ネギマ鍋の好きな物
ネギマ鍋は悩んだ……
3つのうち2つ選べと選択を迫られる。3つに2つ…選ばれなかった、いや、選べなかった1つがこの先頭に残ってしまうではないか。なんと厳しい選択をしなければならないのか…
~人生は選択の連続である~
ハムレットの1節にもあるように選択をしなければならないのだ。
ネギマ鍋は微笑みを浮かべてその選択を待つ人物に告げた。
「アジフライとかますフライでお願いします。」
時は遡り24時間前。
7月30日伊那発8月1日山口県長門市への運行を任され高速で向かう道中考えていた。
「なんでもいいから美味い海の幸が食べたい」
調べたところ納品先の目と鼻の先に海に面した道の駅センザキッチンがあるのがわかった。この道の駅の中にひもの食堂ひだまりというお店があるのもチェック済みだ。ネギマ鍋はこのようなチェックは欠かさない。口コミを見てみると干物も美味しいがアジフライについての口コミが多い。アジフライ…ソースか醤油かの論争で人間関係にヒビを入れ、油断していると鋭利な尻尾で口の中を切り裂く危険な食べ物…なのに老若男女を魅了する不思議なアジフライ。これはアジフライ一択だな。とまだ多賀サービスエリアの時点で決めていた。ネギマ鍋の決断は食べ物の時には大谷翔平の球のように早いのだ。
アジフライ楽しみだな~暑いんだろうな~海に飛び込みたいな~でもベタベタするの嫌だなぁ~海水しょっぱいんだよな~着替えそんなに無いしな~そもそも海に入るのがそんなに好きじゃなかったわ……と考えていたらあっという間に道の駅に到着したのである。
まずは海を眺めてみる。うん、青い。とても波が穏やかである。少し磯の香りもする。この香りは長野には無い香りである。この香りがするということはまごうことなき海である。
ただ海を眺めていたのではない、食堂の開店時間を待っていたのである。店の入り口の前で待つのは恥ずかしいため海を眺めてる人に擬態していたのである。目はしっかりと食堂の入り口を捉えていた。しかしなかなか開かない…道の駅はオープンしたのに開かない…もしかして休みか!?海鮮丼だけでなくアジフライにも縁が無いのか!?もう口と胃はアジフライを受け入れる準備が整っているのに!と小走りで入り口へ行くとそこは入り口では無くテイクアウト用の窓口だった。まさかの食堂側も擬態していたのである。
道の駅のお土産売場側から偶然お店を発見したように見せかけ入店。笑顔の店員さんがメニューを持ってきてくれたときには
「もうアジフライと決まっているんですよへへへへ」
と心の中で呟き、一応メニューを開く。しかしメニューを見て固まってしまう。
「平日限定定食 三種類のフライから2つお選びください。」
ここで冒頭へ戻る。
メニューにはアジフライ、かますフライ、さわらメンチとある。
アジフライは決定していたが他の選択はしていなかった。先ほどの大谷翔平の球のような早さの決断力はいつの間にか幼稚園児が投げる球の遅さに変わっていた。さんざん悩んだ挙げ句アジフライとかますフライに決定。
「さわらメンチよ、いつか対面しような」と心の中で呟く。
「なぜこのような選択をするときの対処方を学校では教えていないのか、いや、あっても教科はなんだ?給食…いや、教科ではない。食べ物選択方程式。数学か…いや、答えは条件によって異なるから理科か…いやいや…お客の心情を答えよ…国語か…」などと考えていると大きなフライが2つ乗った定食が運ばれてきた。
「サクサクフワフワでうめー!アジフライが海に泳いでるのが想像できる~!何もつけなくても美味い!タルタルつけても美味い!大根おろしと醤油もうまい!味噌汁もうまい!漬け物も自家製でうまい!醤油がうまい!これ醤油がうまいのでは……?かますがうます!」
※ネギマ鍋の食レポはこれが限界です。
ちゃっかり隣の客の干物定食のチェックも怠らない、次回に備える事が大事なのである。チラチラと横目で見ていたら隣の客もこちらを見ていた。同じ考えのようだ。
さて、950円を支払いとても大満足してトラックへ戻る。しかし夏の暑さがネギマ鍋の身体を建物へ押し返す。足が前に進まない。まるでムーンウォークのように後ろに下がってしまう。このままでは危うく熱中症である。これは熱中症予防のために仕方ない……そう思いながら道の駅にあるカフェでシナモンバニラのソフトクリームを購入。
これは熱中症にならないための措置である。必要経費である。多分熱中症予防のマニュアルにも載っている、シナモンバニラソフトクリームが良いと。
そして目の前に広がるウジェーヌ・ブーダンの作品のような空と海を眺めながら食べるソフトクリームは格別に溶けるのが早かったのである。
「あまり無駄遣いしないように」
妻の言葉を思い浮かべたが、浮かべた途端に気球のように膨れ上がり晴天の空にフワリ…と吸い込まれて見えなくなってしまった。食べ終わったソフトクリームのカップとスプーンが変わりに残っていた。
かくして無事アジフライを食べ、納品も完了したので翌日の積込のために関西へ向かうのだが、荷卸しで大量の汗をかいたのでまずはお風呂に入ることが先決である。
事前に探しておいた道の駅阿武町に1時間程で到着。ここは湯船から日本海が眺められる温泉がある道の駅なのである。しかも600円とリーズナブル。
ワクテカ(0゚・∀・)しながら浴室の扉を開けると目の前には…海!長距離運行の疲れを少ししょっぱい温泉で流し、海を眺めてリフレッシュ。なんて最高なんだ!しかしながらゆっくりしてる暇は無いので早めに退出。ネギマ鍋はもともと湯船に長く浸かれないタイプなのである。
海沿いを走り、道の駅で買った長州地サイダーもも味を飲みながら余韻に浸る。今回は目的をほぼ達成できた事と、ちゃっかり食堂で教えてもらった美味しいお醤油を納品先のショッピングセンターでGETできたので大満足で運行を終わらせられたのである。
ソフトクリームの写真を間違えて妻に送ってしまった事だけが今回の失敗点なので、次回は証拠をあまり残さないよう完全犯罪を目論んでいるのであった。
※住野よる著 麦本三歩の好きなものをオマージュして書きました。