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親愛なる家族へ

親愛なる家族へ

僕は家族の事を”親愛なる”と言って良いのでしょうか?


僕の親愛なる家族は、少し謎が多い。
まず、おじいちゃんとおばあちゃんが3人いる。
どう見ても多い。

僕がその異変に気づくのは小学校に行き始めてからだった。
夏休みが終わって二学期が始まると、教室のあちらこちらで帰省した祖父母の家の話が聞こえてくる。僕も帰省しているので、そんな話の輪の中にいるのだが、みんなの話を聞いていると、どうやらみんなは、父親の祖父母の家か母親の祖父母の家に直接帰っているのだ。

僕の場合はまずどちらでもない祖父母の家に帰省する。

そこから、父親の祖父母の家に挨拶に行き、そしてどちらでもない祖父母の家に一旦帰り、一泊して、次の日に母親の祖父母の家に挨拶に行ったりしていた。

僕には父方と母方の祖父母をつなぐ、ターミナルのような第三の祖父母が存在して、僕のエピソードに出てくる”おじいちゃん”や”おばあちゃん”は大概がそのターミナル祖父母のことだ。

週末の土日に帰省する時なんかは、ターミナル祖父母の家だけに帰ることも多い。
驚くべきことに、僕は父親と母親の祖父母の家に遊びに行っている時はずっと緊張していて、早くターミナル祖父母の家に帰りたいと思っている。

なぜこんなことが起こっているのか?
僕は両親に怖くて聞けなかった。

そして両親もまた僕にそのことをいちいち説明することはなかった。

それからと言うもの、田舎へ帰る度に笑顔で迎えてくれる、あの優しいおじいちゃんとおばあちゃんは誰なんだと思いながらお世話になっていた(好きだけど)。

年末年始。またターミナル祖父母の家に帰省した。
いつものように優しい。

正月になると、家の前にある大きな庭にたくさんの車が停まる。ターミナルおじいちゃんに新年の挨拶をするために他府県からぞろぞろとやってくるらしい。もう怖かった。何も知らない時はこの光景を見て引っ掛からなかったけど、ターミナル祖父母だと知ってからは、すごく怖かった。

そのまま墓参りをした。
ご先祖さまに新年の挨拶をする。

自分たちの墓は、自分たちの所有している山の中腹にある。
昔からの集落で、ここら辺の墓は霊園ではなく、裏山などにある場合が多い(僕の田舎は京都丹波の山の奥の方)

まだ幼い僕はどの墓が誰かはよくわかっていなかった。
けれどこれらがご先祖さまなんだと思って、線香をあげていた。
両親も僕に説明をしない。僕は特にどの墓が誰の墓か聞くこともなく、いつもたくさんの大人の後に並んで、見よう見まねで線香をあげた。

ある時、理由を聞いた。
それはいつか聞こう聞こうと思っていたタイミングではなく、なんとなくの家族の会話の中で聞いた。

僕「なんでうちにはおじいちゃんとおばあちゃんが3人いるの?」
おとん「おじいちゃんとこは子どもがおらへんかったんや。だからそこにお父さんとかが入ったんや」

どうやら養子だったらしい。
そういうことだったのか。

とにかく謎は解けた。
なんか憑き物が取れたような、そんな感覚さえあった。

しかし、まだ親愛なる家族の秘密は終わっていなかった。

免許を取ったばかりの時、
大好きなターミナルおばあちゃんをドライブに連れて行こうと2人で出かけたことがある。

その時に、ターミナルおばあちゃんの薬指には綺麗な指輪が光っていた。
僕はふと聞いた。
僕「おばあちゃん。そういえばおじいちゃんとはどうやって出会って、どうやって結婚したの?」
おばあちゃんは照れ臭そうに笑っていた。
そして僕にこう言った。

ターミナル祖母「それは秘密や」

僕はなんだがそれが2人だけの思い出のようで、とても温かい気持ちになった。

だからそれ以上は聞かなかった。

おじいちゃんは僕が小学2年生の時に亡くなった。
戦争に行った後遺症で脳梗塞になり、最後にはそれが原因で亡くなった。

そこからはおばあちゃんが1人で航空写真も取ったことのある大きな家に住んでいた。当たり前かも知れないけれど、おじいちゃんとの指輪をずっとしていた。そんなおばあちゃんも90歳で亡くなった。

そしておじいちゃんのお墓の横に、おばあちゃんの墓を置こうとした。
けれど、おじいちゃんのお墓の横には、すでに一つお墓があった。

おかんに聞いた。

僕「このお墓は誰のお墓?」
おかん「おじいちゃんの最初の奥さんのお墓」

僕の知っているターミナルおばあちゃんは、ターミナルおじいちゃんの再婚相手だった。

あの時した僕の質問に答えなかったのは、そういう理由があったのかもしれない。そんなおばあちゃんが亡くなって、葬式が行われることになった。

葬式の時、参列者の前で挨拶する1人の女性がいた。
園部のおばちゃんだ。

園部のおばちゃんとは、よくターミナル再婚おばあちゃんの家にきたり、またはこちらが園部のおばちゃんの家に行くことがあったので、とても仲が良くて、僕も好きなおばちゃんだった。(園部とはおばちゃんが住んでいる地域の名前)

そしてとても快活で、はっきりと物事を言うところも好きだった。
そんな園部のおばちゃんがみんなの前に立って何を言うのだろうか。

園部のおばちゃん「皆さん。今日はお集まり頂きましてありがとうございます。きぬえ(ターミナル再婚おばあちゃんのこと)の妹です」

園部のおばちゃんはおばあちゃんの妹だった。
全然知らなかった。あんなになんでもはっきり言うのに。

だから家にも頻繁に来ていたし、僕らが遊びにも行ってたのか。
しかし、なぜ誰も言ってくれなかった。親戚的な紹介をされたことは覚えていた。うちの両親は養子だから親戚的な感じで紹介してしまったのか。
本当に僕は親愛なる家族のことを何も知らない。
誰かちゃんと教えて欲しい。

僕が20歳の時に、兄は結婚した。
京都の人間らしく、平安神宮で式をあげた。

僕は呼ばれなかった。
なぜなら僕はその時カナダに大学に留学していたからだ。
その期間は10ヶ月だけだったのに。

待てたんじゃないだろうか。。。

そして、僕も昨年結婚して、今年式をあげる。
それは京都ではないけれど、田畑家のグループLINEでは結婚式に向けて、色々と話が続けられている。

様々な家のしきたり的なことは兄が一手に引き受けてくれるそうだ(なぜなら兄は京都に住んでおり、比較的両親と直接コンタクトも取りやすいからである)。ある日、兄からこんなLINEが来た。

兄「ゆうの式は、お兄ちゃんの時みたいに50人ぐらい血族を集めるのは時代的に違うんじゃないかな?ゆうも嫌やろ?当日初めて見るような顔ばっかりの人に挨拶して回らなあかんの」

俺の家はどうなってるんだ。
どんな血筋でどんな歴史があって、どんな規則がある家なんだ。

全然わからない。

今年の正月、久しぶりに実家に帰った。
その時に、ターミナル再婚おばあちゃんが、実はおばあちゃんではなく、僕の母親のお姉ちゃんだったことを知る(衝撃だった)。

2025年2月。
僕は今ここにいる。

親愛なる家族へ。

僕は”家族のこと”をまだ知リません。
僕はそんなまだ良く知らない家族のことを”親愛なる”と言って良いのでしょうか?

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