小説:「僕と姪の梅しごと」(最終話 梅ジュースを飲もう)
その日から、お風呂上がりには毎日一緒に瓶を揺らす母娘の姿があった。
「おいしくなぁれ」
「おいしくなぁれ!」
梅シロップを漬けた日、仕事から帰って来て果歩から話を聞いた姉さんは、懐かしいねと言って笑った。そして自分のために梅シロップを用意した優しい娘をギュッと抱きしめた。ママ、梅ジュース大好きなんだよ、ありがとう、と。
氷砂糖が溶け出した梅のエキスでほんのりと色づいていく。日に日に様子を変えていく梅シロップを見ながら、期待が膨らんでいく。僕たちだけではなく、姉さんとも一緒に作っているということが果歩にとって何より嬉しいのではないだろうか。
十日目のお風呂上がり、いつものように、呪文のように口ずさみながら瓶を揺する果歩。氷砂糖は完全には溶けきっていないが、色が変わってシワシワになった梅とほんのり色づいたシロップが瓶に溜まっている。カレンダーに印をつけていたので、今日が十日目だということがわかっているのか、果歩もなんだかそわそわしていた。
「さあ、ちょっと味見してみよう!」
「やった!」
保存容器から少しだけコップに注ぎ、用意していたミネラルウォーターで割る。氷を入れたグラスに注ぐとほんのりと梅の香りが漂った。
果歩、姉さん、僕、そして両親と5つを注ぎ終えて、それぞれに配った。
「よし、みんなでいただきます」
「いただきます!」
口の中に爽やかな酸味が広がる。甘さもスッキリしていてお風呂上がりの少し火照った身体に染み込んでいくようだった。
「どう?」
「美味しい!」
姉さんが尋ねると、果歩がにっこりと笑う。
「ママは? ママも美味しい?」
そうだ。今回は果歩が姉さんのために作ったのだった。
姉さんはゆっくりともう一口飲んだ。同じようににっこりと笑う。
「もちろん、美味しいよ。ありがとう」
(完)