは、官庁訪問でみっちりと評価されると思います。公務員試験段階での面接は、形式上のものでしかありません。奇をてらったり、面接官の印象に残ろうと思って身構えたりせず、面接官の質問にまっすぐ答えましょう。それだけで、それなりの評価がもらえると思います。
英語資格加点
TOEICや英検などの英語民間試験のスコアに応じて、点数が加算されます。多くの受験者が加点してもらっていたと思います。加算のハードルは大して高くないので、時間に余裕のある方は最高点の加点を目指して英語民間試験を受けるとよいと思います。なお、加点に利用できる試験の期間には制限があるので、よく調べておきましょう。
私は、TOEICのスコアを申請して最高点まで加点しました。
さいごに
無視できないほどに進んだ官僚の人気低下を受けて、2024年度、国家総合職試験の試験内容は大きく改訂されました。その結果、知識問題や時事問題などの暗記力を問う問題が大幅に削られて思考力を問う問題の比重が重くなり、全体の問題数も大きく減少しました。公務員試験にチャレンジするハードルは格段に低くなったと言えますし、高額な学費を投じて予備校に通ったりせずとも、独学で十分合格は可能です。また、文系出身が多いイメージのあった(私だけかもしれませんが)官僚ですが、特に近年は理系学生の採用に非常に力を入れています。進路に迷う理系の方は、就職先の選択肢のひとつとして、一考の価値があるかもしれません。(就職の際に地方の研究所に飛ばされがちな化学学生ですが、都会志向の方にとって、特に特許庁などは、大学の専門知識を活かしつつ東京霞が関で働ける点で魅力的かもしれません。また、理系区分で採用されても、技術分野の職務にとらわれず、文系区分で採用された官僚と同じように政策立案に携われる省庁も多くあると思います。)(国家総合職試験に最終合格はしたものの官庁訪問せずに結局民間就職した私に偉そうなことは一切言えませんが…)
冒頭の免責でも述べましたが、官僚の人気低下を受けて、おそらく現在も様々な対策が検討されており、今後さらに試験内容が改定される可能性も大いにあります。受験を決意された方は、人事院のホームページなどで、自ら積極的に情報収集を行うことが大切です。
この記事が、官僚を目指される方や進路に悩む方の助けになれば幸いです。