私を救うための物語

「うそ、私、ステファニー・グロッサムに転生してる!
あのクソアマビッチに!
こ、このままじゃ私正気を失って畜生同然の存在にされてしまう!
幸いまだソフィアは登場してないみたい、今のうちになんとかしよう」

「婚約を解消しましょう、殿下」
「え??ステファニー??」


「王妃様、私は殿下にふさわしくありません」
「何を言うのステファニー」
「私の決意は変わりません
殿下には、ふさわしい運命の相手が現れます
その方のお力になっていただけたらと」


「すみませんでした、団長様」
「あなたの謝罪を受け入れましょう・・・子供のしたことでしたし、しかし、なんであんな嘘を言ったのです?」
「・・・」
「グロッサム嬢?」
「・・・それは、言えません、自分勝手な理由ですから・・・ただ、悪いのは私です、殿下も、あなたも、何も悪くありません」
「・・・」
「本当に、本当に申し訳ありませんでした」


「聞いたわステファニー、幼いころあなたがついた嘘
あなたが流した噂」
つらい
私がしたことじゃないのに、辛い
ああそうか、ステファニーは本当に王妃様を好きだったんだ
王妃様を本当に慕っていたんだ
だから、辛いんだ
「ステファニー」
「いかなる罰もお受けします、王妃様」
そうだ
どんな罰も受けよう
小説の通りの結末になってもいい
それが大好きな人たちに嘘をついた私への罰なら
「ステファニー、私を見なさい、私の目を見なさい」
「・・・」
「教えて、どうして、あんなことをしたの?」
「・・・」
「教えて」
「・・・殿下を、お守りしたくて」
「ビンセントを?」
「殿下を、守ろうと、思って」
目の前がぼやけた
海に溺れるように
涙だだと気づいたときには、抱きしめられていた
王妃様に


「・・・殿下」
「ステファニー」
「なぜ、ここに?」
「母に言われてここにきた
君が私の噂を流していたこと
嘘をついていたこと」
「・・・」
「それでも、君の口からきけと、母は言った」
「・・・」
「そしたら、婚約解消を認めると」
「・・・」
「ステファニー、話してくれ」
「承知しました、最後まで迷惑をかけてすみません
・・・私は、あのとき、殿下をお守りしたくて、嘘をつきました」
「私を守る?」
「はい」
「噂もか?」
「はい」
苦しい
きっとこれはステファニーの気持ちそのままなんだわ
元のステファニーの気持ちが、私に流れ込んで
「ふざけるな、婚約解消?そんなもの許せるか?婚約破棄だ!
ステファニー・グロッサム、二度と私の目の前に現れるな!」
「は、はい・・・」
こんな
こんな悲しいなんて
ステファニー
あなたは本当に、ビンセント様が好きだったのね





「あんな、低位貴族に嫁ぐなんて、何を考えている」
「ビンセント様」
「君のような高位令嬢が、あんな年上の、あんな低位貴族に嫁ぐなんて」
殿下は知らない
『うそっ、侯爵令嬢を押し退けて王子の婚約者(仮)になった女に転生?―しかも今日から王妃教育ですって?―』の中では、ステファニー・グロッサムは正気を失い畜生同然の存在にまで堕とされた
それに比べたら低位貴族だろうとはるかに年上だろうと天国であることを
「なぜ君はそんなに婚姻を急ぐんだ」
「・・・」
「ステファニー、私は別に、そんなことをしろと言った覚えはない」
「・・・これでいいのです、殿下
もう二度と、殿下の前に姿を現すことはしません」
「え」
「どんなことがあっても、二度と、殿下の前に姿を見せることはしません」
「・・・私を、憎んでいるのか?
君を罵った私を、憎んでいるのか?」
「憎む?私が?殿下を?」
「・・・」
「私が、どうしてそんな」
「私は君を裏切った
ほかの女と婚約をし直した
憎まないはずがない
私はそれだけのことをした」
ああたしかに、ソフィアのことは憎い
小説を読んでいたときはそんなことわからなかったけど、ソフィアはそれだけのことをしてるんだ
前世の記憶が戻ろうと戻るまいと、略奪することを嫌ってようといまいと、ソフィアは本当は最悪なことをしていたんだ
ステファニーがソフィアを憎むのは当たり前なんだ
小説を読んでいるときにはわからなかった
ステファニーはソフィアが憎い、そんなの当り前だ
ソフィアはそれだけのことをしてるんだから
でもステファニーは、愛してる
殿下を、愛してる
「・・・私が、私が殿下を憎むことはありません
殿下を私が憎むことなんか、絶対に」
泣かないで
泣かないでステファニー
泣かないで
「ステファニー」
「だって私は、私は、ずっと殿下を、ずっと殿下を、好きだったから
私が殿下を憎むことは、ありません」
ステファニー
ステファニー
あなたは
あなたはこんなに
こんなにも
「ずっとお慕いしておりました、殿下」
涙が止まらない
殿下、申し訳ありません
最後の最後にこんなみっともない姿を見せて
ああ、私は今、前世あの小説の読者だった女なのだろうか?
それとも、ステファニー・グロッサム侯爵令嬢本人なのだろうか?
わからない、どっちなのか
ただわかっていることがある

ステファニーが、本当に、殿下を愛していたこと
今も好きなこと

そして私が、あの小説を読んでステファニーを嘲笑うことをしていた私がどんなに愚かだったかということ

私はステファニーを何もわかっていなかった
あんな描き方をされることを彼女が喜ぶはずなんかなかった
なのに私はあの小説をそのまま信じた
ステファニーを自分と同じ人間の女性とみなさくなっていた

ああ
ああごめんなさいステファニー
ごめんなさい

あなたはこんなにも、こんなにも傷ついていたのに
こんなにも、ビンセント殿下を愛していたのに
私は何もわかっていなかった
何も
何もわかってなかった

ごめんなさい
ごめんなさいステファニー

あなたに、ステファニーになった今の私にはわかる
あなたがちゃんと人間であること
ちゃんと一人の女性であること
そして、ずっと殿下を愛してきた一途な少女であること

やっと、やっとわかった
やっとわかったわ、ステファニー

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