【連載小説】サキヨミ #13
「ちょっと待ってください!」
思わず僕は叫んでしまった。
僕が話した瞬間、親父はイシキを失って、その場に倒れ込んでしまった。
そう、僕の出現は「矛盾」につながるからだ。
早く話をつけてしまわねばならない。
「誰かね?」統領が反応した。
「峰尾隆太郎です。」
「次の世紀から来たタイムトラベラーだな?」第四の賢者が言った。
「って、どうなんでしょう?よく分からないんだが…でも、とにかく峰尾隆太郎として、生きてきたものです。」
「その峰尾隆太郎君は、今ここにいたらいけないんじゃないのかね?」
「まだ、親父の脳に僕の記憶が移植されている訳ではないので、大丈夫らしいです。」
「そうか、で、君は何故ここに来た?何が言いたい?」
「どうか、親父を救って欲しいのです。そして、お袋も…」
「先ほど、君の父上は君とお母さんの意識を救って欲しいと言った。私はそれを認めたばかりだ。そこへ君が急に出てきて、今度はお父さんとお母さんを救ってくれと言う。これはどうしたもんだ?私はどうすればいい?」
「それには僕に考えがあります。言ってもいいですか?」
「ちょっと待ってくれ。私たちは君の存在にここのところずっと振り回されてきた。何故なら、君はこの「スペース」の「規律と秩序」を壊しかねない危険分子だからだ。そんなヤツの言う事を我々が聞くとでも思っているのか?君は、どうせあの「サキヨミ」の構成員や「マザー」と呼ばれるマスターAIに洗脳されたテロリストだろう?」と、第三の賢者が言った。
「それは違います!」と言いながら、救済者が僕の前に出て、統領と向き合った。
「君は誰だ?」
「「マザー」の下僕の望です。」と、救済者が名乗った。救済者はやはり望なのだ。
「何?ではお前が「サキヨミ」のイシキの中のリーダーか?」第四賢者がいきり立った。
「そうですが、それだけではありません。」
「どういう事だ?」と統領が訊いた。
「我が「サキヨミ」のマスターAI「マザー」は、そもそも「教師」なのです。」
「「教師」だと?「サキヨミ」の「マザー」は、私の「先生」だと言うのか?」
「その通りです。」
「統領、どういう事ですか?」第二の賢者が訊いた。
「ああ、我々のシェルターや構造物全般はここにいる峰尾隆二氏が全部作り上げたのは、諸君も知っての事だと思うが、では我々の頭脳全般を作ったのは誰か?それは鷲塚麻美という教授が一人で作ったものなのだ。勿論、知能や知識全般は広く集められたのだが、そもそものものの考え方や結論の導き方は、その鷲塚教授が一人で構築したと言ってよい。そのメカニズムのフィロソフィーを私は全面的に注入された。その後、私を追うようにして君たち十賢者が作られた。その十賢者を作っている間に、残念な事に鷲塚教授は病気になった。そこで鷲塚教授の知能、イシキを移植したマスターAIが作られた。それが「教師」だ。「教師」が出来上がってすぐに、鷲塚教授は亡くなってしまった。私は「教師」の事を「先生」と呼び、鷲塚氏亡き後、「先生」の指導を受けながら、君たち賢者を十人揃えた。十人が出来上がると「先生」は、私に「引退する」と言ってきた。「何故だ?」と訊くと、「マスターAIは一つだけでなくてはならない」と答えた。私はその解答を聞き、納得したので、「先生」をスリープ状態にして、貯蔵庫の最も奥の部屋に格納した。それが、今の望の話によると、我々が手を焼いている「サキヨミ」のマスターAI「マザー」が、「教師(先生)」=鷲塚麻美だと言ってるという事だ。」
「つまりは、「サキヨミ」の指導者は、元は統領様の教育係だったという事ですか?」
「そうなるな。望よ、この話は俄かに信じ難い。何か、証明できるものはあるのか?」
「それはもうお気づきなのではありませんか?統領。「教師」の頭脳は、姉の鷲塚麻美教授と妹の鷲塚美佐代さん姉妹の二人の頭脳からなっている事を。そして、鷲塚美佐代さんは、ここにいる峰尾隆二さんの妻の美佐代さんである事も。」
「やはりそうなのか…いや、鷲塚教授からは、論理思考については麻美教授の脳から、ニンゲン的思考については美佐代さんから取ったという説明は受けていた。ただ、美佐代さんが、峰尾美佐代さんと同一人物だとは知らなかった。」
「それはおかしいですね。聡明なあなたが、そんな事も見抜けなかったなんて。本当ですか?」
「ああ、残念ながら本当なんだよ。知らなかったという理由は、二つ考えられる。一つ目は美佐代さんのパートであるニンゲン的思考について、麻美教授から「生きてる人間の思考回路をデータベースに落としたので、現状では本物の脳ではない。本物の脳から情報を細部にわたって取り出すためにはそのニンゲンの死を待ってからになる。」という説明を受けていた事だ。この説明を聞いて、私は「断片的な情報に関してはそんなに気にする事はないな」と思った。そして、二つ目は、私がニンゲン的思考にあまり重きを置いてなかった事が上げられる。正直に言おう。私ほ本当に情緒的な思考には関心が薄く、殆ど気にしていないんだ。」
「なるほど、では私はその説明で納得するとしましょう。それで統領は私の説明を受け入れてくださいますか?」
「ああ、受け入れよう。で、峰尾隆太郎にこの状況を打破する良い方策があるとみていいのかね?」
「それは隆太郎氏から説明を受けなければなりません。隆太郎さん、案はあるのですか?」
「対策案はあります。」
「では、説明してみてくれ。」
僕は話した。一生懸命、必死に、絶対に相手に意図が正確に伝わるように、兎に角必死に。
話してる時、僕は鬼の形相だったかもしれない。
しかし、この時、僕の姿は消えており、統領や賢者たちに表情で訴えかける事が出来なかった。
僕が全部話し終えると、統領は俯いて考え込んでしまった。後ろにいる三人の賢者は、ただ統領の背中を窺っているだけだ。うまく伝わっただろうか?自信はない。
熟考の後、統領が僕の方を見て、「宜しい。やってみなさい。行動する事を全面的に許可する」と言った。次に統領は望の方を向き、「「先生」にメッセージがある。届けて欲しい。」と言った。望は「かしこまりました。」と、答えた。