異国の“双子”の姉妹 6 Somos hermanas gemelas(全8話)
とにかくやれることを、やってみるしかない。自分の記憶を信じて、名前と生年月日を打ち込み、検索した。
しかし、残念ながら、これは無理だと言わざるを得なかった。同姓同名や、似通った名前がずらずらと並んでいる。多過ぎる。アナの名前はスペインでは典型的な名前なのだろうか。これでは何度試しても同じだろう。全く見つけられる気がしない。
その後も、ネット検索をただ同じように繰り返すだけだった。私には、他になんの手立ても思いつかない。半ば諦めムードで手をこまねいているうちに、さらに時が過ぎていく。
2015年6月。
その日もいつものようになんとなく、Google検索を試みた。思い出す限りの名前、生年月日、それは、これまでと変わらない。
しかし、どうせ何も起こらないだろうと思っている自分がいる。何年も同じことを、ほぼ惰性でやってきたからだろう。
ただ、語順が多少違うくらい。
ポチっ。
検索開始。
何だろう?
いつもと違うような気がする。
明らかに、何かにヒットしている。私が打ち込んだアナの名前部分は合致している。しかし、異なる部分も含まれている。また今日も、似たような名前の別人か?
スペイン語の画面をいくら凝視しても何も頭には入って来ないし、皆目見当もつかない。
しかし、何故か私の心臓は既にドキドキしていた。
緊張感が高まる中、恐る恐るクリックする。
何かのホームページだろうか、女の人の写真が現れた。見知らぬ大人の女性。でも、待って、どこか似ている、アナに似ている。
血の気が引くような驚きが一気に私を包み込む。
旧いアルバムを引っ張り出し、急ぎページをめくり探した。クラスで撮ったあの写真。
あった!
アナと私、クラスメイトと写した、たった1枚の写真。パソコン画面の女性の横に置いて見比べる。同一人物だろうか?スッとした鼻の感じはそっくりだ。
ドキドキしながら、ひとつずつ単語を追っていく。
遠いあの日、ロンドンで聞いた、アナの生まれ故郷、パパの住所だと言いながら教えてくれた町の名前。パントマイムとか、パペットとかアナが興味を示していたこと。卒業したのはサラマンカの大学。そしてもちろん、生年月日。
どれをとっても、アナに違いなかった。絶対に間違いない。私の心臓は、破裂寸前の風船みたいになっていた。
アナだ!
突然、雷に打たれたように、私はアナを見つけた。
すぐさま考え始めた。これから、どうやって連絡をとるのがベストか。私はもうアナを見失うことはない。今度はアナが私に気づいてくれれば良いのだ。とにかく、必ず気づいてくれる方法が必要だった。
熟考の末、私は昔のように手紙を書き、この住所へ送ることに決めた。
無論、メールの方が手っ取り早いのは百も承知だが、敢えて手紙を選んだ。見知らぬアドレスから飛んできたメールなど、迷惑メールに振り分けられたら、終わりだ。迷惑メールにされなかったとしても、完全に見逃されてしまう可能性だってあるし、その確率が高い気がしたからだ。それだけはどうしても嫌だった。
どんな場所に届くのかすらわからないが、少なくとも、手紙、日本からの手書きの封書は、逆に目立ってくれる、そう信じた。
住所、電話番号、メールアドレスをきっちり書き、クラスで写したあの写真を同封、郵送した。
それからの毎日、私は、今か今かとアナからの連絡を待った。
しかし、一ヶ月近く経っても、なしのつぶて。なんの連絡もこない。
手紙は届かなかったのだろうか。手紙を選択したのは、間違いだったかもしれないと、どんどん不安になっていく気持ちを止められなかった。
いやそれとも、アナはもう私のことなど忘れてしまったのか?その可能性だってないとは言い切れない。不安が募る日々。
‥‥‥‥‥‥‥‥
ずっと後になって思った。何故同時にメールも送らなかったのだろう‥何をそんなに慌てていたのだろうか、私は。アナログ世代の凡ミスだ。
(7へ続く)