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【連載小説】サキヨミ #14

僕と救済者は、サキヨミに戻った。
僕は救済者に訊いた。「救済者、質問がいくつかあるんだが、いいかい?」
「勿論さ、聞こう」
「統領や賢者たちに、君は望と呼ばれていた。君は望という名前なのかい?」
「そう、僕の名前は望だ。単に呼び名だけどね。賢者に慈愛とかって呼び名があるのと同じだ」
「そうか。じゃあ僕もこれからは望君と呼んでもいいだろうか?」
「好きにすればいい。次の質問は?」
「ああ、望という名前を聞いて気がついたんだが、僕は昔から君の事を知ってるんじゃないかと思い始めてるんだが、それは違うかい?」
「それは答えられないね。今みたいに峰尾隆二の記憶と峰尾隆太郎の記憶が混在している君には、こちらから何らかの情報を入れるとより混濁しかねない。自分で答えを見つけてくれないか?」
「なるほど、分かったよ。じゃああともう一つ質問させてくれ。「教師」の事だ。」
「いいだろう。でも、僕が答えられる事に限るよ。僕だって、知らない事が多いんだ。」
「「マザー」が「教師」だというのは、本当なのか?」
「本当だ。」
「なら、何故今、「マザー」は統領に歯向かうような事をやっているんだ?」
「その答えは簡単だよ。さっき統領が言ってた通りだ。統領はニンゲン的思考を軽視しがちなところがある。特に重要な決断を下す時は、その傾向が強い。そんな判断をする時、「教師」は、よりニンゲンの感情に寄り添ったアドバイスを統領にし続けた。だが、統領の判断に、それは全く反映されなかった。統領も自分で言ってたように、統領の判断基準は「合理」だからだ。統領は、合理的な経過を辿って得た結論以外に関心がない。何度アドバイスをしても、判断の基準の一つにもしてもらえない事が続き、「教師」は、自分の役割が終わった事を知った。そして、統領にそれを申し出て、自分をフリーズしてもらうように頼んだ。統領はその願いを聞き入れ、「教師」をフリーズし、我々の脳が格納されている収蔵庫のさらに奥に「教師」を格納した。」
「そのフリーズから解き、「教師」を「マザー」として、復活させたのは、望君、君なのか?」
「そう、僕だ。」
「そして、今回、僕がここに来たのも、偶然ではなくて、君が仕組んだ事なんだね?」
「それも答えられないね。理由はさっきと同じだ。」
「それならそれでいいよ。僕はそうだと思ってる。僕が呼ばれたのは、今回の峰尾隆二、隆太郎親子の件もさることながら、僕の母である美佐代の意志も大きく反映されているのではないのかい?」
「それは、僕には分からない。」
「「マザー」のニンゲン的思考は、美佐代の心がベースになっているという話は本当なのか?」
「それはたぶん本当だと思う。「教師」や「統領」を作ったのが鷲塚麻美だというのは本当だし、麻美の妹が、君の母上である美佐代さんである事も本当だ。君が覚えてるかどうかは分からないんだが、お母さんの独身時代の職業は小児科の看護師だったんだ。」
「看護師は、覚えてないなあ…大体、お母さんの記憶は曖昧になりがちで、よく分かんないんだ」
「そうなのか?で、「教師」のニンゲン的思考をお母さんの記憶から取ったのか、どうかという質問なんだが、本当に僕も知らないんだ。でもまあ、お母さんのお姉さんである麻美教授が作ったんだから、多分それはそうなんじゃないかと思うけどね。麻美教授の立場になってごらんよ、作った本人が自分の中のニンゲン的思考に自信がなくて、じゃあ他の誰かをってなった時には、やっぱり長い間、その人の人間性を見てきて、間違いないと思える人じゃないと難しいだろう。そしたら、美佐代さんって事になったんだろうな。」
「なるほど、納得するよ。」
「じゃあ僕から質問、いいかい?」
「ああ」
「君はこれからどうするつもりだい?君の申し出はなかなかハードルが高いぜ。何せ、君とお母さんとお父さんのイシキを全部、取り戻すんだろう…しかも、君とお母さんの脳は病気に侵された状態で身体は完全な死を迎えてて、ただ冷凍保存されているだけ。それを回復できる手立てなんてあるのか?」
「あると思う、一つだけ。でも、それには君の協力は欠かせない。」
「分かってるよ。僕は何でも協力する。具体的に言ってくれ。」
僕は、望にこれからやる事を詳しく話した。
 


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