本当の初学者向け神経解剖学2
初学者にとって優しくない授業とはなにか、と考えるとき私は教える側が初学者であったときの視点を忘れてしまっていることと考えています。わかっている側の視点では補足情報を踏まえたわかりやすい説明であると感じられていても、全く初めて学ぶ側としては情報の重要度の強弱を見分けられず、ただ圧倒的な量に嫌気が差すのみであることが多いです。
そこで本当の初学者が初学者の視点で書いたものが最も初学者に適した物である、という名目で備忘録を残しました。厳密な交渉は全くされていないどころの話ではないものであることを承知の上でご参照ください。労力の問題で図は用意できていませんので、教科書を参照いただくと良いと思います。
はじめに高校生物内容の基礎単語、または一般に使われているが理解しにくい単語を”用語”の項にまとめましたのではじめに参照いただくと読みやすいと思います。
用語
デルマトーム・・・脊髄から出る神経根ごとの皮膚表面の感覚の領域を表したもの。
反射・・・中枢神経内の情報処理で大脳皮質を経由しないで不随意・無意識に生じる反応
Ⅰ:嗅神経
Ⅱ:視神経
Ⅲ:動眼神経
Ⅳ:滑車神経
Ⅴ:三叉神経
Ⅵ:外転神経
Ⅶ:顔面神経
Ⅷ:内耳神経
Ⅸ:舌咽神経
Ⅹ:迷走神経
Ⅺ、副神経
Ⅻ:舌下神経
反射
反射は、受容器→求心線維→反射中枢→遠心線維→効果器といった経路を通る。これを反射弓という。
脳神経は3文字で性質を簡易に説明される
1文字目
特殊(Special)
一般(General)
SNNなら特殊、GNNなら一般の神経核であることを示す
2文字目
体性(Somatic)
臓性(Visceral)
NSNなら体性、NVNなら臓性の神経核であることを示す
3文字目
遠心性(Efferent)
求心性(Afferent)
NNEなら遠心性、NNAなら求心性の神経核であることを示す
反射は反射中枢と効果器の違いによって分類される。
反射中枢の違いによる分類
脊髄反射
延髄反射
効果器の違いによる分類
体性反射
内蔵反射
脊髄
脊髄の上端は延髄に接続し、下端は脊髄円錐にて終わる。
表面の観察
錐体交叉・・・脊髄と延髄との境目には錐体交叉がある。これより下が脊髄、これより上が延髄である。
脊髄は2箇所に膨らんでいる部分がある。
頸膨大・・・手の運動支配と知覚支配のために多くのニューロンが必要のために生じた。
腰膨大・・・足の運動支配と知覚支配のために多くのニューロンが必要のために生じた。
脊髄円錐・・・脊髄の下端であり、円錐形となって終わっている。この部分を脊髄円錐という。
脊髄終糸(グリア繊維)・・・脊髄円錐より伸びている、何本もの繊維のこと。末端のことを馬尾と呼ぶ。
脊髄神経根・・・脊髄から左右に伸びる神経。腹側と背側から前根と後根が伸び、一本に収束することによってできる。
断面の観察
白質・・・主に軸索によって構成されている。腹側、背側、左右にあるかよって前索、後索、側索に分類される。
灰白質・・・主に細胞体から構成されている。H字形をして白質の内側にある。Hの腹側にある足を前角、背側にある足を後角、残りの中心部分を中間質と呼ぶ。
後角・・・知覚性繊維が後根を走り後角とつながる。後根には脊髄神経節がある。
前角・・・前角運動ニューロンが存在し前根を通して体性運動性繊維(遠心性)が伸びる。
脊髄中心管・・・中間質にある脊髄を縦走する脳脊髄液に満ちた管
脊髄に流れる動脈
位置も合わせて覚えるべき動脈を以下に示す。
椎骨動脈
脳底動脈
前脊髄動脈
後脊髄動脈
大前根動脈(アダムキーピックの動脈)
上行頚動脈
深頚動脈
肋間動脈
腰動脈
正中仙骨動脈
外側仙骨動脈
髄膜
脳、脊髄は髄膜に覆われている。脊髄を覆うものを脊髄膜と呼ぶ。これには3種類存在し、内側から脊髄軟膜、脊髄クモ膜、脊髄硬膜と呼ぶ。
脊髄膜=脊髄軟膜+脊髄クモ膜+脊髄硬膜
硬膜は外葉と内葉の2葉によってできている。
硬膜上腔・・・外葉と内葉の間の空間。静脈叢が存在する。
硬膜下腔・・・硬膜(内葉)とクモ膜の間の空間
クモ膜下腔・・・クモ膜と軟膜の間の空間
歯状靱帯・・・前根と後根の間で軟膜がクモ膜を貫き硬膜に繋がった物
コラム
腰椎椎間板ヘルニア・・・椎間板や髄核が神経に当たることによって起こる炎症。これの症状はデルマトームと一致する。
膝蓋腱反射・・・膝の前面をハンマーで叩くと太腿の筋肉が一瞬収縮し、不随意で足が上がること。このときの神経回路を簡易に説明する。以下のような経路をこの反射ではたどる。
衝撃→感覚神経→脊髄(後角)→脊髄(前角)→運動神経→足を上げる筋肉
同時に
〃 → 〃 → 〃 →介在ニューロン
介在ニューロンは足を下げる筋肉への運動神経を抑制する。これにより足は脳を介さずに反射として上がる。
延髄
延髄は脳幹を構成する一部である。
脳幹=中脳+橋+延髄
・・・大脳と脊髄、大脳と末梢神経をつなぐ神経回路の通り道。遠心性脳神経である起始核、停止核がある。
延髄・・・延髄には閉じている部分と背側側に開いている部分がある。これは発生の段階で背側にある蓋板が伸びることによって開いたようになる。閉じた延髄は連なっている脊髄に近い。錯体交差が延髄と脊髄の境界線となっている。
オリーブ・・・延髄の腹側に見られる左右に飛び出た出っ張り。中にオリーブ核がある。
錐体・・・延髄の腹側に見える縦に伸びた円柱のような構造
菱形窩・・・延髄の背側の中心見られる縦に伸びた溝
覚えるべき神経核
遠心性
舌下神経核・・・舌筋郡を支配
疑核・・・咽頭と喉頭の筋群を支配
迷走神経背側運動核・・・副胸部臓器の平滑筋と外分泌腺を支配
下唾液核(舌咽神経)・・・耳下腺からの唾液分泌を支配
求心性
三叉神経脊髄路核・・・頭部・顔面の体性感覚
孤束核(舌咽・迷走神経)・・・頭部~腹部内蔵の一般臓声性感覚、味覚の終止核
その他重要な神経核、結節
オリーブ核、薄束核、楔状束核、楔状束結節、薄束結節、後索核、副楔状束核、クラーク氏背核(胸髄核)、正中網様体核、外側網様体核、巨大細胞性網様体核、小細胞性網様体核
延髄を通して起こる反射を以下に示す。
嚥下反射 遠心 Ⅸ 求心 ⅨⅩⅫ
唾液分泌反射 遠心 Ⅹ 求心 ⅨⅦ
咽頭絞扼反射 遠心 Ⅸ 求心 ⅨⅩ
嘔吐反射 遠心 Ⅸ 求心 Ⅸ横隔神経、肋間神経
せき反射 遠心 Ⅹ 求心 横隔神経、肋間神経
呼吸反射 遠心 ⅨⅩ 求心 横隔神経、肋間神経
循環反射 遠心 ⅨⅩ 求心 Ⅹ
橋
橋・・・下方で延髄に、上方で中脳に連なる。背側に小脳が位置している。
断面でおさえておくべき場所
縦橋繊維・・・橋を走行する神経線維の束であり投射路の一部。ex)錯体路、皮質橋核路
橋核・・・大脳皮質からの指令を受け取り、運動の円滑化に重要な役割を果たしている
脳幹網様体
橋背部を通る繊維・・・内側毛帯、脊髄毛帯、三叉神経毛帯、内側縦束(MLF)、中心被蓋路、背側縦束
覚えるべき神経核
遠心性
外転神経核・・・外転神経:外側直筋
顔面神経核・・・顔面神経:顔面(=表情)筋
三叉神経運動核・・・三叉神経:咀嚼筋
上唾液核・・・顔面神経:顎下腺と舌下腺、涙腺など
求心性
三叉神経知覚核・・・三叉神経:頭部顔面の精細触圧覚
前庭神経核・・・前庭神経:平衡覚
蝸牛神経核・・・蝸牛神経:聴覚