ゴキの恩返し

ある日、俺の家にあの忌々しい誰もが恐れる「アイツ」がやって来た。

「先日、助けてもらったゴキブリです。あの時のお礼がしたくて!」

初めは悪ふざけか頭のイカれたヤツがやって来たのかと思った。

「はぁ?ふざけてんの!?帰ってくれ!!じゃないと警察呼ぶぞ?!」

すると慌ててゴキブリだと名乗る男は喋り出した 。

「ちょちょちょ!ちょっと待って!ほらあの時ですよ! 私がベランダから貴方の家に侵入したんです!実はその時、アシダカグモに追われていて、それを貴方がホウキで追い払ってくれたじゃないですかぁ!!」

確かに、コイツの言っている通り 先日、俺はアシダカグモを追い払った。

益虫と呼ばれているがあの見た目はどうも慣れない。
(小さいハエトリグモとかなら可愛いのにデカくなるとどうしてもなぁ・・ )
いやいや待て・・あの時、一緒にゴキブリが侵入してたのか?

俺は内心、呆気にとられていたが頭のイカれたヤツに隙を見せると何をされるかわからない。俺はそんな素振りも見せず怒りをぶち撒けた 。

「確かに、先日お前の言う出来事はあったが、あの時にゴキブリなんて見た覚えもない! ましてや!そもそもお前、人間じゃねーか!!ふざけてるのか!?もしかして、テメェ!!盗聴器か隠しカメラでも設置してんじゃねーだろうなぁ!?」
(全く、このご時世に恩返しだと?ふざけたペテン師だ、コイツも流石に焦って帰るだろう たまたま昨日の出来事を見たか、聞いていたに違いない。いや、そうじゃねーと困る!)

するとゴキブリは焦りながもズボンのポケットから何かを取り出して話し始めた。

「こ、、これを見て下さい!これ、貴方のものでしょう?もしくは彼女さん?とか?」

手には少し埃で汚れた指輪があった。

「お前、これをどこで?」

ゴキブリを名乗るこいつは続けて話をした。

「私はこれを見てせっかく助けてもらったんだ、きっと貴方が大切にしているものに違いないと思って拾ったんです!!テ、、テレビです。テレビの下!テレビを置いてる台の下にありました。」

(コイツの言っていることが本当だとしたらなんて優しいヤツなんだ。本当にゴキブリなのか?俺はゴキブリを助けたのか?そもそもまずゴキブリ知性も無ければこの指輪を運べるはずねぇ!)
「あのな…そいつは返してもらう!これ以上ここに居るつもりならマジで警察に突き出すぞ?」

奪うとる様に俺は指輪をぶん取った。

「さぁ、お前の用も済んだだろ?帰ってくれ」

俺はあからさまに冷たく言うと、こいつは少し悲しげな顔をしながら答えた。

「わかりました。えっと、、本当にありがとうございました!また何かあれば恩を返しに来ますから!」

そういって、コイツは足早に去っていった。

「ふぅ・・。なんだったんだ、あいつ。てかこの指輪マジでどこでみつけたんだ?掃除中で指輪が邪魔になって外した時に無くしたはずだから家の外で見つかるはずねぇ・・。」



俺はあいつがこの指輪を見つけたと言っていたテレビ台の下を確認してみることにした。
もしかしたらここに隠しカメラでも設置されてるんじゃねぇか?様々な疑問や疑念が頭に渦巻いて仕方がない。

テレビ台を動かしてみるとうっすらと積もった埃の上に小さな何かが這ったような跡があった。
その跡を目で追ってみると小さな隙間がありそこで跡が消えていた。

(おいおい、床にこんな・・大丈夫かよココ・・。)

思わず、住んでいるこの部屋の心配をした。
大家に言っても俺の入居時の確認不足にされるのだろうか…。
そんなことより昨日のアイツだ。

(アイツがもしテラのフォーマーみたいな感じで人間ゴキ野郎だとして
この隙間から外に出たのか?あいつがもし次現れたら、問いただしてやる。)

いつの間にかアイツがゴキブリであるという言い分に向き合うようになっていた俺は、アイツがやってくるのを待った。

あの時、アイツは「また何かあれば恩を返しに来る」と言っていたからだ。


アイツが来るのを待っていると

ピンポーンとインターホンがなった。

足早に玄関へ向かいドアを開ける。

「あっ!こんばんは!あの時のっ・・」

ゴキブリと答える前に俺は重ねて答えた。

「おい、話がある!とりあえず部屋に上がれ」

「あ、、はい。ありがとうございます」

見た目は本当にただの人間に見えるコイツを上から下まで舐めるようにじっくりと観察したが、一切ゴキブリ感がない。

ジロジロと見られていることに感づいたのか、こちらの行動に恐怖を感じているのか。怯えた様子で口を開いた。

「あっ。。あの〜話とはなんでしょうか?」

「あぁ、すまん。お前この指輪をテレビ台の下で見つけたって言ってたな?」

「はい、そうです!あの時このテレビ台の下に逃げ込んで見つけたんです!」

「で、お前この指輪をどうやって運んだんだ?」

コイツは、「待ってました!」と言わんばかりにぱっと笑顔を見せ、意気揚々と話し始めた。

「それはですね!テレビ台の下に私とこの指輪がちょうど入る隙間があるんですよ!それでね!そこの隙間にこの指輪と一緒に入ってったわけです!」

「そこまでは百歩譲って良しとしよう。お前はなんだ?明らかに人間の見た目をしているだろ?どう説明するんだ?」

「あ〜・・そうかそうですよね・・ん〜これはですね〜・・」

「なんだ?やっぱり何かやましい事があるのか?盗聴か?盗撮か?!」

「いえいえっ違うんです!わからないんですよ・・あの隙間に入ってから抜け出し時には私、人間の姿をしてたんです」

「おいおい、お前、そんなこと信じてもらえると思ってるのか?」

「だから困ってるんじゃないですか・・。この隙間の先はですねどうやら地下の排水溝に繋がっているみたいでそこから私は地上に上がって来たんですよ」

「地下の排水溝?そんなとこに繋がってるのか?」

「はい、あっ!とは言え、この部屋に排水場の臭いやらなんやらが届くことはないと思います。この隙間から下にもぐって、手あたり次第、割れたパイプみたいなところを通って、ずいぶん長く移動しましたから。」

「ほぅ・・んで、紆余曲折あって今に至ると?」

「はい、恐らくですが、近くに化学工場がありませんか?いくつものトンネル抜けた時に、工場のような建物が見えました」

「化学工場か、確かにあるな。それがなんの関係があるんだ?」

「主も鈍い人ですねぇ〜!化学工場ですよ?!なんの研究をしているかわからないじゃないですか〜」

「お前、なんか腹立つな」

「あ、、すみません。悪気はないですよへへっ・・。つまりですね、その工場なんかやばい研究してるんじゃないですかね?私、排水溝の汚水にずっと触れてたんですよ。でないと説明がつきません」

「いや、だとしても説明つきませんよ。そいつわぁ世間が許してくれやせんヨォ」

「なんですかそれ?」

「お前やっぱ腹立つな」

「え!!だってわからないんですもん!」

「待て、そもそもお前がゴキブリでその地下を流れる汚水に触れて人間になってるのなら、他の生き物はどうなる?お前と同じように・・」

「そいつわぁ世間が許してくれやせんヨォ〜」

「お前、殺すぞ?」

「えぇ!!冗談じゃないですかぁ!いや私の他にも居ましたよ。亀の見た目をした人型で5人組の奴ら居ましたし、小さなネズ・・」

「うん、もういい喋るな、ミュータントなやつだそれは」

「え?知ってるんですか?」

「とりあえず、それは知らないことにしておく。ただ俺の疑問はまだ解決していないぞ!」

「なんでしょう・・・。」

「その服装はどうしたんだ?」

「あぁ!これはですね!ちょうど近くに住んでいらした慈悲深きホームレスの方から頂きました」

(納得していいのか・・?)
「とりあえず、理解した。お前はゴキブリだったということは結局のところ照明ができないから良いとしてだ、これからどうするんだ?てか俺がお前を追い払った日はどうしてた?」

「それはもちろん、慈悲深きホームレスにお願いして泊まらせてもらいましたよ!体も洗っていただきました」

「何者だよそのホームレス、慈悲深すぎだろ、体洗ったってお前どこで?」

「銭湯です!初めての体験でとてもとても心地良かったぁ〜幸せを感じましたよぉ!人間っていいですねぇ!あんな暖かい水に浸かって体を洗えるのですから!」

ゴキブリだと言うことを忘れてしまうくらいコイツは純粋に見えて仕方ない。
てか、めちゃくちゃ菌まみれじゃねーかコイツ・・。
想像するとちょっと吐き気がする・・。

「んで、、お前これからどうするつもりだ?」

「ん〜そうですね〜特には決めてないです。慈悲深きホームレスの方には話したんですがなに困ったらいつでも頼って良いと言っていたので彼のところにでも行きますかね」

「そうか、、とりあえず、今日は礼をしてやるよ指輪を持って来てくれたしな」

「えぇ!そんなの悪いですよ私は恩を返すために指輪を持って来たのですから!それに役に立てればと思って今日は何かお手伝いをするためにお伺いしたんですからね!」

「お前、本当にゴキブリか?」

「えぇ元はゴキブリです。何故かゴキブリの頃の名残りが一切ないのが玉に瑕ですね!」

「いや、なくて良いだろ」

「そ、、そんなぁ!私は遥か昔から姿形も変わらないまま現代まで生きてきた素晴らしい一族なんですよ!生きる化石と言っても良い!!」

「俺ら人間にとっては害虫だ、無駄に増えてキリが無い忌々しいやつらめ」

「・・そう言われると悲しくて泣いちゃいますよ?生きる物全てに愛を〜!」

俺はいつの間にかコイツに興味を持っていた、たわいもない会話をしながら
この日は一緒に飯を食べた。



アイツは慈悲深きホームレスの元へと帰って行った。

飯にも興奮してテンションが上がるかと思ったが、アイツ、
「やっぱり僕が今まで食べて最高に美味しいと思ったのはですね!高級店イタリアレストランのステーキです!あんなご馳走なかなか食べ残しで捨てられることはありませんからねぇ〜」
とか言ってやがった。
随分と良い物を食べてきたらしい。
思わず拳を振り上げたが「でも、なんだが主が作る料理も温かくて非常に美味!」と続けたあいつに何も言えなくなり、デコピンした。

そんな昨日の出来事を思い出しながら適当に時間を潰し、心のどこかでまたアイツがやってくることを期待していた。

そういや、ホームレスの人にアイツのこと聞いてみようかな。
次の休みの日にでも探しに行ってみるか。



その週はいつも通り仕事をして日々を過ごした。
職場の同僚にこんなこと話せるはずもない。
話したらきっと仕事のストレスで遂に頭がおかしくなったと思われ瞬く間に
俺の噂は広まり、遂には会社に俺の居場所は無くなるかもしれん。
そんな事になったら俺も地下水の汚水にでも浸ってみるか・・。

(というか汚水の話は気にならないでもないんだよな…)

仕事から帰ると俺はネットで例の化学工場について調べてみた。
これといって特にめぼしい情報は何もヒットしなかった。

そんなこんなでとうとう週末がやってきた。
俺は朝早くから家を出た。目的は慈悲深きホームレスを探し出すことだ。
恐らく化学工場の近くの河川敷あたりにでも居るだろう。

家から暫く歩いて大体15分くらいの所に河川敷がある。
土手沿いにしばらく歩くと、傾斜の向こうにブルーシートの連なりが見えてくる。
ただ、アイツの話では地下の排水場を抜けた先と言っていた
恐らく、工場の汚水が流入しているトンネル付近だろう。

河川敷を歩きながら排水トンネルを探して回る。
するとアイツの話していたように
トンネルの直ぐ近くにダンボールやブルーシート、トタンで作ってある家が見えた。

「おっ、、あれか?」

急ぐようにしてその家へ近く、思ったより小さいその家
その周りにはプランターがあり何かを育てているようだ。

「すみません!誰かいますか?」

とりあえず、家に向かって声を掛けてみる。
家の中で人の気配がした。

「どちらさんかな?」

直ぐにでも壊れそうなトタンのドアが開いた。

「あーここで良くお世話になっている男について聞きたいことがあって」

「ん〜あ〜お前さん、アイツの話してたもんか」

「俺のこと知ってるんですか?」

「わざわざこんな所に来るヤツなんて物好きしかおらんしな〜アイツのことならワシが面倒をみとるよ、たまにお前さんの世話になるかもしれんが悪く思わんでくれ。」

そういうと、慈悲深きホームレスのおじさんはスマホを取り出した。

「えぇ!スマホ持ってるんですか?これ使えるやつですか?」

「あぁ、ちゃんと繋がる、番号は〜ほれこれ」

「あぁ、ありがとうございます」

「アイツのことはあまり詮索せんでやってくれ、不思議なことを言ってる奴だと思ってるだろうが・・。まぁある種の病みたいなもんだ」

「え?病気なんですか?それは大丈夫なんですか?」

「あぁ、大丈夫だよ。ほれよく言うだろ世間では鬱だとかなんとか、精神的なやつだ」

「はぁ・・。そうですか。わかりました!あなたの言う通り余計なことは話したりしませんよ。色々事情があるでしょうから」

「あぁ、助かるよ。何かれば連絡してくれいつでも助けになる」

どうやらアイツの言っていたことは本当らしい。
この慈悲深いホームレス、見た目は確かにホームレスの見た目をしているが
どこかとても余裕がある。切羽詰まっていないというか。
とても堂々としていて不思議と頼れる存在に思えてしまう。

「なんでそんなに親切なんです?」

「気まぐれだよぉ歳取ると特にやることもないからなぁ〜ワシの生活からしてやる事なさそうだろ?」

「はははっ・・。(ブラックジョークなのか?茶化しにくいジョークやめろよ・・)ありがとうございました。突然、伺ってすみません!それでは!」

「アイヨォ、またのぉ」

どうやら俺は勘違いをしていたのかも知れない。
人には色々な事情があるもんだしな。
ただイカれたペテン野郎だと思っていたけど、よく考えたら詐欺を仕掛けるにしては、話の作り方がおかしいもんな。
今のところ一緒に飯を食べたぐらいで実害は出ていないし、指輪も戻ってきた。

それに普通にしゃべる分には、問題なく接することができていた気がする。

あいつが精神的な病かぁ…。
気分に波があるのかもしれないな。

疑念は晴れないままだったがあまり深く考えないようにした。

アイツがまたやってきたらまた、飯でも作ってやろう。



数日、アイツが来ることはなく
俺はいつもの日常を送るようになっていた。
心の中では気になってはいたものの
慈悲深きホームレスのおじいさんが面倒を見ているらしいので、何かなければうちには来ないだろうと思っていた。

そういや最近、よくアイツが出てくる。
あ、アイツってのはリアルのゴキブリの方だ
昨日も一匹、始末した。

にしても2日連続で出てくるなんて、殺虫剤は常備しておくか。

ピンポーン

インターホンが鳴り響いた。

「ネット注文していたもんでもあったかな・・」

玄関へ急ぎ、ドアを開けた

「大変お久しぶりです!主!!」

アイツがニコニコと笑って立っていた

「おっ、、お前!今まで何してたんだよ!?」

「いや〜色々とですね!あの慈悲深きホームレスの方のお手伝いをしておりました!」

「手伝いってなんだよ」

「それは秘密です!ほら見てください!たくさんのネギを持ってきてまいりました!」

両手にはビニール袋にいっぱいのネギが入っていた。

「これで暫くはネギには困りませんねぇ!!」

「いやこんなにもイラねぇ〜よ!」

「ネギは体に良いと効きましたよ!!主のお体を気遣い恩を返すために育てたネギですよぉ!」

恐らく、慈悲深いホームレスの家の周りにあったプランターはこのためだったのだろう。

「あぁ・・そっか丁度、喉を少し痛めててな、ありがとう!じゃあこのネギでも使って飯でも作るかな」

「待ってましたよ!その言葉!主っ、実はですね私はネギが大好物なのですっ!知っていますか?ゴキブリにとってネギとは〜そうですね人間で言うところの河童のえびせんみたいなものです!」

「そうだったのか、まさにやめられない止まらない...じゃね〜よ!!んじゃ、これはお前のためのネギみたいなもんじゃね〜か!」

「半分はそうかもしれませんネッ!そう怒らないで!主、調理の準備をしましょう!」

「言われなくてもしてるわ!」

コイツは相変わらずで、ニコニコしながら嬉しそうに笑っている。

その時だった、コイツの足元をゴキブリが素早く走っていくのが見えた。

「おいおいおい!!リアルなやつは勘弁だぜ!!早速ネギの匂いに釣られたってのか!?」

「おぉ我が友!コック!」

急いで常備していた殺虫剤を取り、コイツに吹きかける

「ちょ・・主・・それ・・は・・・・。」

ゴキ共々、コイツもその場でぶっ倒れ痙攣していた。

「えっ。。えぇ!?」

理解が追いつかなかった。どう言うことだ。
なんかヤバイ成分でも入ってたのか?

てか、待てコイツは精神的病で・・。

(えぇ!?もしかして・・・。)

俺はスマホを取り出してホームレスのおじいさんへ電話をした。

「あいよ〜どちらさんかな?」

「もしもしっ!あのこの前、尋ねた者です!あの、、アイツが・・」

俺はとりあえず今の状況を説明した。

「あぁ、、そうか、、それは仕方ない。お前さんちは確か直ぐ近くだったな、アイツから聞いとるから今向かう」

「わ、、わかりました。」

「とりあえず、家の中で待っててくれんか。アイツの姿を誰かに見られんようにな。」

「わ、、わかりました。(コイツの言ってたことが本当なら救急車なんて呼ぶ気になれない、病気じゃなかったのか?)」

俺は言われた通り、家の中で待機した。
まだアイツは痙攣したままだ。
なんでホームレスのおじいさんは家で待つように言ったんだ。

ピンポーン

インターホンが鳴り響く。

玄関のドアを開けると、ホームレスのおじいさんと見に覚えも無い黒服の2人の男が脇を固めるように立っていた。
予期しない事態に、俺は何も言えずに居た。

「迷惑をかけてすまんかったな、とりあえずコイツはワシらが回収しておく、お前さんには悪いがこのことは他言無用。もし誰かに話したときにはお前さんの命の保証はできないと思え」

「え。。えっと。。わかり、、ました。」

黒服の2人がコイツを担ぎ上げる。

回らない頭なりに、俺は(詮索するなとは言わなかったよな…)と考え

おそるおそる情報を得ようとした

「あ、、あの、コイツは一体」

「コイツから話はきいとったろ?本当にゴキだったんだよ。ワシの存在はまぁ、なんとな〜く予想はつくだろう?」

「いや、、全然」

「そうか、まぁそれでも良い、とりあえずこれを受け取っておいてくれ口止め料みたいなもんだ」

ありきたりだが、パンパンになった茶封筒をテーブルへ置いて
ホームレスのおじいさんは去っていった。

それがから数ヶ月が経つ

相変わらず、あの科学工場は稼働してるし
事件や事故などもないようだ。
俺も、いつもの通りの日常を送っている。
怖くて茶封筒のお金は使えてない

一度だけ河川敷に行ったことがある。

相変わらず、家も変わらず残っていたし、あのおじいちゃんもプランターに水をやっていたのを少し離れた場所から見ることができた。


「お〜ぉ、だいぶネギも育ってきたぞ、またこんな無駄に育てたからにワシらじゃ食い切れんな」



今ではあの出来事が夢だったのではないかと考えるようにしている。

何故か知らないけどあの日以来、良くネギを食べるようになった。

「忘れたくないのかもな」

そう思いながら身支度を済ませ
玄関へ向かう、たまにドアを開けたら
アイツが立ってるんじゃないかなんて考えたりすることがある

「ゴキブリはゴキブリでもアイツだけは憎めないやつだったな」

ゆっくりドアを開け、鍵を閉めた時だった。
後ろの方から声がした。

「おっお出かけですか?タイミングが悪かったですかねぇ?たくさんのネギをお持ちしたのですが〜!」

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