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【岩手へひとり旅】SL銀河で宮沢賢治の旅

ずーっと乗りたかったSL銀河についに乗れた。

SL銀河は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を旅するような憧れの列車。来年の3月で終わってしまうため、この夏にはどうしても乗りたかった。

なんとか取れた予約は日曜の朝に釜石から乗って、遠野で降りるもの。

それならばと、三陸鉄道に一日中乗るのは前日の土曜にして、その晩は釜石に泊まることに。SLを遠野で降りたあとは遠野を観光して泊まることも決めた。花巻観光は最終日にして、そこから新幹線に乗って帰ろう。いつも旅の日程はパズルみたいに決まっていく。

土曜夕方、釜石駅に直結したホテルに入り、部屋の窓から駅を見ると・・

「えっ、…」

私が明日乗るSL銀河の車両が、右からしずしず入線してくるのが見えた!

なんというタイミング、なんという可愛さ! 車両は私の窓のすぐ下に泊まり、一緒に翌朝を待つことになったのだ。これ以上ない最高の風景だった。

そして迎えた朝。気持ちが急いてしまい、早めにチェックアウトをして釜石駅で待機していると、次々乗客たちが集まってきた。

子ども連れや夫婦連れ、鉄道オタクっぽい人たち、賢治好き(文学好き?)らしい女性ひとり旅の姿もあった。電光掲示板にSL銀河の名前と発車時刻が映し出されると、わっと動いてまずは一枚とおのおの写真を撮りだした。

それにしても今回の乗車は、賢治大好きで列車大好きな私は2倍楽しめるのが幸せだ。

ホームに入り、車両に乗り込み、発車までの時間に4両すべての隅から隅までを観て回る。レトロな空間には作品の絵本やパネル、グッズが並び、懐かしい気持ちでいっぱいになる。

一番好きな作品『雪渡り』の一節が書かれてあり、思わず目頭が熱くなった。それは人間の兄妹を招待した狐の紺三郎が狐のみんなに言った言葉。

「みなさん。今晩の幻燈はこれでおしまいです。今夜みなさんは深く心に留めなければならないことがあります。それは狐のこしらえたものを賢いすこしも酔わない人間のお子さんが喰べて下すったという事です。そこでみなさんはこれからも、大人になってもうそをつかず人をそねまず私共狐の今迄の悪い評判をすっかり無くしてしまうだろうと思います。閉会の辞です。」
 狐の生徒はみんな感動して両手をあげたりワーッと立ちあがりました。そしてキラキラ涙をこぼしたのです。

こういう深いことを狐に言わせる賢治の発想のすばらしさ。切ないまでに優しい世界観。

あらためて、すごいなあと感動・・。

そして列車内の小さなプラネタリウムは小宇宙を浮遊している感覚だった。ほんの短い時間でも大満足。

翌日には花巻でさらに賢治のふるさとに触れるのだが、SL銀河での限られた時間と空間の経験は旅でいちばん印象深いものになった。