【連載小説】ただ恋をしただけ ⑤
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品川に着いて、僕は自分がノープランな事に気づいた。
僕は今朝からずっと品川に行く事だけしか考えてなかった。
だから着いてから、何もする事がない事に気づく事になった。
仕方ないので、駅ナカで蕎麦を食った。
その後、山手線のホームへ行った。
昨日彼女と出会った辺りで、電車を待つフリをしてみたりした。
勿論、フリをしてる間中、僕は電車に乗り込む人を全員見逃さなかった。
八本、電車をやり過ごした。
彼女は見つけられなかった。
九本目が来た。
僕はその電車に乗り、新宿へ戻った。
まあ、当たり前だよなあ…
そう思ったが、諦めきれない自分がいる事を僕は知っていた。
会社に戻ると、ガジさんが先に帰っていた。
でもまだ2時前だったので、僕は助かったと思った。
「おお、俊平、ロケハンだって?どこ狙ってんだ?」
「あっ、ああ、品川っす。昨日、新幹線降りて、品川駅から山手線乗ったんですけど、車窓から見えた川べりが良いなって思ったんで…」
全く考えてなかったので、僕は大ウソをついた。ハッタリかますとはこの事だ。
「ああ、北品川の辺りか…舟宿とかもあるもんなあ…まあいいや、ちょっと向こうへ行こうか?」
とガジさんが言い、倉庫の隣のドアを指した。
そこは社長室だが、ガジさんは使っておらず、普段は専ら打ち合わせルームとして使われてる部屋だ。
僕とガジさんは差し向かいに座った。
「俊平、今日はバラシて悪かったな」
「いえ、大丈夫ですが、ウチはこれからどうなるんですか?」
「そう、そこなんだよな。バラエティが減ってきてるだろう。ウチは報道系の制作会社には出入りしてねえし、今流行りの音楽番組系も弱いしな。でな、俊平、ウチも動画をやろうと思うんだ。」
「ああ、動画ねえ。アリですねえ。どんな方向の動画をやるんすか?」
「俺の昔世話になった人が、TV局辞めてな。ギャンブル系の番組チャンネルを沢山持ってるチャンネルの役員をやってて、そこのパチスロ番組の撮影を請け負う事にしたんだ」
「パチスロですか?僕、全然分かんないです。ギャンブル全般、やった事がないんで…」
「まあ、それはいいんじゃねえか。撮影していくうちにおいおい分かっていくだろうから。で、そんな話でまとめてたらな。明日急きょ、ウチからカメラを出さなきゃならなくなったんだ。福島の郡山にな。明日の朝8時に着いてなくちゃいけないんだ」
「随分急だし、朝早いし、何ですか、その条件は?」
「いや、今九州に台風が上陸してるだろう。その影響で帰って来れないクルーが一つあるようで、幸い演者さんは、何とか今日中に仙台に飛行機で飛べるみたいでな。明日朝イチの新幹線で郡山に入ってくるみたいなんだけど、カメラもなけりゃ、アテンドもいないらしいんだ。だから、お前、悪いけど今日のうちに郡山までウチのロケ車で行ってくれ。今晩は駅前当たりのビジネスホテル泊まって、明朝、郡山駅で演者さんを拾って、そのまま郡山市内の予定されてるパチンコ屋まで乗せていき、そこで撮影する。詳しい手順みたいなのは、後でURL送ってもらうから、それ見て。何か聞くところによると、その番組は毎回演者さんが交代で替わるみたいなんで、送ってもらった番組の演者が来るとは限らないんだが…まあ、その辺は臨機応変に…あと、分からない事あるか?」
「ウチは撮影だけですか?」
「ああ、そうだ。照明も来ないし、音声もいない。照明はカメラにつけるヤツだけで、音は演者さんがつけるヘッドセットのマイクだけで、それはカメラに直結させる」
「分かりました。ゴープロとか、豆カムは?」
「分からんので、一応積んで行ってくれ」
「最後に、明日合流する演者さんの名前と携帯番号は?」
「演者さんは芝エモンっていう男の人で、業界では大御所らしい。今日は福岡で収録があるそうだが、芝エモンさんだけは飛行機のチケットが取れてるみたいだ。携帯番号は後でメールで送るよ」
「分かりました。じゃあ早速車にカメラ積んで、もう出ますわ」
「分かった。じゃあ頼むわ。俺、次の現場に行かなきゃだから…」
僕は必要な機材をまとめ、このビルの地下駐車場に降りた。そして荷物を積んで、車を出した。