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話題の1 handについての検証
世界のヨコサワさんが先日ツイートしていたハンドについて検証をおこないます。
昨日のこのハンド、最初の編集で
— 世界のヨコサワ (@MasatoYokosawa) January 18, 2025
「ブラフで降ろし勝利!」にされてたんですが
めちゃくちゃバリューオールインです!
編集者を教育しておきました。
そして、ポーカーやり慣れない方には変に見えるかもですが意外と普通なプレイラインなんです! pic.twitter.com/0KVqx1v9sH
ツイートのハンドは以下の動画の 1 hand となっています。
このツイートに対して、リバーの ALLIN がバリューとして機能しているのか?との声が多いようです。
そこで本記事では、GTO wizard を使用してリバーのアクションはどれほど利益的なのかを検証します。
(もちろんリスペクトを込めての検証です)
検証目的
・リバーの ALL IN はどれほど利益的なプレイであるのか?
・GTO戦略と実践の乖離はどこで起きそうか?
について検証するため
検証条件
本来、MTT では ICM を使用して戦略を行うべきですが、動画上で 厳密な BF がわからないので、チップ EV(Cash Game と同じ考え方)で考察を進めます。ICMを考慮する前の基礎的知識の獲得には十分有用だと思います。
筆者:りおん(https://twitter.com/rion_poker_sss)
共同執筆者:ねる(https://x.com/nerupoker43787)
PF 戦略について
ヨコサワさん側(CO)のオープンレンジの参考です。
現実では、後ろのプレイヤーのスタックは均一ではないため、この通りにプレイしているとは限りませんが、このレンジを基に検証をします。
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※動画上ではEF 16bbですが、ソリューションがないため 17bb として検証します
次に、BB 側のレンジについてです。
これも、実践で BB の方がこのようにプレイしているかわかりませんが、このレンジを基に検証を進めます。
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BB は OOP であるため、勝率実現性(EQR)の低いハンドとナッツ級でALLINするようです。同時に、A5~A2o や K6s、K5s などのブラフハンドは A, K のブロッカー価値があるためブラフALLIN に使用されていると考察できます。
Ante があり、no rake かつ BB であるため call odds がよく、BB は広くコールすることができます。
レンジの下位15% だけ降りると覚えておけばよいでしょう。
※備考
ICM 下では、チップを増やすことの価値がチップを失うことによる損失寄り大きくなります。
また、その程度は BF によって評価されます。
今回の例では、
①フィールドの BF が標準的
②BB がアグレッサーをカバーしているため、BF は多少抑え目
上記の2点の状況のため、BB は下限のハンドをそれなりにコールできる状況だと推察されます。( とはいえ チップEV のディフェンスレンジよりもタイトであることは間違いないです。)
動画で確認したところ、MTT の後半残り10%を切っているところなので、BFは無視できないと思いますが、厳密な検証が出来ないためチップEV での検証を行っています。ご了承ください。
Flop戦略について
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COのCB戦略
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BB のレンジの 50% 以上がトラッシュハンドのため、高頻度で安いベットが有効なようです。
ただ、レンジが有利だから!と高頻度でベットすると A high たちが困ってしまうので、低頻度ですが check することもあります。
CO の check レンジの内訳をみていきます。
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A high が最も多いですね。やはり、A high は最もベットしたくない(checkしたい)ハンド群のようです。
※備考
MTTでは、BF によって CB頻度は変化します。
興味がある方は ICM について学習してみてください。
Wizard blog 等のコンテンツがおすすめです。
Turn戦略について
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・BBのプローブ戦略
CO が Flop で check したとは言っても、まだまだ BB にはトラッシュハンドがたくさん含まれています。
そのため、低頻度でしかベットできません。
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・CO の Delay CB
Turn の IP は BB のフラッシュドローにバリューベットをする世界です。
つまり、(一部の)A high もバリューハンドです。
そのため、ヨコサワさんが持っていた「A♥8♠」も当然バリューベットしています。
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実践での Delay CBの size は約 33% だったのですが、まさにセカンドペアが 33% bet range のボリュームゾーンです。
ここまでは均衡戦略と乖離のないプレーであることが確認できます。
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・BBの check raise
おそらく、このスポットの大事なところです。
Value Raise の下限は、セカンドペアです。
BB は弱いフラッシュドローをコールするだけでなく、ブラフレイズに使用しています。
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CO の33% の Delay CBのボリュームゾーンは、セカンドペアでした。
そのため、BB の 8ヒット は 33% size の raise には十分強いハンドです。
一例として、A8 の EQ を下記に載せておきます。

River戦略について
ここまで、GTO 戦略を確認してきましたが、ここからの内容が気になってこの記事を読んでくださっている方が多いと思います。
しかし、Preflop~Turn までの戦略があってこそのリバーの GTO戦略なので、ここまでの内容をお読みでない方には是非 Turn までの内容を読んでから、リバーの戦略の部分を読み進めてほしいと思います。

・BB の戦略について
Turn までのアクションから BB 側は 8x or better のバリューレンジか、エアー のポラライズしたレンジ、CO 側は主に 8x 等のブラフキャッチャーを持っています。
したがって、check レンジの保護のために高頻度で check しても、あまり意味がありません。IP は Turn で check raise に対する"キャッチャー"を持っていることが多く、check でショーダウンに向かわれてしまうためです。
そのため、強いハンドとブラフハンドを高頻度でベットし、CO が持ちうるキャッチャーを虐めることが最適な戦略となります。
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(役別)
BB の River check レンジのボリュームゾーンを確認しておきましょう。

ボリュームゾーンがセカンドペアと弱いハイカードです。
BB が check した場合、CO はこのレンジに対して戦略を構築することになります。
・CO の戦略について
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GTO戦略では、バリューの下限を A8o としてベットしています。
ブラフハンドには、QJo, J9o が使用されています。
前述した、BB の check レンジの下限に A8 は勝っているため、BB のブラフキャッチャーに向かってバリューALLIN ができるようです。

各ハンドの check と ALLIN の EV を比較します。
どのハンドも check EV <<< ALLIN EV であることがわかります。
つまり、ヨコサワさんのプレーは
「チップEV を前提とした GTO戦略で立ち振る舞う相手プレーヤー」
に対して最も利益的なプレーであるということです。
相対的なハンドの強さを認識することの大切さが身に着くスポットだと思います。
注意点は、これらの戦略は BB が GTO 戦略をとっていた場合の CO の最適な戦略であるということです。
例えば、BB のリバーの check レンジが GTO 戦略より強い場合は、A8
は check が優勢なります。これに限らず、BB 側の戦略想定によっては、最適な戦略が異なります。
(逆にバリューの下限を下げてALLINが可能な仮定もあるかもしれません)
したがって、この記事は
「ヨコサワさんのプレーはGTO戦略と同じだから正しい」
と主張するものではありません。
また、
「ヨコサワさんへのプレー批判は、GTO戦略に反しているから正しくない」
と主張するものでもありません。
戦略の想定によって、結果的な最適戦略は異なるので
「相手がGTO戦略だという仮定に基づくとGTO戦略を取ることが最適」だとしても、
GTO戦略とは異なる仮定A を置くと、
「仮定A に基づいて戦略B が最適だ」
という主張が正しい場合があります。
フィールドが抱えていそうなリーク
最後にヨコサワさんのプレーが歪んだプレーに見えてしまった人のリークとしてありそうなことをまとめておきます。
①ターンで 8x をマージレイズできていない
②リバーで OOP からポラーレンジをもった状態で強いハンドをチェックしすぎている
他にも理由は考えられますが、おおよそ上記の2点がリークとして考えられるでしょう。
① に当てはまる方は、Turn の check raise について、②に当てはまる方は、Turn check raise 後のリバー戦略について、再度確認してみてください。
終わりに
本記事の内容いかがだったでしょうか?
GTO戦略に対して、A8 が バリューALLIN するという結果は一部の人にとっては意外だったかもしれません。
内容が良いと思った方には是非 いいね、コメント・拡散等よろしくお願いします。
本記事は個人的に気になったスポットを Flop からまとめただけのものです。ハンド批判などの意志は一切ありません。
ヨコサワさんのファンの方にそう見えていたらすみません…
※追記
本検証はチップEVで検証していますが、MTT での GTO戦略を厳密に検証するには、BF などを考慮するべきです。(BF によって戦略は大きく変化します。)
GTO Wizard 公式アンバサダーである Woody さんが、動画からわかる限りの MTT の情報を入力した場合の GTO戦略について検証してくださっていたので、ここにもそちらを載せておきます。
PFのレンジから変化していて、PreFlop戦略から考察を行う必要はあると思いますが、有用だと思うので紹介させていただきました。
Wizard AIでそれっぽいICMソリューションを作ってみた結果がこちら
— うっでぃ/Woody (@Woody_Poker) January 18, 2025
ダウンワードドリフトがあるとはいえ、PFAIやフロップベットで落ちずにここまでのコンボ数が残ってるというのは恥ずかしながら予想外だった
にしても均衡キャップされすぎでエグイ https://t.co/5RuE8O6Bfq pic.twitter.com/HCdZEJ9KRj