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夫から見た出産②(計画無痛分娩への雑感)
↓前回からの続きです。
結局、妻の持病を考慮してくれた担当医の判断で、なんとか計画無痛分娩の予約を取ることができた。
予約は取れたが「これで万事安心だね」という気持ちには到底なれない。なぜか。
ベッドを確保し、入院〜出産〜退院までのスケジュールをばっちり立ててもらっても、予定より早く赤ちゃんが出てきてしまったら、当然だが計画はすべておじゃんになるからだ。
破水しました!予定日より◯週早いけど、予約してたし無痛分娩できますよね?
↓
いや、今ベッドも麻酔科医も余裕ないので、このまま普通のやり方で分娩します…
↓
(゚Д゚)
ということも当然あり得るらしい。赤ちゃんに「◯月◯日に分娩予約したからその日に出てきてね!」と頼むわけにもいかない。しょーがねーだろ赤ちゃんなんだから。
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つまるところ出産予定日なんてものは担当医の予測でしかなく、その予測に合わせてベッドと麻酔科医を予約手配しているだけなのだ。なんと心もとないことか。
予定日より早く産まれてしまうのが一番まずい。逆に、産まれるのが予定日より少し遅くなりそうという程度ならまだ希望はある。
陣痛が進行すると、子宮口が徐々に開いていく。子宮口が開かなければ赤ちゃんは出てこれない。
この赤ちゃんの通り道を計画的に開かせる必要がある。
ある程度子宮口が開いてからでないと、麻酔は投与されない。開きの進行速度が遅い時は、物理的な手段で子宮口を広げる。
以下は妻の入院時、実際に配布された資料。
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ラミナリア
メトロイリンテル
プロペウス
(川柳?)
全く聞き馴染みのない横文字だが、すべて挿入するタイプの器具だ。
麻酔投与の前に挿れるので、当然痛い。
そして定期的に行われるのが、担当医による子宮口の開き具合の触診である。
子宮口に手を突っ込んでグリグリする触診は、通称「内診グリグリ」として界隈で有名らしい。これが一番つらくて痛かったと妻はよく言う(個人の感想です)。
このように、促進剤や器具を使ってお産の進行スピードを上げて、出産のフェーズまでさっさと移行させようというのが「計画分娩」の「計画」たるゆえんである。
子宮口をめぐる長時間の格闘の末、「そろそろ麻酔流そうか…」と許可が下りる。ここでようやく「無痛分娩」になるのだ。
この「麻酔を投与していい」段階に至るまでがとても長い(投与されてからも長いけど)。
また、仮に予定どおりに進んでいても、もっとリスクの高い妊婦の急患が来たらそっちが優先される。当たり前だが、こればっかりは運次第としか言いようがない。
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無痛無痛と書いてきたが、これまで散々述べたように、痛みが完全にゼロになるわけではないのだ。
また、無痛分娩の麻酔は腰回りだけに効果がある局所麻酔である。全身麻酔ではないので、意識はしっかりある。私は無痛分娩=全身麻酔というイメージを持っていたからこのことには驚いた。
それと、麻酔の効きが悪かったら当然痛みは貫通してくる。母体や赤ちゃんに悪影響が出ると怖いので、ドバドバと無制限に麻酔を追加することはできない。
無痛分娩は決して「無痛」ではない。これは確かにそうなのだけれど「無痛っつってんのに痛いなんてサギじゃん!やる意味なくね?」と考えるのは大間違いである。
痛みというのは個人の主観によるから一般化はできないけれど、無痛分娩を選択することで「地獄の激痛」は「ある程度マシな地獄の激痛」に緩和される。疲労の度合いが違うのだ。
コロナやインフルで高熱が出たとして「どうせすぐに熱上がるからカロナール飲む必要なくね?」と考えるのは愚である。減らせるものなら負担は減らした方がいいし、体力も気力もあった方がいい。
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ただし、麻酔の投与に伴う副作用はもちろんある。発熱、吐き気、かゆみ、頭痛などが起きやすいという。アナフィラキシーのおそれも当然ある。医師の判断で突然中断されることもあり得るだろう。
無痛分娩はすべての苦痛を取り除く万能ソリューションではない。万能ではないが、役立つのは確かなのだ。
次稿は当時の日記やメモを見つつ、妻の入院から出産までのことを書きたいと思う。今日はここまで。
2024年11月11日