見えないお姉ちゃん
僕は物心ついた時からお父さんとお母さんと
一緒に月に一度、お寺へ行くそのお寺にあるお地蔵様へ手を合わせる。
そのお地蔵様がどういうお地蔵様なのかわからないんだけど
お母さんは僕に「大きくなったらちゃんと教えてあげるよ」って言ってた。
そんな今日は月に一度のお寺へ行く日
車でそんなに長い時間はかからないけど、30分くらいだと思う。
今ではお寺に行くのも少し嫌だなって思ったりすることがあったりする。
そんなこと思うのは悪い事かも知れないって思うけど
面倒くさいなって、でもお父さんとお母さんはこの月に一度のこの日を大切にしている。
お寺について僕はお手洗いに行きたくなったので
トイレに向かった、お父さんとお母さんは先にお地蔵様のところへ向かっていった。
用を足して急いで手を洗ってトイレから出た、ちゃんと手拭けてなかった。
まだ少し濡れてる手を前に出して左右に振っていたら後ろから急に声を掛けられた。
「何してんの?キョンシーの真似事?」
いきなり話しかけられたから僕はビックリして
大きく目を開けて振り返った。
「うわぁ!ビックリしたー!」
「ごめんごめん、ねぇ君、このお寺に良く来てるよね?」
「え、うん。僕の事知ってるの?」
「ふふふ〜、私はねっアンタが小さい時から知ってる」
「えぇ〜お寺の人?今までおねぇちゃんのこと見たことなかったや」
「いつも忙しくてねぇ〜なかなか顔出せなかったの」
「そうなんだ、今日は忙しくないの?」
「うん、もう忙しくならないよ。神様に許可もらったからねぇ〜」
おねぇちゃんはニコニコしながら僕にそう言った。
神様に許可もらったってなんだろう?お寺にある神様にお願い事でもしてたのかな。
「ほら、お父さんとお母さんのとこ早く行ってきなよ心配されちゃうぞ〜」
「あっ!そうだった、お地蔵様のとこにお祈りしなきゃ〜じゃあね!おねぇちゃん」
「うん、またね〜」
僕は急いでお父さんとお母さんのところへ急いで走った
少し走ってお地蔵様が見えてきた。
お父さんとお母さんは僕が来るのを待っていたみたいで
まだお祈りしてなかった。
早歩きでお父さんとお母さんのところに近づくと
お母さんが不思議そうに僕を見つめて言った。
「遅かったね〜何してたの?」
「あのね、お寺のおねぇちゃんとお話してた」
「おねぇちゃん?住職の娘さんかしら?息子さんだったはずだけど」
「何歳くらいだったの?」
「ん〜中学生とか?高校生?わかんないっ」
「もしかしたら、他のお墓参りに来た人じゃないか?」
お父さんがお母さんにそう言って
袋から線香を取り出した。
「さっみんなでお祈りするぞ〜」
「そうね、さぁお祈りしましょ」
「うん、わかった〜」
いつも思うんだけど、お祈りしてる時何を言えば良いんだろう。
お願い事とかして良いのかなぁ?
いっつもお祈りするときに迷うんだ。
だから僕はいつも「みんな元気になりますように」っていう事にしてる。
いつも僕はお父さんとお母さんよりも早く、お祈りが終わっちゃう
ゆっくり目を開いて周りも見渡したら、少し離れたところに
さっきのおねぇちゃんの姿が見えた。
「あっ!さっきのおねぇちゃんだ」
丁度、僕がそう言った時に
お父さんとお母さんもお祈りが終わったみたいだった。
お母さんは僕の見ているところを向いて言った。
「どこにいるの?もうどこかいっちゃったのかしら」
お母さんはおねぇちゃんのこと気になっていたみたい。
僕にはおねぇちゃんが見えてるからお母さんは違うこと見てるのかな。
「ほら、あそこにいるじゃん」
お母さんを見ながら、おねぇちゃんのいるところを指差した。
「何言ってるのよ、もういないわよ」
「えぇいるよ〜!」
僕はそう言っておねぇちゃんがいたところをもう一回見てみると
おねぇちゃんはいなくなっていた。
「もう帰っちゃったのかな?さっきあっちにいたのに〜」
「そうかもね、さっきアンタと話をしたから気になったのかもね〜やるじゃんアンタ〜」
「どういう意味?何もしてないよっ!」
それを聞いたお父さんは大きく笑っていた。
「まぁ俺の子だからなぁ!はははは!」
何が面白いのか僕はわかんないけどお父さんとお母さんは2人で
楽しそうに笑ってた。
お父さんとお母さんは明るくて優しいからなんかいつもこんな感じで笑ってる。
いつものことだからボーと2人を見てたら、後ろからまた急に声がした。
「良いよねぇ、仲良しでさ!」
振り返ってみると、さっきのおねぇちゃんがいた
「おねぇちゃん、いつからいたの?」
「今さっき、ちなみに言っておくとねアンタのお父さんとお母さんには私のことは見えないのよね」
「えぇ!?何それ?おねぇちゃん、幽霊!?」
おねぇちゃんは人差し指を口に当てて
「シーッ!」てしながら笑った。
「アンタ、誰と話してるの?」
お母さんが驚いた顔をして僕を見ていた。
「あっ・・えっと〜独り言!」
「も〜驚かさないでよ〜ほら帰ろっ」
おねぇちゃんの言う通り
お母さんには、おねぇちゃんが見えてなかった。
僕はビックリしたけど、おねぇちゃんが怖いとは思わなかった。
「先に車に戻ってて〜おしっこしてくる〜」
おねぇちゃんと話をしたかったから
お父さんとお母さんにはバレないように嘘ついた。
だけど、お母さんと話してる内におねぇちゃんはどっか行っちゃってた。
僕はとりあえず、トイレの近くに行ってみた。
おねぇちゃんが笑いながら手招きしてた
「アンタ〜もしかして私と話したくて嘘ついたでしょ〜?」
「うん、だっておねぇちゃん幽霊なんでしょ?お母さんもお父さんもおねぇちゃんのこと見えてなかったんだもん」
「ははは、そうだねぇ〜アンタは私のこと怖くないの?」
「ん〜なんかテレビで見る幽霊と違うから怖くない」
「そっか、なら良かった!ちょっと頼みがあるんだけど良い?」
「頼み?どんなこと?」
「神様に約束したのよ〜アンタのことを守るから幽霊にしてって」
「えーどう言うこと?なんで僕を守るの?」
「子供はそんなことは気にしないで良いのよ!頼み事ってのはアンタについてって良いか?ってこと」
「えぇ〜いつもおねぇちゃんが僕の近くに居るの?」
「いつもではないけどねぇ〜とりあえずアンタの家までついてく」
「良いけど、ずっとおねぇちゃんに見られてるのはヤダ」
「何〜?こんな綺麗なおねぇちゃんに見られてるのは恥ずかしい?」
「ちが〜ぅ!なんかやなだけ!」
よく分からないけど、幽霊のおねぇちゃんが家に着いてくる事になった。
子供の頃にお寺で女の幽霊に出会ってから
俺もだいぶ大きくなった。今でも女の幽霊は家にいる。
母さんと父さんには相変わらず彼女の姿は見えていない。
俺だけが彼女の姿を見えている。
「考えたらアンタも、大きくなったわよねぇ〜!」
「そうだなぁ、てかさ神様に俺を守るって約束していつまで続くわけ?」
「さぁ〜ねぇ〜そもそもそんな約束してないしっ」
「はぁ?もしかして嘘だったのかよ?ありえねぇ〜」
「だって、アンタに着いてくためにはとりあえず困ったフリしておこうと思ってさ」
「てか、なんで俺なんだよ、他の誰かでも良かったんだろ?着いてくの?」
「気まぐれよ〜気まぐれ〜そのうち分かるわよ」
「気まぐれなのに、そのうち分かるって適当言うなよ」
「神様に約束したことがあるのはホントよ、あと守るって言ったのもほんと、アンタのこと何回助けたと思ってんのよ」
「いつ助けだんだよ?助けられた覚えなんてないぞ」
「気づくわけないでしょ〜、車に轢かれかけそうになった〜!とかそう言う時に助けるんじゃなくてそもそも危険を回避させてるんだから」
「そんなこと言われたらなんとでも言えるじゃん」
「まぁ〜ねぇ〜!でもそろそろ守るのも終わりよ安心して」
「安心というか年頃の男子だぜ?色々あるんだからそれを見られてるのは嫌だろ」
「さすがお父さんの息子ね〜!」
そう言うと彼女はゲラゲラ笑っていた。
「そういや、そろそろあのお寺に行く日近いんじゃないの?」
彼女は笑い過ぎて涙目になりながらこちらを見て言った。
「そうか、そろそろそんな時期だ」
父さんと母さんだけは毎月欠かさずお寺へ行っているみたいだが
俺は学業や部活動が忙しくなっていたためあのお寺に行くのは毎月から毎年に変わっていた。
年に一回のお寺へ行く日
父さんと母さんは朝から支度して準備を整えていた。
俺は部屋でゆっくり準備をしていると彼女がベッドに現れた。
「お父さんとお母さん、準備終わってるみたいよ〜急ぎな〜!」
「わかってるよ〜ちょっと朝は弱いんだよ俺」
「多分さ、今日母さんから何か話があると思う」
「はぁ?何それ、てか心読めるのかよお前」
「ううん、なんかそんな気がしただけ」
それを聞いて俺は「大きくなったらちゃんと教えてあげるよ」と母が言っていたことを思い出していた。
「あぁあのことかもな」
そう呟いて
とりあえず、急いで支度を済ませて父さんと母さんの元へ向かう。
母さんが玄関で待っていた。
「おはよう〜、父さんもう車で待ってるから行こっか」
「おはよう、おう、線香は?」
「珍しいわね、アンタがそんなの気にするの。大丈夫ちゃんと父さんが持ってるから」
「そっか、OK」
母さんと父さんが待つ車へ向かう途中、母さんが話し始めた。
「そういえばさ、アンタ覚えてる?小さい頃、あのお地蔵様がなんのかって話」
「あぁ、丁度それ今日思い出したよそう言う話してたなぁって」
「覚えてたんだねぇ〜そうかやっぱり」
母さんは少し微笑みながらどこか清々しさすら感じる顔になっていた。
「あのお地蔵様はね、水子供養のお地蔵様なんだよ。アンタが生まれる前、もしかしたらねぇ〜お姉ちゃんがいたかもしれないんだよ〜」
「そうだったのか、もっと早く言ってくれれば良かったのに」
「そうね、別にやましいことでもないしちゃんと小さい内からでも説明してあげてれば良かったのかもしれないけどさ」
「まぁタイミングってものもあるもんね、一応悲しいことというか難しいよなこういうのって」
「うん、別にね、アンタが生まれる前から父さんもお母さんもさ受け入れていたの。でもほら、ちゃんと供養してあげてさ良い人のところで生まれてねって」
「あぁ、そうだね。悲しくなるよりは前向いたほうが良いだろうし、そのほうが供養になると思うよ。俺はいつもよく分かってなかったから「みんな元気でありますように」ってお願いしてたけどな」
「ははははっ!な〜によそれ!」
母さんは笑いながら少し嬉しそうな顔をしていた。
「よかった、話せて」
「おう、良かったよ理由聞けて、今日はちゃんと供養になるように手を合わせるわ」
母さんからお地蔵様のと姉貴がいたかもしれないという話を聞いて
今日はいつもと違ってお地蔵様にしっかりと手を合わせた。
お寺から帰ってきて部屋に戻ると彼女がベッドで寝そべっていた。
「おかえり〜ちゃんとお祈りしてきたぁ?」
「あぁ、してきたよ、お前の言う通り母さんが姉貴がいるかもしれないって話してくれたわ」
「ほ〜らやっぱりね!私の言う通り」
「ついでにお前が成仏するようにお願いしといたぞ」
「はぁ!?待ってよ私はねとっくに成仏してるから〜」
「嘘つけよ成仏してないから幽霊でここにいるんだろうが」
「だから〜言ったでしょ!私は神様と約束したんだって!」
「はいはいっ、言ってましたね〜そんなこと」
「なんなのその言い方は〜ったくムカつくぅ〜」
俺は高校、大学と進学し、大学を卒業後に就職してサラリーマンをしている。
相変わらずいつ成仏するのかも分からない彼女は俺が大学進学で一人暮らしをするタイミングで一緒に憑いてきた。
実は一度霊媒師にお願いして祓ってもらおうとしたことがある。
だが霊媒師は「あなたは守られてるみたいだから大丈夫だよ」と言って
結局お祓いをせず終わった。
霊媒師は彼女の姿をちゃんと見えてたしニコニコしながら楽しそうに彼女と話をする始末。
正直、彼女が常に居る生活に慣れてはいたので興味本位で試した程度だったし本気でお祓いしようとした時には止めるつもりだった。
それと彼女が「俺を守る」と神様と約束をしたというのが本当かもしれないというのを体感した出来事があった。
俺にガールフレンドができた時、彼女はそれを邪魔するように現れることがあった。
初めは彼女に対してイラついて怒ったのだが。
彼女は「あの子はやめときな!本当、よくないから!」と言って聞かなかったのだ。
後々、友人から俺のガールフレンがどうやら複数人と付き合って、男に貢がせて適当なタイミングで別れるという外道な行為をしていると聞かされ俺はガールフレンドと別れることにした。
別れ際のガールフレンドはめちゃくちゃブチギレて俺に当たり散らしてきて若干、女性恐怖症になりかけた。
それからというものガールフレンドができる度に
彼女は「また貢がされてるんじゃないの〜??」とか嫌味を言って揶揄ってきたりしてきた。
今では、彼女の存在はある意味で空気のような存在になっていた。
というか就職してからは仕事に専念していたこともあったからかもしれない。
仕事が休みのある日、彼女がベッドに現れた。
「そろそろ、守るのも終わりだねっ!アンタの望み通りに成仏する時が来ました〜ぁ!」
「なんだよいきなり、俺はもうお前の存在はあまり気にしてないよ。仕事も忙しいしな〜。てか成仏とかじゃなく神様と約束してたんじゃね〜の?」
「ふふふっそうっ!てかアタシよりお兄ちゃんになってるもんねもうアンタは!」
「お兄ちゃんじゃなく、もう立派な大人です」
「そうだね、いつもお疲れさん!次会えるのはお父さんになってからかなぁ〜」
「いや、成仏してね〜じゃね〜かよ!遂に他の宿主でも見つけてくれたのか?」
「違うわよ〜成仏だって!神様との約束も果たせたしっ♩じゃあまたね!」
「そんな急に居なくなるんだなぁ今までありがとうな、あの世か他の宿主のとこでも元気で」
「成仏ぅ!!てか、寂しくないわけぇ?こんなに一緒にいてあげたのにっ」
「子供の時から一緒なんだから、寂しいを通り越すに決まってるだろ」
「はははっ!そっか、じゃあね!また!」
そう言って彼女はゆっくりと消えていった。
本当に、寂しいとかそういう感覚に無かった。
家族が旅立っていく感覚というか、いつかは居なくなるものだと思っていたからか。
とりあえず、彼女のいう神様との約束というのも果たせたようだし良かった。
恐らく、俺が大人になりしっかりと自立して生きていけるまで守るとかなんとかそういう理由だろう。
もしくは、本当に違う宿主を見つけたかだ。
彼女が俺の元に現れなくなってから数年。
年に一回となっていた、お寺へ行くのも仕事をし始めてからは
行けなくなっていた。
というか、それが毎年恒例の行事になっていたことすらも忘れてしまっていたのだ。
今では結婚を前提にお付き合いをしているガールフレンドもいて、毎日が順風満帆といったところだ。
勿論だが、貢ぎまくったりはしていない。
明るい性格で優しい人だ。
今度、仕事の休みを利用して実家に帰るタイミングでガールフレンドを紹介しようと思っている。
そうだ、ついでに久しぶりにあのお寺にでも行くか。
姉貴にも報告してお祈りしておこう。
今日は、ガールフレンドを紹介する日だ。
久しぶりの実家はとても懐かしかった。
両親はガールフレンドのことをとても気に入ってくれたらしく
早くも結婚後の話に花を咲かせていた。
「あ〜もういつ頃、孫連れてきてくれるの〜?私、ほんと楽しみ」
「にしてもさすが俺の息子だ〜母さんより美人を連れてきたなぁ」
「あ〜な〜た〜?」
相変わらずな両親、ガールフレンドもそんな両親を気に入ってくれたようで俺もホッと胸を撫で下ろす。
「次は俺が紹介される番だな〜緊張する〜。」
心の中でそう呟きながら、彼女の存在を思い出した。
彼女もきっと成仏して喜んでくれていることだろう。
「ちょっと、俺、あのお寺行ってくるわ」
「あぁ!うん!気をつけて行ってらっしゃ〜い」
既に、母さんは俺のことなどそっちのけでガールフレンドとの
会話に夢中になっていた。
ガールフレンドと両親を家に残して俺はあのお寺へと出向いた。
お寺に着くと、懐かしさが込み上げてきた。
「うわ〜久しぶりだなぁ」
小さい頃はなぜか感じられなかった。
神秘的な空気感を感じながらあのお地蔵様の元へ歩いていく。
あの彼女と出会ったトイレもあの頃のまま少し古臭さを感じさせるが
綺麗にされていた。
お地蔵様の元にたどり着き、袋から線香取り出して火をつける。
香炉に線香を立てて手を合わせゆっくり目を閉じた。
心の中で呟く。
「お久しぶりです。あの頃のようにはここへ来ることができなくなってしまいましたがいつまでも家族が元気でいられるよう見守っていてください。
姉貴、天国で元気にしてますか?俺はもうそろそろ結婚するかもしれません。」
今まで来れなかった分、たくさんのことをお地蔵様と姉貴に向かって話をした。
不定期にはなるかもしれないが、たまには顔出さなきゃな。
俺はお祈りを終えて実家へ戻った。
まだ母さんはガールフレンドについては慣れず
まだ楽しそうに話をしていた。
あれから2年、無事ガールフレンドは妻となった。
ガールフレンドの両親に会う時は緊張していたが俺の両親同様に
とても明るくて良い家族で俺が紹介した時のように
ガールフレンドのお父さんが俺について離れずといった感じで
快く受け入れてくれた。
妻は妊娠していて、そろそろ予定日が近づいている。
俺は安産祈願も兼ねてあのお寺に行くことにした。
あの日から俺はちょいちょい時間ができたらお寺に通ったりしていて
その度に実家にも顔を出して、彼女の様子も伝えていた。
母さんは妻とスマホを使ってチャットや通話で会話を楽しんだりしているようで、父さんもそれに合わせてスマホの使い方を覚えたらしい。
遠隔でも良いから初孫が早く見たいらしく「出産後に落ち着いたら通話してね!」と耳にタコができるくらいに言っていた。
妻が出産を無事終えてから5年が経つ妻は元気な娘を産んでくれた。
我が子というものがこんなにも愛おしい存在になるなんて
俺の両親もこんな気持ちだったのかもしれないなと考えると
とても感慨深いものがある。
母さんは相変わらず妻とも仲良しだが娘が生まれてからというもの
次はターゲットを妻から娘へと移し、ほぼ毎日のように通話で娘の姿を見ながら話をしている。
妻が笑いながら娘と通話をしているのを俺は横で見ていると。
「あらら〜今日も可愛いわねぇ〜!私に似て美人さん!」
なんて、似るのなら俺か妻だろうにまず自分を挙げるくらいに溺愛していて
そんな中、父さん画面の端に映り込み見切れた状態にも気づかず変顔やらなんやらしてコミュニケーションをしようと必死になっている。
こりゃあ実家に帰った時は帰してくれなくなるかもしれないなぁと思いながらも俺は妻のお父さんと飲みに行ったりする。
どちらの家族もとても良好で、幸せな日々だ。
これもお寺にちゃんと通うようになってからだろうか。
妻が通話を終えたようで
娘が俺の元へやってきて突然、不思議なことを言い出した。
「パパーあのさー、私がさー、また次に会うのはお父さんになった時だねって言ったの覚えてる?」
「えぇ〜なんだ〜お父さんは初めからお前のお父さんだよ〜?」
娘は笑いながらてを左右に振って答えた。
「違う〜違う〜!パパねー!私が会った時は私と同じくらい小さかったもん」
妻がその会話を聞いていたのか横から入ってきた。
「あ〜パパが小さい時かぁ〜◯◯ちゃんが大きい時に会ったもんねぇ〜」
妻は娘に合わせて笑いながら言うと娘もニコニコしながら答えた。
「そー!あのねー神様にねーお約束してねー私がねーパパ守るって言ったのー!私がねーお願いしたのいつもパパ、お地蔵様のとこ来てくれてねーおじいちゃんとね、おばちゃんとねー私のこといつもお祈りしてくれてたからー」
その言葉を聞いて俺は涙が堪えきれなくなった。
そうだったのか、あの時の彼女は。
俺は思わず、娘を抱きしめた。
「ありがとう、いつも守ってくれて、今度はお父さんがお前を守る番だな」