私を救うための物語 4

「やあ・・・ステファニー」
ご無事な姿のビンセント様が、私の名を呼ぶ
すぐそこにいらっしゃる
ご無事で良かった
そう思うと同時に、このまま死ぬと思ってビンセント様に言った言葉を思い出す
『大好きです、ビンセント様』
恥ずかしい
そして、ビンセント様、いいえ、殿下はどう思われたろう
きっと迷惑に思ったに決まっている
あの時はもう二度と言えなくなるそう思っていったけれど、私は舞い上がっていた
舞い上がって・・・
「ステファニー」
ビンセント様の声
「あ、はい」
応える私の声が震えてるのが自分でもわかる
ベッドから起きないといけない、と今更ながらに気づく
「おい待ちなさいステファニー」
「お父様」
「無理してはいけない、殿下、娘はまだ」
「ああわかっている、侯爵、ステファニー、そのままで動かないでいい」
「ですがこれでは」
「いいから動くな」
「・・・はい」
不敬だ
ベッドに横たわったまま殿下のお話を聞くなど
でも
「動かないで、いいねステファニー」
そうして王族から再度言われて、従う以外何ができるだろう
「はい・・・」

「では殿下、私はこれで」
「ありがとう侯爵」
「お父様待ってください」
「ステファニー、あとは殿下が教えてくださるよ、安心しなさい」
そう言ってお父様は部屋に私と殿下を残して出ていった

「・・・」
「・・・」

殿下は、難しそうな顔をしていらっしゃる
私は、殿下から発言を許されているわけではないので、何も言えない
私は少しうつむきがちになった

「ステファニー」
「はい」

呼ばれてぱっと顔を上げる
私のそんな様子に殿下は少し笑った、そんな気がした
私は泣きたい気持ちだった
殿下のお話がなんなのか、考えるのが怖かった

「ステファニー・・・震えているが・・・」
「・・・申し訳ありません、殿下」

震えが止まらない
涙が

「ステファニー」
殿下が、私の手にそっと触れた
「いや!」
私はその手を、払いのけた
「・・・」
殿下が、なんだか傷ついた顔をなさった
「申し訳ありません殿下」
「・・・君の手に、触れていいだろうか?」
「・・・はい」
もう一度、殿下が私の手に触れた
あたたかい大きな手
大好きな人の、手
「・・・私が触れるのは、いやだろうか?」
「いいえいいえ、違いますこれは、これは」
「これは?」
「これは・・・怖いのです」
「怖い?私が、怖いのか?」
違う
殿下が怖いのではない
これから殿下が口になさるであろうこと
それはおそらく私の未来
王命が下ったと言う父の言葉、それが本当なら、私はきっと・・・
小説の中の私の末路を思い出す
怖い
怖いし、それを殿下の口から聞かされるのは、もっと怖い
畜生同然になる私の末路を、殿下に知られるのが怖い
殿下に一顧だにされなくなる末路が、怖い
「私が怖いのは、私の未来です」
「・・・」
「私に下される罰が、怖いのです」
「・・・罰?なんのことだ?」
「・・・」
「君は何の話をしてるんだステファニー?」
「・・・王命が下されたと」
「ああもちろんそうだ、それを君に伝えたい、この間も、王命ではないが、君に言いたいことがあって、だが君は聞こうとしなかった」
「・・・」
「君は誤解していた、あの時、そして今もたぶん、誤解している
君に罰など下されてはいない
王命は、私から父に願い出たものだ」
「・・・殿下は、一体なんのお話を今されているのですか?」
「それは・・・いや、まずこの間、君に言おうとしたことを先に言おう」
「・・・!」
「聞きなさい、ステファニー」
殿下がぐっと私の手をつかんだ
逃げられない
逃げようがないけれどますます逃げられない
「聞きなさいステファニー」
「はい」
「私は、ソフィア・グレゴリーとの婚約を白紙に戻した」

え?

「え?」
「私は、ソフィア・グレゴリーとの婚約を白紙に戻したんだよ、ステファニー、それをこの間君に言おうとしたんだ」

殿下が何を言ってるのか、わからない
なんでここでソフィアとの婚約を白紙にするなんて話が出てくるのだろう
そんな展開、小説にあったっけ?


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