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【山形へひとり旅】観光列車海里のコンパートメントのメンツを予測してみた。

雪の庄内地方をめざして、観光列車の海里(かいり)に乗った。

大人の休日俱楽部パスは東日本の列車が新幹線も含めて乗り放題。まだ乗ったことのない日本海沿いを走る海里に乗ろうと、予定の3週間前に席を取ろうとしたらすでにいっぱいだった。

「残念…!」
と言いつつ諦めきれず、1号車から4号車の席を繰り返し眺めていると、ふとコンパートメントに一席空きが出た。

「やったー! 取っちゃおうか! …でもコンパートメントか…」

コンパートメントは半個室の4人用の席で、仲間や家族で乗るには最高の空間だ。通路からも軽く仕切られ、テーブルもあって、足元のパーツを伸ばせば、靴を脱いで居間のようにゆったり過ごせる。
だが、ひとり旅の身にはハードルが高い席である。万が一盛り上がっている3人様の中に一人だけで居ることになったら辛いものがありそうだ。

「どうしよう。どんな人と一緒なのかな…」

ポツンと空いている一席は、進行方向に向いた通路側のC席。私は先に席を取った3人がどういう関係なのかを推理してみた。

まず、もし2人組なら、恐らくは並びのA席とC席を取るはずだ。なのにC席は空いている。
敢えて向かって座りたい二人もいるかもしれないが、今はコロナ予防のため向かい合う席の間に大きなアクリル板があって話しにくそうだ。誰かがブログに挙げた写真を見ればそれが伝わる。
ということで、勝手な推理では、A席は、最初にお一人様が取った可能性が高い。

「まだ3人組の可能性もあるな…」

が、私は考えた。もし3人組なら、並びのA席とC席、そしてAと向かい側のB席を取るだろう。でないと、他の一人の乗客を3人で閉じ込めることになってしまう。ということで3人で取った可能性は低い。

勝手な推理の結果、先に一人の人がA席を取り、次に、並びがいいという2人組が向かいのB席とD席を取った。そしてC席が残った。ということになった。

「まあ、それならいいか。隣の人も一人だし」

人物像やその場の雰囲気までを想像しながら、私はC席を予約したのだった。あとで自分の推理が当たっているのかを知ることにちょっとワクワクしながら。

そして、いよいよ当日が来た。
私は新潟駅で海里の車両に乗り込むと、まずは車内でしか売っていない加島屋の海里特製弁当を購入した。魚沼産コシヒカリに厚切りの鮭が乗っかったこれを食べるのも実は大きな楽しみだった。

大事なお弁当を抱えて自分の席に行ってみると、まだ誰も来ていない。

日本海を望めるコンパートメントは思ったよりも広く、結構個室っぽさのある空間だった。陸側の通路も大きなガラス張りになっていて景色がよく見えそうで、「○○急行○○事件」の舞台列車になりそうな豪華な感じだ。

ドキドキしながら自分の席に座ると、次々他の乗客が乗って来た。

結局3人は全く他人同士の男性たちだった。少しホッとして、隣のシニアの男性に「よろしくお願いします」と言うと、笑顔で「こちらこそ」と返してくれた。

列車が動く頃には向かいの二人も加わり、なんとなくいい雰囲気になっていた。

ちなみに私の向かいの席の男性が予約をした時にはそのD席しか残っていなかったという。取った日は私より前だった。つまり私が取ったC席はあとで誰かがキャンセルしたものだったのだろう。確かに、あの日予約サイトを見ていたら忽然と現れた席だった。

さてお昼になると4人はそれぞれお弁当を広げた。隣のシニアの方が食堂車に買い物に行き、海里という名前のついたお酒を買ってきてご馳走してくれた。見ず知らずの人におごられてありがたくいただいてしまうのが旅人の特権だ。

「乾杯!!」

私たちは旅に乾杯し、お弁当を食べながら情報を交換しあった。

どこから来てどこへ行くのか。今までどこに行ったことがあるのか。道づれになった者たちの会話は普遍的だ。ちょうど話がなくなる頃に分かれる時間が来るのもいいのかもしれない。

終点の酒田駅に着くと4人は解散し、それぞれの方向に分かれた。

束の間のコンパートメントのふれあいは、私の推理や想像を遥かに超えた楽しいものになったのだった。