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【連載小説】ただ恋をしただけ ⑫(ラス前)

〇〇〇

ラーメンを食べ終え、ナナは台の前に座った。そして、普段はしないカメラに向かって正面を向いて、話し出した。

「さあ、ここでこの動画を視聴されてる皆さんに報告があります。改まって何だ?と思う方もいらっしゃると思いますが…報告というか、私新倉ナナの決意表明というか…私の動画をいつもご覧いただいている方ならご存じの通り、私は今年に入ってから全然ダメでした。ホント、いつもいつも負けてばっかりで…どの台打っても、全く上位のATに入れられなくて、見せ場のない、大負けのメシウマ動画ばかりをお見せしてました。でも、今日の私は違います。現在時刻はもうすぐ18時で、ホントならもう実戦終了してる時間なのですが、今日はまだこれからも打ちます。そして、必ずマクります。現状、使いが10万近くありますので、ここからマクるとなると、最低でも5,000枚は出さないといけないんですが、今日は最悪閉店まで粘って、何とかマクりたいと思います。それもこれもカメラマンのペイさんが、最後まで付き合ってくれると言ってくれたからなんですが、それはこの番組の初め、冒頭に冗談で言ってた私の事好きとか、そんな茶化したもんじゃないので、お断りしておきます。では、再びの実戦に行きます!ペイさん、ありがとう!」
「いいですよ。行けるとこまで行きましょう!」


彼女が回し出して数ゲーム後に、いきなりチャンスゾーンに当たった。このチャンスゾーンを見事クリアすれば、ボーナスを獲得できる。
彼女はあっさりボーナスを獲った。しかもビッグボーナスだ。
ボーナス中に、既定回数のベルを引くと、ボーナスの獲得枚数が増え、ATに入れられる。
ATに入る枚数が666枚以上だ。
これも彼女はクリアした。
次にATでは、3回バトルに勝てれば、上位ATへと進める。
このバトルも見事にクリアした。

何だったんだ、今日の朝からの8時間は?

そう思いたくなるほど、あっさり感がすごかった。

「やりました!やっと上位です!これを伸ばして、えっと、まだ、コンプリートする時間はありますので、一旦コンプリートを目指します!」
「いや、いやナナさん、そこで強欲な事は言わないで…コンプリートって、19,000枚だからね?あなたは、それで失敗してるんだよ、多分…まずは謙虚に、プラスを目指しますでいいんじゃないの?プラスまでは5,000枚ぐらいでしょう?まずは5,000枚を目指そうよ。それだって、大変だよ…」
「分かりました。ここはペイさんの言う通りにします。私はプラスを目指します!」

この台は、上位に入ると、基本は10ゲームか、20ゲームが獲得でき、1ゲーム当たりの純増枚数は約7枚なので、10ゲームなら70枚、20ゲームなら140枚が獲得できる。規定にゲーム数が終わったら、都度バトルがあり、3ゲーム中にブラックアウトすれば、継続となる。そして、たまに獲得するゲーム数が50ゲームから100ゲーム以上になる事があり、それで獲得枚数を伸ばすか、10ゲーム、20ゲームをずっと継続させるかして、持ち出玉を増やしていくというゲーム性だ。

彼女は簡単に10連を達成した。しかし、50ゲーム以上は一回も取れなかったので、持ち玉は、1,800枚ぐらいだった。

15連で初めて、100ゲームを獲得した。100ゲーム=700枚=14,000円ぐらい…
こうなると、楽しくなるのが、素人の僕でも分かった。

20連、30連と順調に過ぎ、彼女の持ち玉は15,000枚を超えた。
50ゲームが8回、100ゲームが11回もきたお陰だ。
「こんなのあり得ない」「経験した事ない」と言いながら彼女は打っていたので、これはかなりレアなのだろう。

そして、33連でATは、終わった。終わる時もあっさりだ。

時刻は20時半。持ち玉は15,570枚だ。

マクった…

マジか…
こりゃすげえ…

「ここから70ゲーム以内に引き戻しの可能性がありますので、引き戻しを見ます」
彼女は冷静な口調で言った。口調は冷静だが、疲れてるのは分かった。

54ゲーム。ブラックアウトした。
引き戻しがあった。

引き戻しは、100ゲーム獲得が1回だけあって、7連で終わった。

獲得枚数は、17,000枚を超えた。

台は完全に通常時に戻った。
彼女は「トイレ」と言って、台を離れた。
僕はカメラを止めた。そして、撤収の準備を始めた。


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