【短編小説】黒崎透 年越しの夜、島野瑤子が店を切り盛りする(1/2)
インフルエンザにかかってしまった。
「バカは風邪をひかない」と、豪語していたこの私がだ。
クリスマスイブの夜を楽しんだ後、うちの店は休みになる。
英郎君は会津の出身で、彼に年末年始にゆっくり休んで帰省してもらうために、毎年12月25日から30日まで店を休む。そして、大晦日の31日だけ、私が一人で店を開け、常連のみが入店可能の年越し営業をする。そして、年始はまた一週間休む。その休みは普通、私は南の島へ行く。
英郎君は、1月7日まではずっと休んでもらっている。
12月29日に、私は一人でうちの大掃除をしていた。私は掃除が好きで、中でも拭き掃除を好いている。水は冷たいが、ピカピカになるのが気分がいいのだ。窓を拭いている時に、私は気分が悪い事に気づいた。胃腸炎のような症状だ。すぐに、かかりつけ医者へ行き、インフルエンザと診断された。
それまで食べ過ぎ、飲み過ぎからくる胃腸炎だと思い込んでいた私は、インフルエンザと聞いた時点で、この世の終わりを感じるほど、一層体調が悪くなってしまった。
そして、今日は大晦日。私は二日も寝込んでいる。
熱はまだ高く、身体の節々が痛い。
一人で寝ているので、ずっと何も食べてないのだが、熱にうなされてるので、寝てるか、起きてトイレへ行って、薬を飲むかを繰り返している。
という事で、私は寝ていた。
インターフォンが鳴った。
私の部屋は、飲食店だけが入っている雑居ビルの最上階にペントハウス風に作られた住居スペースで、エレベーターはすぐ下の9階までしか来ておらず、従って、その上に家がある事を知ってるものは少ない。
何とか起き上がり、インターフォンの画面を見に行った。
島野瑤子だった。
私はオートロックを解除して、すぐにベッドへ戻った。
「黒さん、風邪?」
「ああ、インフルなんだ」
「インフルエンザ、いつから?」
「一昨日」
「もう二日も寝てるの?病院、行った?」
「行った。薬も飲んでる」
「そう、熱は?」
「まだ、高い。38度台」
「それじゃあ、今日はお店、開けられないわね」
「店?今日はもう、大晦日か…分かんなくなっちゃってたなあ…」
「年越し、やらないの?」
「うむ…どうするか…」
「黒バーの恒例行事だから、みんな来ちゃうよ」
「でも、英郎君も帰省しちゃってるからなあ」
「じゃあ黒さん、今日は私がお店やっていい?」
「君が?まあ、いいけど…ギャラはどうする?」
「年明けの私の飲み代を3回分無料でいいわ」
「分かった。じゃあお願いするよ」
「OK、じゃあ下に降りて、早速開店の準備します」
そう言って、島野瑤子は部屋を出て行った。
私はすぐに寝た。