【連載小説】サキヨミ #3
背中から落ちた。しかし、衝撃はない。痛みもない。
落ちていってる感じはあった。しかし、どこにもぶつかってない。だが、背中が何かに接している感覚はある。
何しろ、真っ暗だ。漆黒の闇とは、この事を指すのだろう。
何も見えない。
ただ、感覚だけが研ぎ澄まされていく。
ピーン
何か甲高い金属音のようなものが聞こえたような気がした。
耳を澄ます。
次の展開を聞き逃したくないからだ。
恐ろしい。
何が起こるのかが全く分からない、見えない恐怖。
見えてないから分からないのだが、身体中の体液や尿が漏れそうに感じる。
涎が垂れてるかもしれないし、涙を流しているかもしれない。
そして、尿漏れも…
次の音は聞こえてこない。
暗闇は続く。
さっきの音は耳鳴りだったのか?
ずっとここに横たわっている訳にはいかないのだが、見えない恐怖のため、身体を動かす事ができない。
どうする?
覚悟を決めて、僕は立ち上がる事にした。
まずは上体をゆっくり起こす。
何も起きない。
頭が上がって、多少頭痛がある事を自覚した。
僕は首を振ってみた。
頭痛は取れなかった。
左手で右手を触ってみた。
いつもと同じだ。
右手は、左手の血の通った温かい感覚を感じていた。
体育座りのまま、僕は入念に身体を点検した。
どうやら傷んでいるところはなさそうだ。
後は立つだけだ。
立つには相当の勇気がいる。
僕は心の準備が整うのをじっと待った。
一体何が起きてるというんだ?
今日は仕事が忙しく、いつもよりちょっと遅くテレワークを終えた。
家族は夕食を終えてたから、僕は一人で食事をした。
妻と息子の隆太郎は、来年に迫った高校受験の進路の面談で塾へ行った。
食事を終えた僕は、風呂を洗い、湯を溜めてから、TVの前で焼酎を飲み始めた。
2杯目の水割を作ったところまでは覚えている。
しかし、その後の記憶があやふやだ。
多分、いったん寝たんだろう。
そして、起きた後、飲み残しの焼酎の水割りのグラスを持ち、自室に戻って、ネットを見始めた。
で、今に至る。
真の暗闇というヤツには、全く目が慣れない。
大体自分の目が、今開いているのかですら、分かったもんではない。
ここの空気もやっぱりネトっとしており、身体に纏わりつく感が拭えない。
こうしていても仕方がない…
ようやく僕は、決意する事ができた。
そして、膝立ちから、ゆっくり立ち上がった。
ボワン!
急に頭上が白く輝いた!
ブビビビン!
電磁波の揺れ。
ガックン!
この空間全体が、青白い強烈な光で覆われた。
あまりに白く、僕は自分の身体ですら目にする事ができないほどだ。
ピーシューン…
now loading…
白い頭上に、大きな文字で、now loading… が浮かんでいた。
ボワン!
キュシューン…
灯りが落ちた。
目には残像が浮かんでおり、暗さに追いつかない。
ボワン!
ブビビビン!
再び、電磁波の揺れを感じた。
白い灯りは戻り、僕の前に白い空間が広がった。
今度は、光度が抑えられており、目が眩むような事はなかった。
目が慣れた。
僕は周りを見回そうと、左を見た。
するとそこには、グレーのフードを被った人が立っていた。
「うわっ!」
僕は怯んだ。
「驚かせてごめんよ。しかし、これしか君を救う方法がなかったんだ。」
その人はフードを脱いだ。かなり力がありそうなガタイの良い青年がいた。
「君は誰だ?」
「僕かい?僕は「救済者」だ。」
「「救済者」?じゃあ、君はいつも誰かを救っているのか?」
「そうだね。それが証拠に今は君を救っている。」
「そうか、君が救ってくれたのか…じゃあ訊くが、ここはどこなんだい?」
「ここかい?ここはサキヨミだよ。」
「サキヨミ?」
「ああ、そうさ、サキヨミへようこそ。峰尾隆二さん。」
どうして僕の名を知っている?
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