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【連載小説】探偵里崎紘志朗 Hot summer , cold winter(2)


今回のクライアントは、山門義春氏。80歳で、横浜の小さな貿易商社のオーナー社長だ。
80歳と言ったが、最初写真で見た印象は、全然若く、60代でも通る。
彼は身長が180㎝以上あり、身体中健康的に日焼けしている。
胸板が厚く、腕も太い事が服の上からでも分かる。
 
ただ、今の義春氏はしょぼくれた老人のように見える。
彼は車椅子に乗り、ガウンの下はパジャマ姿だった。

聞くところによると、2か月ほど前に、趣味のテニスの試合で、腰を痛めてしまったらしい。
その後、いつまでたっても痛みが消えないようで、彼はずっと出社する事なく、ずっと家でベッドに横たわっているらしい。

 
その試合はミックスダブルスで、義春氏のパートナーは妻の雅代さんだった。
そして、試合の相手は、雅代さんが通うテニススクールのインストラクターである横沢俊也というイケメン。そう、義春氏はこの横沢俊也と雅代さんの不倫を疑っているのだ。
横沢は、義春氏が怪我をするように仕向けたとまで思っている。
そこで、今回の調査に至る。
 
 
義春氏の会社は、義春氏の父、義政が興したお茶の卸問屋を義春が継ぎ、コーヒー豆を扱う事で義春が大きくした、馬車道近くのビルの中にある貿易商社だ。
昭和の高度成長期の頃、コーヒー豆の荷下ろし日本一は、確か神戸港だったが、義春氏はハワイのコナコーヒーに目をつけ、横浜港で、その輸入に特化した結果、会社は成長し、義春氏自身も大金持ちになった。
義春氏には長年連れ添った真紀さんという妻がいたのだが、大変体の弱い女性だったようで、色んな病気を患い、いつもベッドで過ごすような人だったらしい。
それでも義春氏は、妻真紀さんを愛し、彼女が色々なところへ行けない分、自分が出張した先の珍しい景色を写真などで見せたりしていたようだ。
しかし、その妻真紀さんは残念ながら、20年ほど前に亡くなってしまったという事だ。

 
義春氏は悲しみに暮れ、これからの人生はずっと独身を貫くと決めていた。
しかし、数年前から新たな考えが湧いてきた。
ハワイでコーディネーターとして知り合った雅代さんの存在が考えを変えさせたのだ。

 
ビジネス上、義春氏の最大の弱点は二つある。
一つ目は、「英語が全く話せない」事だ。これだけ長く、アメリカとビジネスをしているにもかかわらず、彼は英語が喋れない。読む書きはまだましだが、話すはからっきしだ。
二つ目の弱点は、さっきも自分で言ってたが、「コンピュータ音痴」な事で、彼は一応スマホを持っているのだが、スマホで使えるのは音声電話を取る事とかける事の二つだけだ。
 
という事で、義春氏が海外出張をする時には、必ず現地コーディネーターが必要で、特にハワイ島での交渉事には、よく事情を知っていて、誠実で、嘘をつかない人間が求められる。
 
それが、今の妻、雅代さんだったという訳だ。
 
だがしかし、義春氏は今回、信じていた雅代さんを疑わなくてはならなくなった。
その心中は穏やかなものではないだろう。
 
 
さっき義春氏の秘書である井坂氏から送られてきた追加情報と倉田氏と電話で話した内容を総合すると、以上のような状況整理が出来た。
 
まとめたら、私が年末年始を潰すのが嫌だったために、多少義春氏をからかうような真似をした事と、色々と吹っ掛けてしまった事を後悔した。
 
まあ、やってしまった事は仕方がないし、何と言っても私の人生初のビジネスクラスだ。楽しみに思う気持ちが勝ってしまっている…

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