国語教育における「中心」という用語を考える4 要旨をどうまとめるか (後) ―「言葉の意味が分かること」を例に―
光村図書5年「言葉の意味が分かること」(今井むつみ)の詳細な教材研究は下記の本(加藤も編著者の一人)で述べている。20204年版で若干文章に変更が加えられたが、基本的な部分は変わっていない。詳しくは下記の本を参考にしてほしい。
「読み」の授業研究会・関西サークル編著
小学校国語科『言葉による見方・考え方』を鍛える説明文・論説文の『読み』の授業と教材研究
明治図書 2020年
「言葉の意味が分かること」の構成
「言葉の意味が分かること」は全12段落の文章で、以下のような構成になっている。
序論 1段落 話題提示(言葉の意味には広がりがある)
本論 2~10段落
本論1 2~4段落 コップの例
本論2 5~7段落 言いまちがいの例1
本論3 8~9段落 言いまちがいの例2
本論4 10 段落 言語による意味のはんいのちがい
結び 12・13段落 筆者の考え
1段落で言葉の意味には広がりがあるという話題が提示される。2段落以降で、言葉の意味の広がりについて説明していく展開となっているので、1段落を〈序論〉、2段落以降を〈本論〉と考える。2段落①文が疑問の形になっているが、4段落までで答え終わっているので、2段落までを〈序論〉とはしない。
11段落からは、2~10段落を前提に筆者独自の考えが述べられていくので、ここからが〈結び〉となる。
〈本論1〉~〈本論4〉までは、言葉の意味に広がりがあることを具体例をあげて説明している。それらを前提として、11段落から言葉の意味には広がりがあり、適切に使うためには「点」ではなく「面」で理解することが大切になり、それは私たちのものの見方を見直すことにもなるという筆者独自の考え方が述べられている。筆者独自の考えを述べる論説文である。
一見、「インターネットは冒険だ」(東書5年)と似たような文章の展開に見えるが、全く異なる述べ方である。「インターネットは冒険だ」は、インターネットの特徴と危険を〈本論〉で述べること自体に主眼があった。それに対して「言葉の意味が分かること」は〈本論〉で述べたことを前提として〈結び〉で筆者の考え(この文章の結論)を述べる。
「インターネットは冒険だ」は、〈本論〉において述べる特徴と危険こそが、「内容の中心」であった。一方「言葉の意味が分かること」では、〈本論〉で述べられる例は、筆者の考えを述べるための前提となる。つまり、〈本論1~4〉の具体例を踏まえて、筆者の考えが述べられるのである。したがって、要旨は〈本論〉部分ではなく、〈結び〉でまとめなくてはならない。
私は、説明文と論説文の違いを次のように考えている。説明文は、内容の中心でまとめる。論説文は、筆者の考えの中心でまとめる。
「言葉の意味が分かること」の要旨を考える
教科書の手引きでは150字以内の要旨を求めている。以下に加藤のまとめたものを示す。
言葉を学んでいくときには、言葉の意味を「面」としてとらえることが重要であり、それは言葉やものの見方を見直すことにもつながる。(62字)
私の要旨は、62字である。
ここで考えておきたいのは、この文章の要旨をまとめるのに150字必要なのかということである。下記の要旨は、ネット上で見つけたものであるが、私のものと似た字数になっている。
言葉の意味が分かることは、意味の広がりのはんいを理解することである。言葉を学ぶときは、意味を点ではなく面として理解することが大切だ。(66文字)
既に述べたように、筆者の考えが述べられるのは11~12段落であり、2~10段落の具体例を要旨に入れることはできない。いや全くできないわけではないが、入れるとすれば今度は150字ではとても足りない。簡潔に要旨をとるなら、11~12段落でまとめるしかない。以下に要旨をまとめていく過程を述べる。まず11段落。
①わたしたちが新しく言葉を覚えるときには、物や様子、動作と言葉とを、一対一で結び付けてしまいがちです。②これは、言葉の意味を「点」として考えているといえます。③しかし、言葉の意味には広がりがあり、言葉を適切に使うためには、そのはんいを理解する必要があります。④つまり、母語でも外国語でも、言葉を学んでいくときには、言葉の意味を「面」として理解することが大切になるのです。 ①~④の文番号は加藤が付した
①②文で、言葉の意味を「点」として考えることが述べられる。それに対して③文は言葉の意味の範囲を理解する必要を述べる。そして④文冒頭「つまり」で言い換える。ここから考えて、11段落の要約は④文が土台になる。次いで12段落。
①さらに、言葉の意味を「面」として考えることは、ふだん使っている言葉や、ものの見方を見直すことにもつながります。②あなたは、これまでに、「かむ」と「ふむ」が似た意味の言葉だと思ったことはありましたか。③どうしてスープは「食べる」ではなく、「飲む」というのか、考えたことがありましたか。④これらの例は、知らず知らずのうちに使い分けている言葉を見直すきっかけとなります。⑤そして、わたしたちが自然だと思っているものの見方が、決してあたりまえではないことにも気づかせてくれます。⑥みなさんは、これからも、さまざまな場面で言葉を学んでいきます。⑦また、英語やその他の外国語も学んでいくでしょう。⑧そんなとき、「言葉の意味は面である」ということについて、考えてみてほしいのです。
文番号は加藤が付した
「さらに」と①文で「言葉や、ものの見方を見直すことにもつながります」と付け加える。②~⑤文はそのくわしい説明である。⑥⑦文でこれからも言葉を学ぶことが述べられ、⑧文で「「言葉の意味は面である」ということについて、考えてみてほしい」と読者に呼びかけて終わる。強いていうならば、⑧文の内容を要旨に加えることは考えられる。
言葉を学んでいくときには、言葉の意味を「面」としてとらえることが重要であり、それは言葉やものの見方を見直すことにもつながる。さまざまな場面で言葉を学んでいく時に「言葉の意味は面である」ことについて、考えてみてほしい。(108字)
しかし、これでも150字には届かない。150字という字数は、どのような根拠から出てきた数字なのだろうか。
要約や要旨を行う際、教師は必ず自分でやってみなくてはならない。それをしないで、切りがよいから100字だとか150字といった指示を子どもたちにすると、どの文でまとめるのか、どの言葉が必要かといった、言葉を絞り込んでいく過程がいい加減になってしまう。どうしてその言葉が必要なのか、あるいは必要ないのかを教師が説得力を持って説明できなくなる。その結果、要約や要旨をまとめる過程が、子どもたちにとってわかりにくいものとなる。
150字以内という指示がよく考えられたものであるとは、私には思えない。
「自分の考え」をまとめることは適切な課題といえるか?
もう1つ、学習の手引きに関わって述べる。最後で、次のような課題を述べる。
筆者の考えや、事例のしめし方に対する自分の考えをまとめよう。
この文章で述べられた事例や筆者の考えに対して、5年生の子どもたちが「自分の考え」をすんなりとまとめられるとは私には思えない。私自身がこの課題に答えるとしても、感想程度のこと(コップの例は面白かったとか、言語が異なると意味の範囲が違うことは興味深かったなど)は言えるが、それについてどう考えるかといわれたら、言葉に詰ってしまう。ここで筆者(今井むつみさん)の述べていることに対して、つまり言葉の意味を「面」としてとらえることに対して反論や疑問を出すのはむつかしい。
指導要領が「自分の考え」というからといって、常に「自分の考え」が述べられるものではない。筆者の考えに対して「自分の考え」を述べさせようとするのであれば、それなりに述べやすい教材を用意するべきである。
以前の光村図書5年の教科書に「生き物は円柱形」(本川達雄)という文章があった。題名通り生き物は円柱形だという主張を述べた文章である。これなどは、「自分の考え」を述べるにふさわしい文章であった。
だれもが納得してしまうような内容では、かえって子どもたちは「自分の考え」を出しにくいのである。
私(加藤)の対案
ではどうするか。私(加藤)の対案を示そう。
今井さんは、言葉の意味を「面」としてとらえることが重要だと言います。本当にそうなのか、確かめてみましょう。言葉の意味が「面」としてとらえられる例を探してみましょう。
国語辞典を使ってもよい。英語で学んだ言葉と日本語をくらべてもよいだろう。子どもたち自身で調べ考えて、最終的には200~300字程度にまとめる。それを班内で交流し、班ごとに一つの文章にまとめてもよいだろう。
例を自分で探し考えることで、言葉の意味が「面」であることをより実感を持ってとらえることができるようになる。また、それを書くことで整理することができる。調べ学習や書きの指導も入れることができる。
要旨のまとめ方
最後に要旨についてまとめておく。
要旨の指導は、文章全体の構成を読み取る構成よみに続く論理よみの最後に位置づけられる。要旨をまとめる時には、説明文か論説文かを見極めることが重要である。説明文と論説文では要旨のまとめ方が違うからである。
①説明文の要旨
説明文は、〈序論〉の問題提示を受けて〈本論〉で具体的に答え、〈結び〉で抽象的にまとめる。したがって〈結び〉を要旨にすることが多いが、その要旨では内容の具体がわからないことが多い。〈本論〉の叙述こそが具体であり、説明文の要である。したがって説明文は、問題提示に対して〈本論〉で述べている具体的な答えを要旨とする方がよい。
②論説文の要旨
論説文は、筆者の考えを主張する文章である。したがって筆者の考えを読み取ることが重要である。筆者の考えは、叙述のタイプによって、最初に示されることもあるし、最後に示されることもある。どこに、どのように示されているのかを読み取ることで、要旨をまとめることができる。