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とくし丸と本マグロ。

Sさんというお客さんがいる。

もともとは隣家のKさんという方から
『買い物に行くのが大変なので来て欲しい』
と言われて訪問していたが

いつしかお隣のSさんもKさん訪問時に出てきてくれて
毎週買い物してくれるようになった。

こういうのは本当にありがたい。
もちろん一番ありがたいのは最初に希望してくれたKさんだが
こうやって近所も出てきて一緒に買い物してくれると
たとえ近所の人は1000円ぐらいの買い物だとしても数が集まると
訪問先1ヵ所でかなりの売上になる。

とくし丸で売上が伸びるかどうかは
この近所が集まるか、がかなり大きな部分だと思う。

そしてそんなありがたいご近所のSさん

Sさんはお刺身が大好き。
毎週、マグロ、サーモン、ブリ、イカ…と色々なお刺身を
多い時は7,000円くらい買ってくれる。
とくし丸的には、もうありがたいどころの存在じゃない。
神レベルです。

そんな神レベルのSさんは
お刺身の中でも、やはりマグロが好きで
キハダマグロやメバチマグロはもちろん
ちょっとお高い『本マグロ刺身』も必ず買ってくれていた。

しかし最近
お店のやり方が変わったのか
仕入れの都合なのか
本マグロ刺身がとくし丸の出発時間までにほとんど出なくなってしまった。

ちょうどそれに合わせて
お店の鮮魚社員さんも一気に何人かガラッと変わってしまい
今までのように
『本マグロ早めに出してもらえませんか』的なお願いを言える雰囲気ではなくなってしまった。

まぁ、一時的なものだろう…
と思い
Sさんには
『え…?本マグロないの?』
と言われながらも
しばらくはメバチマグロやキハダマグロ、その他のお刺身で我慢してもらっていた。

そして本マグロが出なくなってから
1か月ほど…
『…いやこれ!全然一時的じゃないやつじゃん!』
と気付いてしまい

さすがにこれ以上Sさんをガッカリさせるわけにはいかない
ということで
すっかり話がし辛い感じになってしまった新しい鮮魚の社員さんに
おそるおそる…
『あの~…最近本マグロがあんまり出なくて…
でもいつも本マグロを楽しみにしているお客さんがいて…
申し訳ないんですけど、今日は本マグロ早く出してもらえたり…
できます…かね?』
ぐらいのことを言ってみたら

『良いですよー用意しときますんで後で声かけてくださいー』
とまぁ、まさかの軽い感じでOK。

そうなんです。
悪い人、嫌な人なんてそうそういないんです。
話てみるとみんな意外と普通の人、良い人だったりするんです。
そんなことは分かっているんです。
今までの経験上。
だけど
だけどですよ

ごくまれに
いるんです。
本当にどうしようもないヤツも。
『こいつ…〇〇だな…』
と思わず放送禁止なワードが出てしまうようなヤツが。

そうそういないですよ
そんなヤツは
だけどね、ごくまれにでも
そんなヤツに当たってしまったときの
ダメージといったら計り知れないのも
分かってるんです、経験上

だから、やはりよく知らない人には話し掛けづらい…
でも、話し掛けないことには、よく知ることもできない…
このジレンマです、人生とは…。

人生の話をしたいのではなく
そんな感じで、予想外にあっさりと
久しぶりに本マグロをゲットしまして

意気揚々と
満を持した本マグロのお刺身を
Sさんに出しました。

Sさん、久々の本マグロだから
さぞかし喜んでくれるだろう

そう思っていたら
Sさん
まさかの
『本マグロは、今日はいいわ、他のお刺身にするわ』

まさかの
本マグロスルー

うろたえながらも
平静を装ってお会計を済ませる。

しばらく動悸が収まらなかったけど
落ち着いてよくよく考えてみたら
こうしてしまったのは、他でもない、自分だ。

いつも本マグロを買ってくれていたSさんなのに
何回も本マグロ無しを続けてしまっていたために
Sさんはすっかり、本マグロ無しの生活に慣れてしまったのだろう。

ああ…もっと早く自分が勇気を出して
お店に本マグロを頼んでいれば…

その後、運良く他のお客さんに本マグロを買って頂けたが
2パック用意してもらっていたので
1パックは残念ながら残ってしまった。

さすがにコレをお店に戻すのはなぁ…
わざわざ頼んで用意してもらって
『売れませんでした~メンゴメンゴ』
って、それは自分が人としてどうか、と思う。

なので
売れ残った本マグロは
自分への戒めとして自分で買い取った。

いや
すんごい美味しかったよ
さすが本マグロ
高かったけど

でも、この本マグロ
少しだけしょっぱかったのは
きっと
お醤油をつけすぎたからだろう
そうに決まっている。


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