しっかり生きて
地面を打つ雨の音。繰り返す遅延のアナウンス。不満を噛みしめるサラリーマンの足音。
目の前には蛍光灯に照らされた駅のホームと、その奥にネオンに照らされた街が背を伸ばして立っている。コンクリートに落ちた雨が光を反射して、足元に星空がきらめいている。
空は地面とは程遠く真っ暗で、月光がさす隙間もない。あの闇の向こうには燦然たる星々が輝いているっていうのに。
その時、ぼくはこの喧騒の中で宇宙を思おうとしていた。
正確には思うとする瞬間にそのことに驚いて
すぐに思うことは止めたのだが、やはり駅のホームからブラックホールのある世界を考えていた。
できるだろうか。
暗すぎて前だけじゃなく、自分さえも見えない暗闇の中で
雷雨が過ぎ去った後の、葉の瑞々しさを。
できるだろうか。
世を呪い、人を呪い、自分さえも呪う夜に
心から笑える日を想像することが
世界を飛んで回った写真家の石川直樹は言った。
現実に何を体験するのか、どこに行くのかということはさして重要なことではないのです。心を揺さぶる何かに向かい合っているか、ということがもっとも大切なことだとぼくは思います。
だから、人によっては、あえていまここにある現実に踏みとどまりながら大きな旅に出る人もいるでしょうし、ここではない別の場所に身を投げ出すことによってはじめて旅の実感を得る人もいるでしょう。
どうか、きますように。
晴れ渡る空の下、友達と家族と心から笑える日が、きますように。
あの太陽に届くぐらい大きな声で笑える日が、きますように。
そしたら、今日のことはすっかり忘れてしまおう。
うん、きっとそれがいい。