『 簪 』
叩き付けるような雨が何日も続き裏山の地盤が緩んだ。
「裏山が崩れたぞ!」
村人たちの怒号が響く。
裏山の墓地には先日亡くなった女房がいる。
無我夢中で走った。
流れた土砂の中に墓石や卒塔婆が覗いている。
俺は妻の名を呼びながら必死で土砂を掻いた。
爪は剥げ指先は割れ土を血で濡らしても女房が見付からない。
指の骨は折れ土を搔くのに難儀し出した頃ようやく女房らしい身体が見付かった。
土砂で肉は削げ顔は無惨に潰れ右腕と左足が無かったが俺のあげた簪が泥に塗れた黒髪に絡まり鈍い光を放っていた。
不恰好な女房の身体を抱き締める。
見つけたよ
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