見出し画像

【連載小説】サキヨミ ♯23

「管制官」によって、入念に作戦開始時間が再計算された結果、当初のスタート時間から早まり、4:32に出発する事になった。
太陽の直射日光のもたらすリスクの事を考えると、夜中に行動した方が良いと思うかもしれないが、乾期である今頃は昼夜の寒暖差の影響により、一晩中嵐のような磁場風が吹き荒れて、地表面で活動出来ない。そのため、夜明けを待つ必要があるのだが、太陽が出てしまうと、今度は気温上昇による行動制限が起きる可能性がある。しかも当初準備してきた車輪走行ではなく、僕らのボットは二足歩行に変更したため、移動時間が伸びた事も考慮しなければならない。そこで、算出された時刻が4:32だ。
そのスタート時間まで、後3分。イヤでも緊張感は高まる。僕とボーのイシキはもうボットの中にあり、管制室にはない。
昨夜は一睡もしていないのだが、眠気は感じない。
ただ冷ややかな圧迫感に押し込められないようにイシキを強くする事だけを考えている。
30秒前になった。僕とボーのボットはキャリーカーに乗った。行きは僕らはキャリーカーに乗り、移動する。それが二足歩行になったために変更した一つ目の点だ。
10秒前になった。
工場内にカウントダウンの声が響いた。
キャリーカーはシャッターの前に移動した。
3秒前、シャッターが開いた。途端に工場内に熱風が吹いた。僕らは風に吹き飛ばされないように頭を低くし、両手でキャリーカーのヘリを掴んだ。すぐに風が安定した。

スタート!
僕らは発車した。

外に出ると熱い磁場風の真っ只中にいた。
サキヨミの世界では温度も匂いも感じないのだが。さすがにここはリアル地球の地表面だ。
気温は高く蒸し暑い。そして何より硫黄のキツイ臭いが鼻をつき、涙が出る。
風と粉塵避けのためにリューはゴーグルをつけているのだが、そのために涙を拭けない。
涙を拭く?
そんなリアルな行為を考えなくてはならない事を久々に実感している事を不思議に思った。
「リュー、遅いし、キャリーカーが多少蛇行している。もっとスピードを安定させて、僕のすぐ後ろにつけてくれないか?」
前を行くボーが言った。
「分かった。すまん、ちょっと硫黄の臭いにやられた。立て直すよ」
「頼むよ。硫黄如きにやられてたんじゃ、先が思いやられるよ。磁場風も日光も気にしなければならないんだからね。」
「分かってるよ。気をつけるから」

収蔵庫までの道は舗装されてない岩場の獣道だ。しかもずっとデコボコの傾斜が不規則な下り坂が続く。道の横は崖が迫っていて、落ちると助からない。
僕は気を引き締めて、前に進んだ。




いいなと思ったら応援しよう!