【連載小説】サキヨミ #24
収蔵庫に着いた。ここに辿り着くまでに二回も強い突風に吹き飛ばされそうになったが、何とか堪えて着く事が出来た。収蔵庫の奥にある二人の保存室の鉄扉の前に来ると僕はアームのツールを変更し、鉄扉を焼き切った。
鉄扉が開くと、キャリーカーが伸びていき、ベルトコンベア状態になった。そして、二人の保存ケースを外へと運び出した。
2台の保存ケースがキャリーカーの上にきちんと収まると、自動でロックされた。
僕とボーは、それぞれのキャリーカーのロックが完全かどうかを素早くチェックした。
ここまでで、予定時間よりも46秒程巻いている。このリードは保たねばならない。
チェックが終わると、僕らはそれぞれのキャリーカーの前を歩き、収蔵庫のある洞窟の入口のドアの前に来た。
ドアの横には外を映し出すモニターがあり、外に出られる状態かどうかを確かめる事が出来る。
僕は、ずっとモニターを見た。外は風が弱そうだ。今なら行ける。
ボーを見た。頷いた。
僕はドアを開けるボタンを押した。
ボーが先に出た。振り向いて、キャリーカーに手招きした。彼のキャリーカーがスルスルスルと滑らかに出て行った。
次に僕が出た。最後に僕のキャリーカーが出ると、ドアが閉まった。
キャリーカーの後をボーが二足歩行で歩いて、進み始めた。僕のキャリーカーが続き、最後に僕が歩き始めた。
今度は工場までずっと上り坂だ。風が弱い今のうちに、出来るだけ距離を稼いでおきたい。また直射日光の影響も心配だ。後3分で完全に夜が明けてしまう。
ボーが歩みを速めたような気がした。僕も足を速めた。
上り坂は永遠を思わせるほど、ずっと先まで続いている。
崖路は、乾期特有の砂地になっており、足がグリッドしにくい。キャリアカーのタイヤはもっと酷い。このような地面に対応できるよう深き溝が切ってあるのだが、しょっちゅう空回りするため、車体を後ろから何度も押し上げねばならない。
幸い風は弱く、突風にも見舞われていない。このチャンスにできるだけ進んでしまいたい。
「スピードを後3㎞はアップした方がいい。」管制官からのメッセージが届いた。
「分かった」と、僕とボーは同時に言い、ボーはスピードを上げた。僕はそれに続いた。
工場の敷地まで後100mまで迫ったのだが、ここからが難関だった。
工場を守るための盛土がしてあるため、この80mは、斜度24度という強烈な上り坂だ。しかも頂点まで登った後で、同じ角度の下り坂が、20mも続く。
上りも登りにくいし、下りはもっと進みにくい。上り下りとも慎重に進む事が求められる。
ここまで、予定よりマイナスで進んで来れてる。今は5分16秒も速く動けているのだ。
この貯金を崩す事なく、最後までやり切りたい。だが、異変は突然起きた。
ボーのキャリアカーが先に坂を上り始めたのだが、柔らかく乾いた砂地の急坂を上るのは容易ではなく、モーターをフル稼働させて1m登って、70㎝ずり下がるという動きになってしまった。すぐに、ボーがキャリーカーの後ろで、バンパーを両手で、腰を低くして、下がるキャリーカーを押さえ込んだ。それでも下がるのは中々止められず、ボーは足を砂地にめり込ませた。
やっと、落ちてくるのが止まった。しかし、その時、ボーの身体は、腰まで砂に潜ってしまった。
ボーは足掻いて、キャリーカーを登らせた。すると、キャリーカーが少し地盤が固いところに達したようで、前進する速度が安定してきた。
問題は、僕のキャリーカーだった。ボーがめり込んだところが深い溝になってしまっており、キャリーカーと僕は、その穴にハマってからでないと前進できない。
管制官にドローンを飛ばさせて他のルートを検討させたが、時間内に到着するためには、ここを突破するしかない。
仕方ない。キャリーカーを前に進めた。僕が続いた。僕らは砂漠の下り坂を一気に滑り降りていった。
2秒ほど滑ると、キャリーカーは滑らかに止まった。僕は何とかキャリーカーにぶつからずに止まれた。僕はすぐに進む方の上り坂を見た。
急坂でスコープしたところ、斜度は18度だった。
これは尋常ではない。キャリーカーのモーターを最大出力にして登らせた。僕はバンパーを押し上げた。とてもじゃないが、動き気配はなかった。
ただ、モーターが耐えられない回転数で回っている悲鳴のような音と、摩擦による熱を感じるだけだった。
もうダメか…
急にキャリーカーの重量を感じなくなった。
それどころか、少しずつではあるが坂を上り始めた。
キャリーカーのフロントにワイヤーが伸びているのが見えた。
上でボーのキャリーカーが引っ張り上げている事が分かった。
4分後、僕らは坂を上りきった。
頂上までは、後20mほどだ。