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【連載小説】恋愛 #12

前夜は、早めに帰ったと思う。マジカがスナックで酔いつぶれたため、大橋が、この店から合流させた自分の会社の若い社員にタクシーで送らせたと記憶している。
マジカはタクシーを降りる時、その社員にお礼を言った覚えがある。
不思議だ。全然酔えなかった酒が、心がちょっと軽くなったら、途端に酔える酒に変わってしまった。
カラオケで何曲歌ったかは分からないのだが、起きると声がガサガサになっていた。
昨日来てた服のままで寝てたという事は、シャワーは使ってない。
マジカは服を脱いで、洗濯機に入れ、シャワーを浴びて着替えた。
そして、今日の現場へと出かけた。
 
朝が遅くて助かった。武蔵浦和駅には待ち合わせよりも30分も早く着いた。
駅前のカフェでジャーマンドッグとアイスコーヒーで朝食にした。
そこでまた気づいた。今日も一切二日酔いにはなっていない。
これは感情のアップダウンが影響しているとしか思えない。なら、今日は勝てる筈、マジカはそう思った。
 
今日も起きてから、定期的にプライベートのスマホはチェックしているが、相変わらず何も反応はない。ただ、昨日までと違うのは、場合によっては来週高松に行けるかもしれないという状況が生まれている事だ。別に自腹で行けば、いつでも行けるのは間違いないのだが、それだと、本当にアミにスカされている事が分かった場合に、自分に逃げ場がなくなるような気がして躊躇していた。でも、大橋のチャンネルで仕事になった場合は、あくまで「仕事のために高松へ行く」という自分への言い訳ができる。
そんな風に自分で自分を守っていかないと、今の状況のままでは精神が持たない。

 
ヤワだな…

そう思われても仕方ないけど…でも、今の自分には大事な事だ。

まあそうだな、分かるよ。

分かってくれるかい?

ああ分かってやるよ。でもな、だったらまず一個一個の仕事を大事にしていけ。負けんじゃねえぞ。負けてばっかだと落ち込む一方だからな。

分かった。

 
どうやら、自分の中の葛藤も折り合いがついたようだ。
 
マジカは、仕事へ向かった。
 
 
夕方4時に実戦は終了となり、すぐにエンディングを撮ると、5時過ぎにはマジカは電車に乗れた。今日は辛勝だったが、勝つには勝った。午前中は現金投資が止まらずで困ったのだが、午後遅めにラッシュに入り、マクったばかりか、2万ほど勝ち越せたので、気分は悪くなかった。
 
豪徳寺に着くと、駅前で晩ごはんをテイクアウトし、コンビニで発泡酒を2本と、レモンチューハイを2本だけ買って帰った。
このところ飲みすぎてる事を自覚してるし、飲まずにおこうかとも考えたのだが、寝れなくなってしまうかもと思い、リスクヘッジの意味も込めたと自分に言い聞かせて買った。
 
部屋に帰ると一旦空気の入れ替えのつもりで窓を開けた。今日も熱帯夜でモアっとしたイヤな空気が部屋に流れてきた。
冷蔵庫に酒の缶を全部入れた。総菜はレンジの横に置いた。
TVをつけると、今日はBSで西武の試合をやっていた。
窓を閉め、エアコンを全出力にしてから、マジカはシャワーを浴びに行った。
 
シャワーから出てくると、スマホが振動した。
マジカは慌てて画面を見ると、大橋万次郎事務所の花木からメールが入っていた。
中身を読むと、来月17日にこないだ行った高松のホールで来店が決まったと伝えてきた。
マジカは8月16日から19日まで夏休みを取っていた。まだチケットは取ってないが、予定では実家に帰省するつもりでいた。しかし、それは今回は諦めた。
 
マジカは、花木にメールの内容を確認したとの返信を打った。

その後、マジカはアミへショートメールを打った。

 
マジカです。ずっと返事貰えてないけど、元気なのかな?病気かもと思って心配してます。実は来週の17日にこないだのパチンコ屋さんで仕事が決まりました。翌日も休みなので、高松に泊まろうと思ってます。良ければ、17日の夜に一緒にメシでも食べませんか?飯だけですからご安心を。ご都合を教えて下さい。

 
これで返事がなければ、それまでだ。
そんなつもりで、送信した。
 
しかし、送ってしまうと、今まで以上にスマホが鳴らない事が気になってしまった。
 
仕方ない。
 
マジカは今晩も酒を飲む事にした。
そこで、今日もまた氷を買ってくるのを忘れた事を後悔した。
 


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