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【連載小説】サキヨミ #27

ありがとう ありがとう ありがとう
 
 
もう少しで会えるわ
 
 
待ってて
 
 
私たちのイシキを助けて
 
 
プツン
 
 
起きた。
初めて、お母さんに声を聞いた気がした。
いや、懐かしいお母さんの声なんだが、ずっと忘れてたために、初めての気がしただけだ。
きっとそうだ。
 
横にボーがいた。
「ボー、聞いたかい、僕のお母さん、君のおばあさんの声を」
「いや、僕は別の声を聞いたよ」
「誰の声だい?」
「君のお父さんの声さ」
「何て言ってた?」
「隆太郎と、母ちゃんを助けてくれ。俺の望みはそれだけだって、そればっかりさ。」
「そうか、じゃあ早速助けるとしよう」
「OK」

 
僕らが管制室へ行くと、管制官は大画面モニターで工場の作業風景を見ていた。
「おはよう」と、僕が言うと、
「おはよう?こんにちは、いや、もうそろそろ今晩はかな。今はもう19時だよ。」
「それにしては明るいね。」
「乾期だし、ここは北緯が高い地点だからね」
「北緯が高い?それでこんなに暑いのか?」
「北極に氷はない?」
「ギリギリある。元の地球に戻るにはあと一万年はかかるんだよ、やっぱり」
「なるほど」
「で、僕たちのボットのリペアは終了した?」と、ボーが訊いた。
「ああ」
「手術用のカスタマイズは?」
「大丈夫だ。済んでいる」
「手術室の準備も終わっている?」
「それも完了している。手術の助手も待機している」
「リュー、mmbは?」
「1~6まで、用意できてる。脳の細胞のサンプルを取って検査すれば、すぐにどれを使えばいいかが分かる」
「検査時間はどれぐらいかかる?」
「1分30秒ほど」
「分かった。すぐに始めよう」

 
僕らは、それそれのボットにイシキを戻した。
ボーのボットの胴回りには、あらゆる手術用の器具が装着されていた。

 
ボーが、開頭手術をした。
二人の脳のガンに侵された組織を取り出すと、僕が検査した。
脳の組織の保存状態は極めて良く、すぐにmmb3が適応する事が分かった。
ボーがmmb3を脳に注射した。
そして、二人の脳を取り出し、収蔵庫に格納する透明なアクリルの円筒形の格納器にの脳を収めた。
格納器は結線されて、通電した事が確認された。
格納器の中には、脳を生かすための栄養液と空気が充填された。
栄養液には、mmb3が定期的に注入されるようにセットされた。

 
後は、ガン細胞が消え去り、脳が復活するのを待つのみだ。

 
これからは、僕にもボーにもやれる事はない。
 
 
mmb3を注入して、84時間が過ぎた。
スコープで検査すると、全体の93%のガン細胞が消えているのが分かった。
あと、7%だ。
ボーが、二人の格納器に電気ショックを与え始めた。
これで、二人が覚醒すれば、二人は復活できる。
最初のテストでは、変化がなかった。
やはり、100%でないと無理なのか?
僕らはmmb3の注入と、電気ショックのテストを時間をかけて、慎重に繰り返した。
急いで、脳に余計な負荷はかけてはならない。

慎重に、慎重に


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