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エフェクチュエーションとネゴシエーション

しづのさん

 すっかり時間が空いてしまいました。京都もすっかり寒くなってしまいましたね。
 
 唐突ですが、しづのさんは我慢をすること、よくありますか?

なぜそんなことを聞くのかというと、、「面白そう」と思うか「嫌だな」と思うかが、ワクワクするかどうかの分かれ道、というしづのさんの話がとても気になったのです。

 エフェクチュエーター(エフェクチュエーションの熟達者)の話を聞いていると、皆さん共通してとにかく楽しそうにしています。「楽しむ」というのはエフェのキーワードであることは間違いありません。

 翻って自分のことを考えてみると、色々なところで我慢をしています。
会社で無茶ぶりされる。とても意味があるとは思えない仕事をやらされる。
家庭で家族を優先して、自分の予定を入れられない。などなど。

 それは間違いなく「利他」ではありますが、自己犠牲の上に成り立っている「利他」です。そもそも日本人って、我慢が得意です。日本人は我慢をしがちだし、我慢は美徳である、と思っている人が多いです。
 エフェクチュエーターを見ていていつも思うのは、誰も我慢なんかしていない、ということです。やりたいことはやるし、やりたくないことはやらない。自分にとって必要だと感じたら、多少の我慢をするけれど、それはあくまで「許容可能な損失の範囲内」です。
 エフェライフの講座でよく、「利己的な利他」(一見他者のために行動しているように見えても、実際には自分の利益や幸福を追求する行動)というキーワードが出てきますよね。
 相手も満たすが、自分も満たす。だからエフェクチュエーターは楽しそうなのでしょう。

 この「利己的な利他」で思い出したいことがあります。
それは「交渉術」です。

しづのさんは交渉術をご存じですか?

 交渉というと、多くの人が思い浮かべるのはいわゆるタフな交渉です。
 ちょっと古いですが、『交渉人』というケヴィン・スペイシーが主演の映画がありました。ケヴィン・スペイシー扮する交渉人が、汚名を着せられ立てこもったサミュエル・L・ジャクソンと頭脳戦を繰り広げる映画です。二人の手探りの心理戦がものすごいスピードでくりひろげられるシーンがけっこう自分は好きです。
 映画の中で、立てこもり犯(サミュエル・L・ジャクソン)との交渉中にケヴィン・スペイシーが相手の不安を煽るために会話中に意図的に電話を切る、というシーンがあります。これがタフな交渉のイメージだと思います(実際にはこういうことはしないそうですが)。

 交渉術でもっとも有名なのは、「ハーバード流交渉術」です。
ハーバード流交渉術とは、双方の利益が対立する中で協力し、新たな価値を創造し、お互いにとって最大の利益を引き出すことを目指す交渉術です。まさに「利他的な利己」です。

 交渉術というと出てくる例で、オレンジの話があります。
ですが、せっかくなのでここはレモンということにして、話を進めたいと思います。

 ある二人の姉妹がいました。妹が籠に入った5個のレモンを持っています。妹を見た姉が、「レモンが欲しい」と言いました。でも、妹は5個のレモンが絶対に必要です。姉に聞くと、姉もレモンが5個ないとやりたいことができないといいます。話し合った姉妹は最終的に、レモンを奪い合うことなく、二人とも満足することができました。

 ふつうに考えると、以下の選択肢が思い浮かぶでしょう。
①    しかたなく半分に分ける
②    じゃんけんで勝ったほうが全部もらう
③    今回は姉がもらい、次に妹がもらう

この選択肢は全て妥協です。どれを選んでも、どちらかもしくは二人とも我慢をしているわけです。
でも、上に書いた通り、最終的に姉妹は二人とも我慢することなく、お互いに満足することができました。下の答えをすぐに見ないでちょっと考えてみてください。

 答えは簡単で、姉はクッキーに入れるレモンの皮が必要だった。一方、妹はジュースをつくりたかったからレモンの実が欲しかった。だから、姉はレモン5個分の皮を手に入れ、妹はレモン5個分の実を手に入れました。ちゃんちゃん。

 面白くないですか? ちょっと前までの自分ならどうやって分けるかしか考えませんでした。2.5個ずつ分けるとか、姉が3個で妹が2個とか。まさに我慢と妥協ですよね。それまでの自分はお互い自分の意見を強く言わず、それぞれが少しずつ我慢をして妥協すればいい、と思っていました。だって、それが一番いいじゃないですか。

 でも、交渉術はお互いに満足する別の選択肢がある、と教えてくれます。
我慢なんか必要ないんです。このとる、とらないではない、第三の選択肢にたどり着くために必要なのは、視点の転換です。

 先に書いたとおり、自分も含め多くの人は日々、我慢をしています。
 特に自分の場合は丸く収めるために、自分が我慢しないといけないと思ってました。相手に嫌な思いをさせたくない、相手に嫌われたくないという想いが心の底にあったからです。 
 でも、「交渉術」を使えば、我慢をしなくても相手と自分のニーズを同時満たすことができる。これは自分にとって大きな発見でした。

 例えば去年こんなことがありました。

 夏休みのある朝のことです。その日、学童に行く予定にしていた息子が、奥さんと言い争いをしていました。内容は、靴下を履く、履かないです。
 息子は学童で靴下を履きたくない。裸足の方が気持ちいいから、裸足でいたい。
一方で、奥さんは靴下を履いてほしい。足の裏を汚さないでほしい。
よくある話です。

 息子は靴下を履きたくないと言い、奥さんは履きなさい、という、まさに二者択一です。結局、息子が折れて(折れざるを得ない)、靴下を履くことになりました。
 奥さんと話した後、しぶしぶ息子は靴下を履いていました。
 その様子を見ていた自分は、息子に話しかけました。
「ねえ、お母さんはなんで靴下を履いてほしいって言ってると思う?」
「わかんない」
「お母さんは、汚れた足で家の中に入ってきて欲しくないんだよ」
「ふーん」
「じゃあ、どうしたらいいかな?」
 息子は黙って考えてます。
「玄関にタオルを置いて、帰ってきたらそのタオルで足の裏を拭いてから家に上がるから、学童では裸足でもいい? って聞いてみたら?」
 言っている意味が分かったのか、息子の顔が一瞬輝き、そのまま奥さんのほうへ走っていきました。
 結果は大成功。戻ってきた息子は、満足げに親指をたててました。そう。一瞬で解決したのです。

 小さな話ですが、自分はこれが正しい交渉術の使い方だと思っています。
 一見対立しているようにしか見えない出来事でも、お互いが満足できる第三の選択肢が必ずあります。この第三の選択肢にたどり着くために必要なのが、視点の転換であり、視点の転換のために必要なのは、対話と柔軟な思考です。

 交渉術では以下のプロセスが必要だと言われています。
①    相手を理解するために、積極的に傾聴をして、相手の気持ちに共感する。
②    自分の意図や気持ちを可能な範囲でオープンにして、信頼を築く。
③    お互いにとって何が重要かについて話し合い、価値を創造する。
④    柔軟性を保ちつつも、自分の譲れないところは守る。
⑤    長期的な視点に立って考える。
 
 これだけ見ても、エフェっぽくないですか?
 1や2で重要なのは、お互いの手中の鳥を開示しあうことです。自分が何を求めていて、何ができるのかを可能な範囲で開示することが重要です。
 2,3はクレイジーキルトですよね。クレイジーキルトで重要なのは、主体的なパートナーシップです。主体的に関わりあうためには、お互いにとって何が重要なのかをはっきりさせることが大切です。
 4は、まさに許容可能な損失です。最初に言った通り、我慢をする必要はないんです。だって我慢をしなくたって、できることはいくらでもあるんですから。
 5の長期的な視点に立って考えるためには、レモネードの原則も関わってくると思います。例え、その場でパートナーシップが築けなかったとしても、次にまたどこかで繋がれるかもしれません。

 少し話は変わりますが、『二者択一のものから抜け出すための両立思考』という良書があります。

“緊張関係(=二者択一)があるという事実は、しばしばネガティブに受け取られがちだが、緊張関係のマネジメントに挑むからこそ、見たこともないような高みに達するのである”

 そうなんです。二者択一の罠を受け入れ、この緊張関係をレモンではなくレモネードにするからこそ、見たことのない価値が創造できるんだと思います。
 この本には、”パラドキシカルなものの中にこそ、イノベーションとチャンスがある”と書かれています。このパラドキシカルな世界、二者択一の罠から抜け出すために、交渉術は間違いなく役に立つスキルです。

 またまた話が長くなってしまいましたが、しづのさんの質問への返答です。
 エフェのワークをやっているか、ですが、エフェとは直接関係ないかもしれないですが、
毎日やっていることがあります。
 一つはモーニングノート。朝、起きてすぐに心に浮かぶことをそのまま、まっさらな白いノートに書く、というのを一時期毎日やってました。自分の中のことを整理し内省するのに非常に役立ちました。たまに、「こんなことを自分は考えていたのか」ということが出てくるのも面白かったです。これが、自分の考えを整理し、自分に何ができるのか、何をやりたいのかという発見につながりました。
 あとは、感謝日記です。1日3つの感謝をする、というのを続けてます。これはもう3年を超えました。エフェのプロセスの中で、「感謝」というのも、重要なキーワードだと思ってます。
 しづのさんも感謝日記を書いてますよね? 感謝の効用は最近いろいろな場面で語られていますが、しづのさんが感謝を続けることで何か変わったことがあれば聞きたいです。

 今年の京都、寒さも厳しいですが。今年は雪もすごいですね。ぜひ、ご自愛ください。

#エフェクチュエーション
#交渉術
#オレンジ
#二者択一
#モーニングノート
#感謝

一般的には、交渉学はもっとビジネスよりな面が語られます。今回は交渉学の触りのさわりしか書いていません。交渉学に興味がある方にお勧めの本はこちらです。
 瀧本哲史さんの本で、具体的に書かれていてとても分かりやすいです。


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