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念願叶ってナマズを食べた

はじめに


ナマズという魚は僕にとって野食の原点に当たる。と言っても、実際に食べたことがあるわけではない。当時少年だった僕が、たまたまネットでナマズを食べた人の記事を目にしただけだ。
今でこそ、知識としてナマズは世界的にもメジャーな食用魚だというのは知っているが、当時の自分にとってはドブ川を泳ぐ変な見た目の魚でしかなかった。それが食べられる、しかも美味しいというのだからその記事には強く惹かれた。その興味はやがて、ナマズに限らず様々な山野の食材へと広がっていく。ナマズが僕の野食の源流になっているというのはそういうことだ。

そして、記事を見たその日から、自分も釣ってみたい、食べてみたい。そんな少年の思いは膨れ上がっていった。しかし、その頃は近場に綺麗な川もなく、汚いドブの魚を食べる根性も意味もなかったので、結局この願いが叶うことはなかった。

それから年月が過ぎ、2024年になった。道具も揃った。ある程度綺麗な川で、ポイントにも目星をつけた。漁協のHPで確認したところ、ナマズは漁業権の対象外。天気も良し。準備は完璧だ。さあ、ナマズを釣りに行くぞ!!

実釣

川に到着。流量、流速ともにそこそこあって、水質も底にヘドロが溜まったようなドブ川とは大違い。ここで釣れた魚なら十分食べる気になるだろう。

仕掛けはナマズ用のロッドにベイトリール、ナイロン4号の糸、そしてルアー。餌釣りやワームだと漁業権のかかったウナギや鯉も釣れてしまう可能性があるので、何年か前に買ったスピナーベイトを使用することにした。確かOSPのハイピッチャーとかいう名前だったと思う。スピナーベイトというルアーは小魚の群れを模していて、ナマズのような獰猛な肉食魚にはうってつけだ。


途中、浅く流れが止まっているところでスッポンを見つけた。捕まえようとズボンを捲り、靴を脱いで川に入った。かなり近づけたのだが、踏んで抑えようにも裸足だから噛まれたくないし、どう捕まえたもんかと考えて躊躇してるうちに結局逃げられた。敗因は覚悟が足りなかったこと、靴を脱いだことだと思う。少し追いかけたけどスッポンが逃げた場所は水面から見るより深くて、膝の上まで濡れた。アホとしか言いようがない。皆さんも川に入るときは見た目より深いところに気をつけてください。これは本当に。

川岸にはクレソンが群生していた。和名はオランダガラシ。時期としては少し遅いが、当然これも食べられる。ただ、スーパーなどで売られているものとは違い、川のものには寄生虫が付いている可能性がある。生食はやめましょう。


ちょくちょく探りながら川岸を歩いていると、この川の中でも特にナマズが好みそうなポイントがあった。しかし、これまで何も反応がなかったので、ここもまあ釣れないだろうなと思いつつ投げて、糸を巻き取っていた。

グンッ!と竿に重い手応えがあった。大暴れはせず、ひたすら一方向にズンズンと引かれる感触。ゴミや根掛かりとは明らかに違う。間違いない、アイツだ。何年も待ち焦がれていた目標が今、目と鼻の先にある。

ところで、ナマズを釣る人たちの中で、暗黙のルールのようなものの一つに、針のカエシは潰しておくというのがある。これは魚体への負担を減らすためだとか何とか言われるが、1番大きいのは、釣り上げた後に針を外しやすく、スムーズにリリースできることだ。ブラックバスなどと違って、ナマズの唇は分厚い。これにカエシ付きの針が刺さっては、そう簡単に抜かせては貰えないのだ。
当然、今、僕が使っているスピナーベイトもカエシを潰してある。つまるところ勝負はここからなのだ。

糸が緩めば針を外される可能性が高くなる。絶対に逃がすもんかと、グイグイとテンションをかけた。すぐに黒く大きな魚影が浮き、その姿がはっきりと見えるようになった。そんなに遠くには投げていなかったし、格闘した時間は1、2分だったと思う。とにかく逃がさないように必死で引き、魚体はとうとう身動きできない浅瀬に乗り上げた。

手でざっくり測った感じ、70cmはある。特大サイズと言っていいだろう。お腹が膨れていて、おそらく抱卵中のメスの個体だ。本来なら逃してやりたいところだが、僕にとっては念願の獲物。今回だけは持ち帰らせてもらう。厳密な大きさを知りたい気持ちもあったけど、メジャーを使って釣った魚の正確な長さを測るのは凄く下品だ。ただ、写真を撮るならタバコの箱とか、何か比較になるものがあってもよかったかも、とは思った。僕はタバコを吸わないから、ペットボトルとかあればよかったのかな。

クーラーボックスは車に置いてきてたから、フィッシュグリップで下顎を掴んだ状態で川岸を歩いて戻った。大きさが大きさだから重いし、季節が季節だから熱いしでなかなかにしんどかった。それと掴むときに少し暴れられて、服に結構な泥が跳ねたけどそれは少ししか気にならなかった。

魚を持って歩いていると、釣り人らしきおじいさんに話しかけられた。なんだそれって聞かれたから、「ナマズです。せっかくだから食べようと思ってて。」とか言ったら、「そうか、それは美味いよなあ。」と言ってもらえた。そのあとキャンプをしていたおっちゃんにも話しかけられて、全く同じ説明をした。
車につくと、クーラーボックスに水と生きたままのナマズを無理矢理入れて、ガンガンに冷房を効かせながら持って帰った。

調理

帰宅をするとすぐに処理を始めた。まず頭の後ろを出刃包丁で思いっきり叩き絶命させる。ここは一思いにやってあげた方がいいだろう。万が一暴れても粘液を撒き散らされないように、シメる作業はビニール袋に入れてやった。ぬめりは塩で揉んだり、包丁でこそぎ取ったりした。途中、ナマズの粘液でシンクが詰まったので掃除もした。ぬめりを削ぐ過程で、なぜか体表の黒い色素も剥がれ落ち、より食材らしい見た目になった。

シメたあと、表面のヌメリを取り除いたナマズ。
出刃包丁が写っていてサイズ感も分かりやすい。

いよいよ捌くときが来た。このサイズなのでシンクは諦め、床にビニール袋とまな板を置いて捌くことにした。捌き方を調べたところ、まず頭を落として三枚おろしにすると書いてあった。が、実際にやってみると背骨が異常に硬く、とても切れるような感じがしなかったので、頭をつけたまま三枚におろした。昔読んだその記事では、皮をつけたままでも美味しいと書いてあったが、極力臭みの原因になるものは取り除きたく、皮は引くことにした。
料理も記事にあった天ぷらと迷ったが、とにかく初めて食べるナマズが美味しくないのは嫌だったので、臭みが消しやすい唐揚げに決めた。ある程度の大きさに切った身を酒、みりん、醤油、ニンニク、ショウガで漬け込む。さらに調味液に漬ける前、念には念をと臭み消しのために1回牛乳に漬けた。
あとは片栗粉をまぶして180℃の油で揚げるだけだ。野生の川魚なので、火はしっかり通しておきたい。


念願の実食

こちらが完成したナマズの唐揚げ。ついに念願のナマズを食べるときが来た。おそるおそる一口齧ってみる。もともとの個体なのか、入念な下処理が功を奏したのか、臭みは全くない。加熱しても柔らかく、ふわふわとした身は、淡白ながらもジューシーで嫌味がない。淡白さ故に油との相性もよく、天ぷらにしても美味しいのは容易に想像がつく。ただ、今回はそのさっぱりとした美味しさよりもナマズ自体を食べたことの喜びが大きかった。
次回があれば天ぷらにしよう。せっかくだからそのときこそ、半身を皮付きで。


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