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【連載小説】ただ恋をしただけ ①
〇〇〇
大雨の9月二週目の夕方、ラッシュアワーだ。
僕は品川の山手線のホームにいた。
僕は今朝まで大阪にいたのだが、午後一には大阪でやる仕事を終え、新幹線で帰ってきた。
ホームは人が多くて、ごった返していた。きっと大雨のせいだ。みんな電車が止まるのを恐れていて、一本でも早い電車に乗りたいのだ。
新宿方面行がホームに入ってきた。乗っている人も多かったので、沢山の人が車外に出てきた。
僕は列の後ろの方にいたので、ドアが閉まる直前に乗り込んだ。
ドアが閉まる。
閉まらなかった。
黒いTシャツに細身のデニムを履いた若い女の人が一人、僕のドアへ飛び乗ってきた。
彼女が乗り込む時に、彼女の濡れた傘が僕に張り付いた。
僕は新幹線から直接山手線に来たので、全く濡れてなかったのだが、彼女の傘の一撃で、僕のシャツとズボンはビショビショになった。
うわあ…
その声を出したのは僕ではなく、彼女だった。
「えっ?」 何で君がそんな声出すの?それを言うのは僕でしょう…
「あっ、いやあ…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「まあ…」
ドアが閉まった。
ドア前はギュウギュウで、僕と彼女はぴったりとくっついてしまい、まともに話が出来なかった…
恵比寿で、だいぶ人が降りた。
「まあ?」
「えっ?」
「さっき「まあ」っておっしゃったでしょう?その次は何ですか?」
「ああ、まあそんなに謝らなくていいよって…」
「いえ、そんな訳にはいかないわ。あなた、どこで降りるんですか?」
「新宿」
「良かった。私も新宿です。続きはホームに降りてから…」
「分かりました」
また、人が乗ってきた。僕と彼女は僕が前掛けしてるリュックを挟んでぴったりとくっついたままだ。
彼女は女性にしては大きい方なのではないだろうか?177㎝ある僕の顎の下に頭がある。
口臭くないかなあ…
新幹線でメントスを舐めてたな。まあ大丈夫か?でも…
僕は彼女に息がかからない方向に顔を向けて、鼻で呼吸した。
く、苦しい…首が…ツライ…
新宿に着いた。
僕らは吐き出されるように外へ出た。