【連載小説】ただ恋をしただけ ②
〇〇〇
人の波に流されながら僕らは離れていった。彼女は指で下を指したので、僕らは階段を降りた。
下に着くと、彼女は柱の前で僕を待っていた。
離れた場所から彼女の全身を見てびっくりした。
まず背が高い。これは電車に乗ってる時に既に気づいていたが、多分170㎝近くあるだろう。普通のスニーカーを履いてそれだから、高いヒールを履いたりしたら、僕と並ぶんじゃないかと思った。
次に、細い。細いというかスタイルがいい。ガリガリの細さじゃなくって、しなやかな感じ。
そして何より、恐ろしく美人だ。
切れ長の瞳は、白く艶のある肌に映える。髪は黒くて長く、前髪は程よく眉毛を隠している。唇はピンクの口紅がよく似合う薄さだ。
全体的に彼女の顔立ちは平安顔の美人で、「涼しい顔のザ・美人」という感じだ。
いやあ、一発でやられた気分だ。
でも、ギャップが酷い。
そんなにスタイルがいい美人の彼女が、今着てるのはアニメの「ミコト戦記」のメインキャラであるミコトが前面にプリントされてる黒いTシャツに黒のスキニーのデニムで、それに黒いスニーカー。手にはボロボロになってしまったビニール傘。背中にパンパンに膨れた黒いアウトドア用のリュック。
どうにも顔立ちやスタイルとは釣り合わない外見。
そのくせ、ネイルには拘っているようで、全部の指が違う色で染まっている。
何なんだ、この人は…
彼女は僕を見つけ、手招きをした。
僕は彼女の側へ行った。
「あの、濡らしちゃって、すいません」
「いや、この天気ですからね。仕方ないですよ。気にしないで下さい。僕はクリーニング代とか請求しませんから。そんなヤツじゃないんで」
「いや、それでは私の気が済みませんわ。あなた、これからどこに行かれます?」
「僕ですか?僕はまっすぐ家に帰ります」
「独身?」
何だ、この質問は?
ひょっとしてマルチ?
「ええ、そうですけど、何か?」
「これから夕食を食べるつもりですか?」
「ええ、まあ…」
やっぱ、マルチの勧誘?
「じゃあ私に夕食ご馳走させていただけません?」
「いや、そんな、いいですよ。僕は帰ります」
「いやそんな事言わないで、いいじゃないですか、ラーメンぐらい」
「ラーメン?」
「私天一が大好きなの」
「天一?」
マルチではない。
マルチの勧誘のために天一には誘わない。
「あなた、天一嫌いですか?」
「いや、嫌いじゃないです」
「じゃあコッテリ食べに行きましょう。お願いですから奢らせて下さい」
「…分かりました。行きましょう」
僕は今、涼しい顔の美人で、スタイルがいいのに、何故かアニメのTシャツを着て、デカいリュックを背負って、骨が折れたビニール傘を持った女性とラーメンを食べに行こうとしている。それも彼女の外見には似合わない、かなりコッテリしたラーメンをだ。
全くどういう展開だ?