私を救うための物語 5

「ソフィア様との婚約を・・・白紙?解消した、ということですか?」
「そうだ」
殿下は冗談でもなんでもなく真顔でそうおっしゃった
理解が付いていけない
そんな展開私は知らない
そんな展開小説には
「もともと、仮の婚約者だった
彼女を私の婚約者として認める声は実は多かったが・・・」
「そうでしょうね、ソフィア様は素晴らしい方ですから、私のような卑しい女とは違います」
「・・・君は、なぜそうも自分を卑下するのか・・・」
殿下は知らない
私は本当は、この先、正気を奪われ、家畜同然の存在にされる、そしておぞましい男の子を孕む運命なんだと言うことを・・・
避けたい、その運命を
絶対に、嫌だ、そんなのは
「あのまま死ねたら良かった」
ぼそっ、と私は思ったことを口にした
「バカを言うな!」
大きな声で殿下が私に言った
「死ねばよかったなど!そんなバカなことを!ステファニー!二度とそんなことは言うな!・・・ステファニー、ステファニー、すまない」
目の前がぼやける
ああ、私泣いているのか
大きな声が、怖くて
「ステファニー、泣かないでくれ、すまなかった、大きな声を出して」
殿下は何も悪くない
「い、いいえ、殿下は何も悪くありません」
悪いのは私の愚かさだから
あの小説の中では、私はとんでもないことをしていた
ソフィアのことは憎いけれど、あんなこと私はしたいとは思わない
でも小説の中の私はそう描かれている
ならやっぱり、悪いのは私なんだ
「悪いのは私です」
「・・・死にたいなどと言ったことについては、確かにそうだな、二度と言うな、ステファニー」
「・・・」
「約束してくれ、二度とそんなことは言わないと」
「・・・はい」
「・・・大きな声を出して、すまなかった」
「いいえ」
私は首を横に振った
それからしばらく、私たちは無言だった
ふと、さっきまでしていた話を、私は思い出した
「殿下、ソフィア様との婚約を解消されたとさっき」
「ああそうだ、解消した、彼女はもう私の婚約者ではない
・・・彼女も納得してくれた」
「・・・」
いけない
それではいけない
「ステファニー?」
「・・・殿下、それではいけません」
「ステファニー?」
「殿下はすでに私との婚約を解消なさいました
そして今またソフィア様との婚約を解消なさる
それは、王となる方のなさることではありません」
「ステファニー」
「一度はいいのです、私との婚約を解消なさることは、一度は、それに私は嘘を言って殿下や騎士の方々に迷惑をかけた女です、私との婚約を解消なさることには何の問題もありません
殿下には何の非もありません
ですが、今回は違います
二度は、王となる者が約束をたがえることが二度あっては、一体どうやってすべての民の上にたち国を治めることができましょう」
「・・・」
「殿下、今一度お考え直しください
ソフィア様は素晴らしい方です
殿下のことを思って行動なさる方です
あの方ほど殿下にふさわしい方はいません
私みたいな女が口出しする資格はないことはわかってます
ですが、臣下としての諫言として、どうか今一度」
「ステファニー、聞きなさい」
「殿下どうか今一度」
「聞きなさいステファニー、聞くんだ」
少し語気を強めて、殿下はおっしゃった
「聞きなさいステファニー」
「・・・はい」
「私はソフィアとの婚約を解消した
もともと仮の婚約者だったので、君が考えるほど深刻な問題ではない
それに、もともとは、君との婚約を解消して・・・いや、私が一方的に破棄して、そのうえでの新しい婚約だった・・・不義そのものだったんだ
私も、ソフィアも」
「ですからそれは悪いのは私で」
「聞きなさいステファニー」
「・・・はい」
「とにかくこれはすでに終わったことだ
私とソフィアの婚約は白紙に戻った
これはもう覆らない」
意味が分からない
小説にはそんな展開はない
この先一体どうなると言うのだろう
「それで、ステファニー、君に王命があるのは聞いているだろうか」
「あ、はい、父から先ほど聞かされました」
「内容は聞いているか?」
「・・・辺境伯との結婚は取りやめになったこと、そして・・・
別の方と、結婚すること」
私は小説の中のおぞましい下賤の男を連想した
体がすくむ
死にたい
でも今度は言葉にしないですませることができた
「相手のことは聞いてないか?」
「はい・・・」
「そうか・・・」
殿下はそう言ったきり、目を閉じた
私は、まるで刑を宣告されるような気持ちだった
意味がわからない
わけがわからない
一体何が起きているのだろう
なぜソフィアとの婚約を殿下は解消し、ここに、私にわざわざそれを言いに来たのだろう
なぜ、辺境伯との結婚が無効になったのだろう
なぜ、そんな王命が出たのだろう
なにもかもがわからない
「・・・ステファニー、君の結婚相手だが」
「・・・」
聞きたくない
おぞましい男の姿が浮かぶ
聞きたくない
「私だ」
「え?」
「私が、君の結婚相手だ、ステファニー」
「え?」
殿下が何を言っているのか、私には理解できなかった
意味がわからなかった

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